取り敢えず抜け出したい


「ぎゃああ!太宰さん!何やってるんですか!」

僕は慌てて彼の自殺を止めた。
今日、これで3回目である。


今日も今日とていい天気だ。
ここ最近はあまり天気が崩れることなく、晴れの日が多かった。
特に今日は日差しがいい感じに暖かく、過ごしやすい。
そんな日に舞い込んだ依頼。
内容はそこまで難しそうなものではなかった。
しかし、異能力関係ではあるのは分かるのだが、所々が曖昧で探偵社のみんなはどうしたものかと云っていた。
こういう時に限って、頼みの乱歩さんがふらふらと何処かへ行ったっきり帰ってこないのだ。
もし何かがあれば太宰さんの異能力で解決出来るのではないか、ということでこの件は太宰さんに任せられた。

当の本人は、

「えー?私かあ、いいよー」

と軽い返事をした。
そして依頼に向かう時、何故か僕の首の根っこを掴み歩き出した。

「国木田くん、敦くん借りるね」
「ちょ、嫌ですよ!離してください」
「おー、行ってこい。決して問題は起こすなよ」
「はいはい。任せてくれたまえ」
「く、国木田さーん」
「……」
「そ、そんなあ…」

国木田さんに助けを求めれば、気の毒そうにこちらを見たあと行ってこいと云わんばかりにふらふらと手を振った。そしてすぐに"理想"と書かれているそれへと視線を移してしまった。
う、裏切られた、ずるずると引き摺られながらそれを見つめ僕は落胆した。


まあそんな感じで依頼に強制的に連れて行かれた僕は、自殺を試そうとする太宰さんを精一杯止める。
依頼の途中に2回、そしてどうにか終わった依頼の直後に1回。
心も体も疲れた僕はもうやめて下さいと叫んだ。
まあ、彼が聞くとは思わないが…。

なんて考えながら、太宰さんの後ろについていく。
あとは探偵社へと帰り、報告しなければならないわけで…。
そんな時突然太宰さんは大通りから外れた小道に入った。僕も一緒について行く。
一体どうしたのだろうかと思い、口を開いた。

「あの…どうしたんですか?」
「ここは人通りの多いさっきの通りを早めに抜けられる道でね。仕事とかで急いでる会社員や学生がよく利用するのだよ」
「知る人ぞ知る時間短縮するための抜け道ってことですか…って僕の話聞いてます!?」

自分の問いとは全く関係の無い答えが返ってきたので、本当にびっくりした。
彼は遂に会話すら出来なくなってしまったのだろうか?とか何とか思わず考えてしまう。
そんな僕に気付いているのか、気付いていないのか、それとも敢えて無視しているのかは知らないがせめて何か返してくれてもいい筈なのに…。
若干呆れ気味でそう思考しつつ、少し進んだところで立ち止まる彼に倣い僕も立ち止まる。

「ところで敦くん」
「はい、なんですか?」

名前を呼ばれたので、彼を見上げる。
こちらを見やる彼は何時もとは少し違っていた。

「どうやら私達はつけられていたみたいだ」
「…は?」

彼の言葉に変な声が出る。
つけられている、詰まりは尾行されているということ。そう認識した時、此方に誰かが駆けてくる音がした。
慌てて振り返れば、迫ってくる二人の男がいる。
狭い小道のためどうすればいいのか、あたふたしている僕。そんな僕の袖を太宰さんが引いた。
そして太宰さんが僕を庇うように前へと出ようとしたのだが…、ピタリと二人の男のうちの一人が僕にほんの少しだけ触れた時それは起きた。

ガチャンッ

「…っ…!」
「…なっ!!」

突然目の前が暗くなったかと思えば、まるで鍵のかかるような音が響いた。
慌てて手を伸ばすが暗闇の先は硬い壁の様なもので遮られている。
これは一体どういうことだと思いながら、彼の名を呼んだ。

「だっ、太宰さん」
「ん?なんだい敦くん」
「……へ?」

自分一人で閉じ込められたのかと思っていた為、彼の声が聞こえて素っ頓狂な声を上げた。
肩に何かが触れる。
そこへと触れれば冷たいものがあった。
それが太宰さんの手だと分かり、彼が思ったよりもすぐ近くにいたことを認識する。

