■ ■ ■

本丸の中へと入ってみれば、あの立派な外観(まあボロボロではあったが)からは想像もつかないほど荒れ果ていた。
廊下はところどころ穴が空いているし、今にも床が抜けそうな所も沢山ある。ギシギシ、ミシミシと嫌な音がなり内心ビクビクしながらお兄さん達に付いていく。

「……」
「……」
「……」

誰も口を開かないため、シーンとしていて何だか気まずい。
こんなに静かなのに、本当に他にも刀が居るのだろうか?と思いながらキョロキョロとあたりを見回せば、嫌に目に付く赤黒い汚れや何かが擦れたあと、もしくは刺さったあと。
いつか見たホラー映画のようだ思わず考えてしまい、背中に悪寒が走る。
それを考えないようにと思い、頭を軽く横に振り顔を上げた。
気がつけば、お兄さん達との距離が少しあいている。いや、確かに身長が小さいし、歩幅だってそれに比例して狭いかもしれないけど…。

「…。」

なんだかそれを考えると悲しくなってきた。はぁ、とため息をつきながら、小走りでお兄さん達との距離を縮める。
すると、お兄さん達がとある部屋の前で止まるのが見えた。

「ここだ」

紺色のお兄さんが一言そう言えば、水色のお兄さんがその部屋の襖を開ける。
お兄さん達に追いつき、中を覗いた。
そして、思わず目を見開いた。

「…、いち兄…?」
「……」
「いち兄だぁ…イテテ」

そこにいる刀達はみなボロボロであちこちに包帯が巻かれていた。
その包帯も薄汚れていて、赤黒いシミも出来ている。
何人かは布団に寝かされていて、苦痛に顔を歪めていた。
時折、呻き声が聞こえてくる。

「入れ」

紺色のお兄さんに言われて、部屋の中に1歩入る。

「ヒッ…」
「ひ、ひとだ」
「……っ」

どうやら私の存在に気づいたらしい。
鋭い目線でこちらを射抜き、カタカタと震えている。
ある子は、自身の短刀に手を掛けて抜いた。
これは殺されるかもしれない…。
と、ゴクリと唾を飲んだ時、

「まあ待て。」

それを見ていた紺色のお兄さんが口を開く。
それを聞いて彼らは何故だと言わんばかりに、彼を見つめた。
水色のお兄さんもその子達に向かって首を振る。

「で、でもっ…!」
「刀を仕舞って、乱」
「…分かった、いち兄」

乱と呼ばれた女の子の様な姿をした可愛らしい子は、水色のお兄さんの言葉に頷き刀を仕舞う。
水色のお兄さんは彼らからいち兄と呼ばれているらしい。


「この小僧に手入れを頼んだ」
「…え?」

紺色のお兄さんがそう言えば、彼らはまたこちらに視線を寄越す。信じられないという感情を含んだ目だ。
さて、ここはどうするべきか…。と少し考えた後、私は床に正座をした。そしてそのまま座礼をする。

「なっ…」
「え、ちょっ…」

驚いたような声が聞こえてくる。まあいきなりこんなことをすれば、驚くよね。

「初めまして、私は星火というものです。あなた方の傷を治しに来ました。私があなた達から見て、可笑しな行動をとれば、…切り捨てて頂いても構いません。どうか、治させてください」

と額を床に付けたままそう言い切る。
本当はこの本丸の審神者になりきました。と言いたかったのだが、言えばお兄さん達からグサッと刺されそうだ。それは怖い。
思わず「切り捨てて頂いても構いません。」とは言ったが、出来ればそうなりたくない。怖いし、痛いのはいやだ。

頭をあげるタイミングが分からず、暫くそのままの姿勢でいれば、何やらひそひそと話す声が聞こえる。
もう既に可笑しな行動をしているから、「なんだ?コイツ斬ってしまおうか」とかそういうことを話し合ってるのかもしれない…。
矢張り今日が命日か…。
ゆ、遺言とか残したほうがいいのだろうか?いや、何も思い浮かばないけどさっ…!
とか何とか考えていれば、上から声が降ってきた。

「そ、その…よろしくお願いします」
「お願いします!」
「よ、よろしく!」

顔をあげれば、数人の短刀達が頭を下げている。

「は、はい!が、頑張らせていただきますっっ…!」

若干声が裏返ったが気にしない。

「…ふむ」
「……」

この光景を後ろから見ているお兄さん達が凄く怖くて、怖いですぅ!!
と、取り敢えず…!

