嵐山さんがお友達認定してきた

「……」

えっと……、あのさ。私ってさ、ほら至って普通の平凡で凡庸などこにでも居るような人間じゃん?女子大生じゃん?
え?知らねーけどって?ならば仕方ない。じゃあ覚えていってね。よろよろ、名字名前だよ。青春真っ盛りの大学生でーっす。……おう、このテンション何か滅茶苦茶キツイな…。もうJKじゃないんだから……、いや大学生もまだまだ若いし、去年まではJKだったんだから行けるはず…。


まあ結局のところ私が何が言いたいのかって?

……あれ、何だっけ?

てか今なんの話してたっけ私。


やっば、物忘れ?この歳で?それは困る。何が困るとかは具体的には言葉で言い表せないことも、何の話をしていたかをど忘れしたことに関しても色々とやばい。取り敢えず思い出せ、私。頭をフル回転させて……

えーっと、今日の晩御飯はカレーライス?的な話でもしてたっけなあ。いや、そう云えば昨日カレーだったから今日は唐揚げにしようかな。大学生になって料理のレパートリーが増えたのはいいことだね。うんうん。このまま料理人にでもなろうかな。
カレーライス、味噌汁、チャーハン、ハンバーグ、魚の塩焼き、ポテトサラダ、唐揚げ、ハヤシライス、シチュー、カレーライス、オムライス…その他諸々作れるし…。カレーライスが2回でてきた?気のせいだよ、気のせい気のせい。

……って、あ。こんなの頑張れば大体みんな作れるじゃん。いざ作らなければいけない状況になったらどうにかいけそうなやつじゃん。普通すぎるね。もっとなんかこう作れたらいいけどなあ。〇〇パスタだの、〇〇のソテーだの、そんなかっこいいやつ。ほら、炎ぶわあってなるやつとか…。なんだっけあれ?フランベ?そんなのもやってみたいかなあ。


でも私みたいな一般ピーポーにはなあ……、ってああ!!そうじゃん、私は普通の女子大生って話だったじゃん。

色々と話の路線を外したくせに最後には元のところに戻ってくるとか草だよね。草不可避。大草原。何処かの珍しい電車の路線みたいにぐるっと回って1周して戻ってくるやつじゃん。


「はは、ありがとう。名字さん」
「うん」
「本当に助かったよ」
「うん」
「これが無かったら次の講義に支障が出てしまうところだったんだ」
「……うん?」


さて、平凡な私の随分と突飛なひとり語り(現実逃避)はもういいだろうか。
ここまでの謎のテンションをすっごい真顔で思考してた私って情緒不安定すぎるよね。めっちゃグラグラやん、酔っ払いかな。いや、まだ未成年だし飲んでないけどさ。

因みにさ、私の真横にはイケメンで、爽やかなイケメンがいるんですよ?
確か名前は嵐山准。ただのイケメンだ。
え?さっきから脈絡もなければイケメンしか言ってないって?うん、だってイケメンなんだもん。他に何と言えばいいの?あー、じゃあかの有名なボーダーのA級の人らしい。あとイケメン。なにそれ最早住む次元違うやん。この方一体何次元の人なの?

そんな彼が何で私の隣にいて、私に笑いかけて、親しげに話しかけてくるかって?何で一緒に廊下を歩いているかって?さあ、何でだろうね。私が聞きたいなあ。誰か分かるならこの憐れな私めに分かりやすく10文字以内で教えてください。


夢なんじゃねえの?


あ、確かにそうかも。
ありがとう、私の頭の中の声よ。取り敢えずどうすればいいのだろう。夢から覚めるには、と嵐山さんがいる方とは反対側の手でこっそり頬を抓る。めっちゃ痛いやん。夢やないやん!
え、それはまずい。結構ガチで夢だと思ってたし色々と思考が吹っ飛んでたせいで、嵐山さんの有難いお言葉も何も聞いてなかった。私、さっきから「うん」しか言ってないじゃん。大丈夫かな?「お前さっきから聞いてないだろ」とか言われても「うん」て返しちゃうパターンのやつじゃん。


「名字さん、聞いてる?」
「うん」


……ってあああ、聞いてなかった!し、か、も!「聞いてる?」に「うん」って返したよ私。よくも私の考えの逆のことをしてくれたな!と睨んでやろうと思い背の高い彼を見上げる。

きっらーん。

あ、ムリ。控えめに言ってちょー無理。イケメン。どっからそんなオーラ出てくるの?背中に太陽でも背負ってるの、ねえ?背負ってたら全部溶けてるだろって?だよね。やっぱり背負ってないよね。
じゃあこの謎のキラキラは何なんだよ!?溢れ出る爽やかオーラは私の幻覚だっていうのか!恐るべし嵐山准。最早10メートルどころか日本の裏側ブラジルから見たい(あれ?アルゼンチンだっけ?)…え?ブラジルからは見えないだろって?

………そうなの?