「いやあ、ここは暗いねえ。どうやら箱みたいなものに閉じ込められてしまったみたいだ」

と、何やらぶつぶつと云う太宰さん。
つい先程までは確かにあの小道にいた筈だ。
なのに突然こんな所に閉じ込められたと云うことはつまり…、

「これって異能力ですよね?」
「恐らくね」

それを聞いて考えたのは彼、太宰さんの異能力だ。
彼の異能力『人間失格』は触れた異能力や異能者に触れれば消えるのだと聞いた。

「じゃあこれって消せますよね」

と僕が尋ねれば彼は少し何かを思案するかのように、間を開ける。
そして、口を開いて云うには、

「それがだね、敦くん。消すわけにはいかないんだ」
「…え?消すわけはいかないって…どういう…」
「それがついこの前、探偵社に舞い込んで来た依頼があってね。」
「え、そうなんですか?」

それは初耳だ、と彼の口から続く言葉を聞く。

「ここら付近で謎の箱のような所に閉じ込められる、という事件が数件起きててね。これが謎でどういったものが分からないから調査してくれと云われたんだ」
「調査ですか?」
「うん。先日もこの辺に来たんだけど何もなくてね。暇だったから自殺…おっと何でもないよ。まあ兎に角これはまだ消せない。暫く様子を見ようか」
「…はい」

あれ?今なんか暇だから自殺とか聞こえてきたんだけどとか思いながらも、はいと頷いた。
そんな訳で様子見をすることとなった僕達。太宰さんは予め用意していた手袋をしたらしい。
手袋をしていれば異能力が発動しないのかは知らないが、まあそれは置いておこう。

「これ、どうするんですか」
「うーん、どうしよう」

ここに閉じ込められて数分が経つ。
特に何も起こることなく、相変わらず暗いままだった。この空間は思ったよりも狭くて少し動いたら太宰さんに触れてしまう。だから出来るだけ触れないような絶妙な位置を保ちつつ、会話をする。

話のネタも無くなり沈黙が訪れる。
はぁと溜め息をつきそうになったその時、真っ暗だった筈のこの空間に光がついた。

「…ひっ」
「……これは…」

あまりに突然だったので、情けない声がでてしまった。すぐそこにいる太宰さんは、そんな僕には目もくれずある一定の所を凝視している。僕もそちらを見やる。
視線の先には白塗りの壁がある。
そこに大きく文字が映されていた。

「なんですか、これ?」
「どうやらこれをしないと出られないみたいだね」

そこに書かれている文字の最後には「出られない箱」とある。つまりだ、ここに書いてあることをしないと出られないというわけで…。
僕は改めてそこに書いてある文字を読んだ。


◇◆◇

ここまでが共通のストーリーです。
この先はお題ごとに分かれています。
結構おかしな点がいっぱいあります。
また矛盾点も多数あると思います。
こんなのでも良いという方を推奨いたします。

◇◆◇


異能力を使わないと出られない

「異能力を使わないと出られない…?」

そこに書いてある言葉を声に出して読んだ。
僕は書いてある通り「月下獸」と異能力を使う。
取り敢えずは手だけ虎化(?)してみた。

「…あれ?」
「何も起きないね…。私も使った方がいいってことかな?」

一人だけではなく二人が使わないと出られないのかもしれない、と云う仮説を立てて太宰さんは先程着けた手袋を外した。
それを横目に、これは異能力持ってなかったら一生出られないんじゃ…という恐怖が走る。本当に僕達で良かったなとも思った。
隣では太宰さんが壁に手をつけようとしているところだった。
あれ?そういえば太宰さんが能力使えば僕が使わなくても出れたんじゃ…とか何とか考えているうちに、箱の中が一瞬光ったかと思えばいつの間にか先程の小道に座り込んでいた。


