さあ、踊りませう


*ほぼ独白なので他のキャラは出てきません


暗闇が回っている。
くるくるくるくる…まるで踊るように回っている。そんな世界を僕は横目に見た。
ああ、これが自分の生きている世界か。確かにこれぐらいの暗さの方が自分には生きやすい。"向こう"のように騒々しくはないし、何より"前世"のような息苦しさもない。あるのは血腥(ちなまぐさ)い日常であった。

歩みを進めながら唐突に口を押える。それと同時にゴホゴホという咳嗽の音が鈍く響いた。
どうやら夜風が体に祟ったらしい。簡単に咳が止まらない。止まるのは歩みを進めていた己の足だ。


「……」


暫くして落ち着けば、そのまま何事も無かったかのように歩き出す。1歩進めばまるで奈落にでも堕ちてしまいそうなほど暗い夜道ではあるが、夜目は効く方なので怖がることも無く淡々と足を進める。


今日も相変わらず詰まらない日だった。


そんなことを思いながら、今日あった出来事を思い返す。慣れてしまった仕事、慣れてしまった人殺し、慣れてしまった血、それらは己の身を貫こうとするがそうはさせない。今やいつの日かの"平凡な"僕は居ないのだ。今世のどこにも存在しないのだ。
見知らぬ世界に落とされてから随分経った。こちらの常識にも随分慣れ、己の身体との付き合い方もそれなりに理解しているつもりだ。


「……羅生門」


ふと口から出たのは自分の異能の名であった。暗闇に生きる自分にはさぞお似合いの闇が己の内にある。
そう云えば太宰さんはこの己の異能に対して何かを云っていた気がする。
その"何かを云っていた"ということだけは思い出せるのだが、その時は襤褸(ぼろ)雑巾のように叩きのめされていた最中だったので、覚えてはいない。ということは思案しても無駄ということだ。
一体全体どうしてそんなことを思い出したのかは自分でも分からないが、尊敬している彼の顔が脳にチラついたから思い出したのであろう。

自分と同じように闇に生きていた彼はあの虎と一緒に光溢れるとまではいかないが、自分には眩しくなるほどの明るい世界で生きている。

ついこの間対峙した時、どこか変わってしまったが本質は変わらない太宰さんはふっと笑って僕に何かを云った。今回はしっかりと聞いていたはずなのに矢張り思い出せなかった。


光が回っている。
ぐるぐるぐるぐる…、それは目まぐるしく舞い屍のように生きる己を嘲笑っては僕を避けて傍らを横切り過ぎ去っていく。
何て騒々しくそして息苦しい世界か。矢張りそちらに行こうという気には全くなれない。
いつか抱いた世界への絶望が、今世での血塗れた手がある限り僕がそちらの世界で生きることは決してないだろう。

そんな馬鹿げた話をぼんやりと考えながら、暗闇の中に溶けるように静かに歩いた。


◇◆◇◆◇◆◇
リクエストありがとうございます!短く独白ぽい感じのが欲しいということだったので書いてみましたが中々読みにくいですね。やはり成り代わり主らしく芥川さん+α的な性格を表して独白書いたらこんな感じになりました。読了ありがとうございました!

-17-

back / top


ALICE+