通りたければ倒していけ
「あ、敦くーん、おかえりー」
「…太宰さん、ただいま戻りました」
任務から探偵社に戻れば、そこには太宰さんしか居なかった。ほかの皆さんはそれぞれ非番と任務と買い出しらしい。いつもなら事務の人もいるはずだけれど、今はいなかった。クルクルと椅子を回転させて遊んでいる太宰さんは、少しだけ不機嫌そうだ。どうしたのだう。
「今まで何してたの?」
「え?任務ですよ?」
突然何を云いだすんだ、この人は。今日は任務が入ってるって後ろの連絡事項が書かれた紙に書いてあるし、確か昨日もこれについての話題を話したはずだ。
「1人で?」
「いえ、先刻まで与謝野女史と一緒だったんですけど、用があるらしくてそこの本屋で解散したんです。しばらくしたら来ると思いますよ」
「ふーん、芥川のところね」
「は?」
今の話聞いてたのか、この人は!?
最近こう云う訳の分からないことばかりを云うようになった太宰さん。いやね、何かある度に「芥川」と口癖のように必ず出てくる。与謝野女史が云っていた。まるで下の兄弟ができて急に幼児退行する子供だと。国木田さんも云っていた。娘を嫁に出したくない父親か、と。本当にその通りだと思う。最近のことを思い返せばまるでストーカーのようにいつでも出てくる太宰さん。正直そろそろ疲れた。
例えばあの日は、普通に家に帰ろうとしていただけなのに数メートル後ろを着いてきたので「どうかしたんですか?」なんて聞けば「芥川に逢いに行くんでしょ?」と云っていた。またある日は、買い物をして帰っただけなのに買い物袋を見て「まさか、芥川に手料理!?許さないよ、敦くん!」なんて云って、遂には家でご飯を食べて行った。親と云うよりストーカー。まるでストーカーじゃない。最早、完全にストーカーである。探偵社の方々も呆れたようにこちらに視線を送ってくる。誰かどうにかしてくれと云いたいが、誰かに云ってどうにかなるなら、もうとっくにそうしているだろう。
「太宰さん、流石に執拗いですよ」
「……だって」
「いや、だってじゃなくって…」
「だって、…邪魔したいんだもん」
「いや、最低ですか!」
いや、邪魔したいって本当に最低だな。しかも語尾に「もん」って可愛くない。太宰さんは拗ねたような顔でこちらを見やるが、そんな顔をされても困る。この雰囲気からまるでこちらが加害者のような構図になってはいるが、あくまでこちらが被害者である。
「…はあ、分かったよ。もう口は挟まないから」
「………本当ですね?」
「心外だなあ。私が嘘をつくわけないだろう」
「………」
あの、それには肯定できないです。と微妙な顔をしながらも、こう云っているのだからもう訳の分からない事を云われたり、付き纏われることは無いだろうと安心していた。
しかし、
たまたま帰り道に芥川と出会った時のことだ。同じヨコハマに居るのだからたまたま会うことも普通に有り得るだろう。まあ彼はポートマフィアであるから、あまり会えそうなイメージはなかったが。
特にいつも通りお互い一言二言交わして歩きだそうとした時だ。
「…っ」
「……どうした?………太宰さん」
突然後ろから誰かに腕を引かれる。焦りながら振り返ればそこに居たのは太宰さんだ。芥川もほぼ同時に振り返って僕の腕を掴んでいる太宰さんを見た。
「あの……この前もう付き纏わないって」
「誰がそんなこと云ったんだい?」
「は?」
「私は"口は"挟まないと云ったんだ」
つまり____、口は挟まないが物理的に邪魔はすると云うことか。不敵に笑ってそう云った太宰さんに最近のことを聞いていた芥川はいつもと打って変わって冷たい視線を太宰さんち浴びせる。そして僕の掴まれていない方の腕を掴むとグイグイと強い力で引っ張った。
(……)
(……)
((…無言が怖い))
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リクエストありがとうございます!ちょっと短いですがこのリクエストを貰った時に思いついたのはこれだったという。長々と回想を書くよりこれくらいの文量の方が逆に邪魔したい感が出たのでこんな感じです。面白いリクエストありがとうございます!
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