◇◆◇


ツンデレなセリフを言わないと出られない

「ツンデレってあのツンデレですか…?」
「他に何があると思う?」
「いや、ないですけど…」

目の前に書き綴られている言葉に頬が引き攣る。
いや、ツンデレなセリフってなんだよ…。と思いながら太宰さんに尋ねればニヤニヤと彼は笑う。

「敦くん何か云ってみたまえよ」
「なっ…!嫌ですよ!」

一体何を言い出すんだこの人は…。
何故僕がそんなことをしないといけないのかという表情を前面に押し出しながら彼を見た。

「それにツンデレってどんな感じか分からないし…」

そうポツリと呟けば太宰さんはふむ、と顎に手を当て何かを考えている。

「ほら、例えば…」
「例えば…?」

彼の言葉を復唱しつつ、首を傾げた。
実際、本当にツンデレというものが何なのかよく分かっていないため彼の言葉を待つ。

「そうだねぇ。あなたのこと全然好きじゃないし…、あ、べ、べつに嫌いでもないけどっ…みたいな感じかな?」

太宰さんがまるで役者のようにしてそう云った。なぜ突然演技を始めるのだろうと疑問に思っていると、ガチャンという音がした。

これは真逆…と思っていると一瞬のうちに元いた小道に帰ってきていた。
ふと隣を見ると、失敗したと云わんばかりに手で顔を抑える太宰さん。
そんな珍しい姿に暫くは弄られる側ではなく、弄る側になれるのではと一人心の中で考えた。

「……敦くん」
「はい…?」
「私、ちょっと死んでくるね」

そう云って立ち上がり歩いていこうとする太宰さんの腕に必死にしがみついた。
彼の自殺を止めるのは今日だけでも4回目である。大事なことだからもう1回云う。4回目である。
もうやめてくれという思いを込めて彼の目を見た。

「…じ、自殺はやめましょう!」
「……止めないでくれたまえ」
「で、でもっ!」
「なんだい?私がいないと寂しいのかい?」

疾く帰りたい一心で彼を引き止めているわけだが、何だか色々と勘違いをしているようないないような…。
いやただ面倒なだけだと云おうとしたが、寸でのところで止めて飲み込み新たな言葉を持ってくる。

「べ…べつに寂しくなんか…ないし」

思ったよりも小さな声が僕から発される。
あれ?ちょっと待てよ…、と自分から出た言葉なのに耳を疑う。
あれ?なんで僕、ツンデレみたいになってんだっ…!と焦りながら、太宰さんを見上げる。
そこにはめっちゃいい笑顔の顔があった。
無駄に整ったその顔のその表情ほど恐ろしいものは無い。

「敦くん今のは、ツン…」
「ああ!!何でもないです!川だろうが海だろうが泥水の中だろうが何処へでも行ってください!」

そう云って彼を置いて駆け出そうとするが袖を引かれた。進もうにも進めないわけで…。
ねえ、と呼ばれたのでゆっくりと振り返る。
ああ、嫌な予感…。

「もう一回、ツンデレ見たいなぁ」
「ぜ、絶対いやです!!」

だ、誰か助けてください…!
心の中でそう叫びながら、太宰さんから切り抜ける方法を一生懸命考えた。……まあ無駄に終わったが…。


◇◆◇



ハグしないと出られない

「は、ハグ…!?」
「抱きしめるってことだよ」
「し、知ってます!」

知ってはいるけれど何なんだ、これは…。
ハグしないと出られないとか…出られないとか!!

「敦くん、顔真っ赤だよ」
「気のせいです!」

心做しか熱が集まる頬なんて知らない。
僕は手で顔を隠して太宰さんとは反対方向を向いた。
忘れないで欲しい。
こんな格好をしてはいるし、一人称だって僕ではあるが僕は一応女である。

「ねー、敦くん」
「……」
「おーい、敦くん」
「……」

太宰さんが僕を呼んでいるが、それには答えずただ縮こまる。

「これしないと出られないってよ」
「…うっ」

それは分かっているが、でもハグなんてっ!
そう一人で悶々としていると、フワリと暖かいものに包まれた。

「ひ、太宰さんっ!」
「…ん?なんだい?」

後ろから抱き締められていることに気がついて更に顔が真っ赤になった。

ガチャン、と音がして気がつけば小道に居た。
どうやら出られたみたいだ。
しかし今はそれどころではない。なぜなら未だに抱きしめられたままなのだ。

「…あ、あの…」
「どうしたんだい?」

いや、どうしたんだい?じゃないだろう。
早く離してほしいと云う意味を込めて腕から抜け出そうとするが抜け出せない。
ぎゃー!なんで更に強く抱きしめるんですか!?と心の中で叫んだ。