「手入れ部屋ってありますか?」
と聞けば、「あるにはある」という返事が返ってくる。
ん?どういうことだ?

「…僕達入れないんだ」
「入れない?」

乱と呼ばれた子がそう呟く。
え?本当にどういうこと??

「前の審神者のときに見習いって人が来て、僕達を隠れて治そうとしたら見つかって、誰も入れないようにお札はられてるの」

その見習いも審神者も死んでしまったけど、お札の効力は何故か未だに健在だ。
と彼らは続ける。
見習いの人めっちゃいい人やん!と思った途端その考えは打ちのめされた。

「まあ結局治そうとしたのはレア刀だけで、俺たちの兄弟を折りやがったけどな…」
黒髪短髪の男の子がそう呟く。
だから人間は信じられない、と言ってこちらを見た。

「じゃあなんでさっきは、直して欲しいって言ったの?」
「それは……」

そう質問すれば困ったように顔を見合わせる彼ら。
乱くん(と呼んでいいよね?)が悲しそうに目を細めて口を開いた。

「僕とかはね、…出陣とか短刀とかすればすぐに手に入るんだ。だから折れてしまっても問題ない。でも、君はそんな僕も、僕らのことも治そうとしてくれて嬉しいんだ」

そう言って、笑った。とてもとても悲しそうに。
それを聞いて泣きそうになった。
今までこの本丸に来た審神者は23人。私で24人目。初代をのぞき他の22人は皆、刀達を傷つけたり、折ったり、手入れをしなかったりしていたのだと、黒宮さんが言っていた。
そんなことをされれば、人間を信じたくないのも、刀を向けるのも、恐怖で震えるのも仕方の無いことだ。
私達が彼らに対しての仕打ちを考えれば。
まあ、よく続けてそんな審神者ばかりが来たものだと少しは思ったけど。
ここの刀を全員見たわけではないけど、心のどこかには人を信じてみようかと思っているに違いない。
じゃなかったら、私は既にあの世にいるはずだし…。

「えっとじゃあ…、ここで手入れしても構いませんか?」
「ほんとっ!」
「はい」
「妙な真似はするなよ」
「分かってます」

彼らとそんな会話をしながら、また1歩部屋へと入る。
手入れ部屋に入れないのならどうしようもないし、布団に寝かされ動けない刀もいるしな…。と思ったからだ。

「えっとじゃあ彼から」
と猫?虎?に囲まれている男の子に近づく。見た感じでは彼が1番ひどい怪我を負っているからだ。
よし!始めよう。と先ほど政府の人に手入れについて説明されたことを思い出す。
えっと道具は…あ、道具はどうすればっ!
今更そんなことを考える。あのポンポンみたいなのが必要なんじゃ…。
あーでも、手入れ部屋には入れないのかっ!と男の子の布団の横に正座しながら冷や汗ダラダラで考える。

「始めていいぞ」
「……はい」

お兄さん達の厳しい視線と、短刀達の期待の視線が私を射抜いた。
これはやるしかない…。
ええい!ものは試しだ!!
と、半ばヤケになりながらその男の子自身である刀を手に取り目を瞑った。
そして、治れと願えば私の中の何かがその刀に伝わっていく。
もしかしてこれが霊力というやつだろうか?
本当にそんなものを持ってたんだな…。
なんて思いながら更に霊力らしきものを注いだ。


(あれ…?)
(ご、五虎退!良かった)
きっと僕らに意味なんか
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