「…っ……い…!」
「え?今なんて?」
「太宰さんなんて、太宰さんなんて…ううっきら、い!」
「………」

声を振り絞ってそう云う。
勿論、本心ではない。
しかし、彼には相当効いたようでぴしりと固まってしまい、腕の力も途端になくなった。
僕はそんな彼の腕から抜け出すと、一目散に探偵社に向かって走った。
そして、着くとすぐにナオミさんに抱き着いた。いや泣きついた。

「ナオミさん、うわーん!」
「あらあら、どうしたんですか?」
「……ううっ」

真逆先程のことを云える訳もなく首振った。
そんな僕に苦笑いしつつも、僕が落ち着くまで慰めてくれた彼女は本当に女神のようだ。

「そう云えば、太宰は何処だ」

落ち着いたのを確認して国木田さんが私に尋ねる。
太宰さん、太宰さん…。

「…う、ううっ」

思い出したら何だかまた悲しくなってきた。
それを察したのか国木田さんはそれ以降何も聞いてこなかった。

太宰さんが探偵社に帰ってきたのは、日が落ちかけた夕方だった。
その表情はいつもよりも更に笑みが深く、むしろ不気味である。
情緒不安定の僕と気持ち悪いくらいに笑みを浮かべる太宰さんに暫くの間探偵社の皆さんはどうしたものかと頭を抱え、微妙な雰囲気を感じないように振舞った。
一人だけ何があったのかを察した乱歩さんだけがニヤニヤと笑みを浮かべていた。

◇◆◇


10秒間見つめ合わないと出られない

「10秒間?」
「見つめ合う?」

そんなことが書いてあるのでその通りに太宰さんの方を向いた。

「何だか照れますね」
「うん、そうだねえ」

たかが10秒、されど10秒だ。
いつもなら迚(とて)も短く感じはずなのに、何故だか長く感じられる。
じーっと見つめ合うだけなのに何だか気恥しい。
あと何秒こうしていれば良いのだろう、と考えているうちにガチャリと音がして元の場所に戻ってきた。
あれ?意外と簡単だったなと思いながら周りを見回すが先程の男達はいなかった。
これは一体何だったのだろうかと疑問に思いながら太宰さんの方を見る。
彼は相変わらずこちらを見たままだった。
それをぱちぱちと目を瞬かせながら見やり、そして首を傾げた。
すると、何でもないと首を振る太宰さん。
それにそうですか?と返してから空を見上げた。
少しだけ橙色に染まっていた。

「帰りましょう」
「うん、そうだね」


◇◆◇



恋人繋ぎしないと出られない

「はい、敦くん」
「……はい?」

太宰さんが僕に手を差し出した。
彼の顔とその手を交互に見る。
そして最後に壁に書いてある言葉を見る。
改めて見るが、相変わらずそこには"恋人繋ぎしないと出られない"とある。
つまり太宰さんが手を差し出した理由はそう云う事だ。

「ほら、早く」
「……はい」

急かされたので、そっと太宰さんの手を握った。
勿論、恋人繋ぎというもので。
そうすれば、鍵の開くような音がして元の場所に帰ってきた。

「じゃ、帰ろっか」
「え…、あっはい」

歩き出した太宰さんに引かれて歩く。
そう、まだ恋人繋ぎをしたままだ。

「太宰さん…」
「なんだい?敦くん」
「これ、いつまで繋いでるんですか?」
「探偵社に帰るまでとか?」

ニヤリ、そんな風に笑った顔。
ギュッとさらに手を握る力が強くなる。
僕は一生懸命にそこから抜け出そうと奮闘したが、引きづられてそのまま大通りに出た。

「離してください!」
「えー?」

えー?じゃないです!などと云っていると後ろから声がした。それは迚も聞き覚えのある声だった。
バッと音が立ちそうなほど勢い良く振り向けばそこに立っているのは国木田さん。

「お前ら何やってるんだ」
「やあ、国木田くん」

怪訝そうにこちらを見やる彼の視線が僕達の繋いだままの手に動いた。

「……」
「……」
「…邪魔して悪かったな」
「えっ、ちょっと待ってくださいっ…!」

くるりと踵を返し国木田さんはそう云う。
朝のように手をふらふらと振ってそのまま歩いていこうとする彼を止めようとするのだが、僕の話を全く聞いてくれない。
このままでは探偵社にあらぬ噂が立ち込めてしまう。

「太宰さん!離してくださいっ!」
「えー!」

国木田さんを追いかけたい僕とニコニコ笑い手を離す気がない太宰さん。
僕らの攻防はしばらく続いた。


◇◆◇



両想いじゃないと出られない

「りょ…両思い!?」

いやいやいや、と思いながら隣の太宰さんを見上げた。ぱちぱちとそれを瞬きしながら見た彼は、私と同じように少し驚いていた。
見上げ続けていれば彼もこちらを向いた。
そして数秒間見つめ合う。

「……」
「……」

ガチャン、という音がして元の場所に戻ってきた。
日が傾いていてもう夕方であることが分かる。

「……帰ってきたみたいだね」
「……そう、そうですね」

唖然として言葉がすぐに出てこなかった。これは詰まり……、そういうことである。
と、今の状況やら何やらを分析すれば顔が熱くなって思わず俯いた。
二人して突っ立ったまま何をするでもなく暫くの間沈黙を守る。

「帰ろうか」
「…はい」

それから暫くして紡がれた太宰さんの言葉にこくりと頷いた。
そしてどちらからとも無く歩き出した。
肩を並べて帰るのがなんだか恥ずかしくて、無意識のうちに少しずつ歩く速度が緩んでいく。
しかしそれに合わせるように太宰さんの歩く速度もゆっくりになった。
そう云えば、今日も朝から隣を歩いている時には歩く速度を合わせてくれたなとか、人通りが多くてはぐれそうだった時は僕の腕をひいてくれたな、とかそういうのをふと思い出してさらに気恥しくなった。
さらに顔が赤くなったのはきっと夕焼けのせいだ。


◇◆◇



キスしないと出られない

「え……」

いや、待って。
何、キスしないと出られないって!と、目の前に書いてある文字を呆然と見つめる。
誰と?いや、太宰さんしか居ないけれど、と彼を見れば何かを考えているのか真剣な顔でそれを見ていた。
そんな彼を見ながらふとあることを思い出す。

「だ、太宰さん!こういう時こそ異能を使いましょう!」

そうだ、彼の力があればこの中から抜け出せる筈だ、と考えながらそう云えば太宰さんがこちらを見た。

「えー」
「いや、え?」

むすっとしてこちらを見る太宰さん。
いや、無理ですよ。僕には無理無理という気持ちを全面に出しながら首を横に振った。

「キスくらい良いじゃん。減るものじゃないし…」
「僕の中の何かが減る気がします!」

と云うが聞く耳を持ってくれない。

「……」
「……」
「……」
「…じゃあ頬で」

暫く無言の攻防をしていたがこれじゃあ埒が明かない。頬までならどうにかと思いそう提案してみるが彼は首を振る。
そして壁にある文字のあるところを指さした。

そこには小さく何かが書いてある。
それをよく見れば『口に』と書いてあったので、一瞬思考が停止した。
時間にして約3秒。やっと理解した頭でもう1度それらを見た。つまり、口にキスしろというのか。
また改めて太宰さんを見れば彼は何故だかニコニコと笑っていた。
その顔に何だか腹が立ってきた。

「太宰さん」
「ん?なんだ…っ」

なんだい?と紡ごうとしたその口を軽く塞いだ。
何が起こったのか分からないという顔をしたまま固まる太宰さん。それを見て、してやったりと今度は僕が笑みを浮かべる。
ガチャン、という音とともに戻ってきた僕は彼から逃げようと駆け出そうとした。
何故なら先程とは打って代わり太宰さんの表情がそれはそれは恐ろしいものになったからだ。
しかし、腕を掴んだ手がそれを許さない。
先程までの強気は何処へ飛んでいったのか、若干怯えながら自分よりも随分身長の高い彼を見上げた。
いや、見上げたつもりだったのだが想像以上にその顔が近くにあって驚く。
そして次の瞬間、暖かいものが口に触れた。



◇◆◇◇◆◇

何だかよく分からない感じになってすいません。あまり甘いのを書いたことがないので大変なことになってしまいました。おかしな点があると思いますがどうかお許しください。
書いてて楽しかったです。

-6-

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