ってそうか、当たり前だよね。アハハ、いっけなーい。__で、何の話だ。


「あ、えっとごめん。もう1回お願いします。上の空でした」
「ん?分かった」
「ごめんね」
「いや、構わないさ。じゃあもう1回言おう」
「うん」
「俺の友達になってくれないか?」


聞いてなかったことを滅茶苦茶正直に彼に伝えれば、嵐山さんは全く気にした様子もなくうむと頷いた。男前かよ、噂通りだな。うんうんとうなずきながら彼の言葉を心の中で復唱し噛み砕いた。

「ん?」

___俺の友達になってくれないか?

だって?え?トモダチ?それってあのフレンド?友好の「友」に達磨の「達」?の友達だよね?そういや昨日始めたゲームってフレンドポイントとフレンドとの協力が大事だったよなあ。家帰ったらもう1回調べよう、そしてフレンド募ろう。

じゃ、な、く、て!

え?何?私難聴なのかな。もう1回言ってってお願いした手前言いづらいがもう1回お願いと聞こうかな?といつの間にか私の前に立ち塞がるある意味巨大な壁(イケメンウォール)を見る。ぱちぱちと羨ましいくらい長い睫毛から覗く純粋なその瞳は、少しだけ不安げに揺れていた。やっぱ聞き間違いじゃないよね?うんうん。しかもさ、私が聞きたかったのそんな途中じゃなくてほぼ最初から話を聞きたかったんだけど、全く噛み合ってないじゃん。


「え、えっと」
「………」
「え、えー?わ、私とですか?(この人正気ですか?)」
「ああ、君とが良いんだ!」
「……は、はあ(……この人全然正気じゃないな)」


こんなセリフさ、アニメとか少女漫画とかそんなの以外で聞いたことねーよ。やっぱり夢だよ。起きろ私。一体いつからこんなイケメンの友達になれるとかいうヒロインポジに憧れてたんだよ!いつもお前は村人Dとか村人Sとかそんなのでいいって言ってたよな?村人Sって何かめっちゃ強そう。じゃなくて!目覚めよリアル、覚醒の時が来たぞ!(ある意味)修羅場だから!お願いだよ!

………おい、このままじゃ心の中で厨二病呟いてるだけの変人になるぞ。

もう遅いって?知ってるわ!

「えっと何で私?」
「名字さんとは前から話してみたかったんだ」

えー?私はそんなに…ってそれは失礼か。

え?てか話してみたかったって何で私の事知ってるの。私、嵐山さんのこと最近まで知らなかったし、この前噂でちょろっと聞いて「あーあの人かあ…」なんて友達と駄弁ってただけなんだけど。
話してみたかっただって?講義だって余り被って……ん?あれ?私が取ってる講義で結構見る気がする。記憶が薄いのは彼がボーダーの仕事で来たり来なかったりするからだろう。てかよく考えてみれば講義殆ど全部被ってね?てか、それでいいのか嵐山よお?

「………」
「……駄目か?」

おいい!それはズルすぎるだろ。
お前、スキル「イケメン」にポイント全振りしたな!さては!じゃなきゃそんないかにも落ち込んでますって顔もイケメンにならないよ!あと、分かっているか?今、今ね!空気がどよめいたよ。大学にいる女の子達だけじゃなく男の子達の空気もどよめいたよ。どんな威力だよ。嵐山ってあのビッグバンとか起こしたり出来る系の人?なにそれ怖すぎ。実際、ラスボス。地球崩壊、下手したら宇宙も崩壊じゃん。ネイバーよりやばいじゃん。何?嵐山准の時代でも始めようかとかそんなの目論んでたりするの?もう既に君の時代だと思うんだけどなあ、私。え。あ、しない?さーせん。

なんて考えてる間も彼はこちらに探るような目線を送ってくる。そんな捨てられた子犬みたいな顔はやめようぜ。断りづらいやつじゃん。

しかし!私は負けないぞ!聳(そび)え立つ強靭な壁(イケメン)にも荒れ狂う嵐(イケメン)にも某京都の名所(行ってみたい)にも負けないぞ!さあ、言うんだ私。まずは口を開いて___。


「あー、うん。勿論だよ。仲良クシヨウネ。アハハ」
「本当か!」
「うわっ、……うん、ほんとほんと」


ムリだああ!勝てない。私には無理だったよ、ケビン。ケビンて誰だよ。知らないよ。
ほら、あわよくばお友達になりたいって心のどこかできっと思ってたんだよ。そうだよね、私?


…………。


おい、何か言えや。あとブンブンって握手すんな嵐山准!誰が手に触っていいと言った?このままだと私は一生手を洗ってはいけなくなるんだが。ある意味発狂するよ!本当にどうしろと。


「えっと、嵐山さん?」
「うーん、せっかく友達になったんだから下の名前でいいぞ!」
「………え?」
「あと俺も名前で呼んでいいだろうか」

おっふ。何だよ嵐山准。ちょっと馴れ馴れしいぞ、しかし憎めないのは何故なんだ。しかもお前、拒否権相手にあえてあげないタイプの人間かなんかか?ヤバすぎる。爽やかそうなのに男前そうなのに、色々とヤバすぎる。

「え、うん。よろしくね。えっと准君?」
「あー、よろしくな!名前!」


呼 び 捨 て



………私のSAN値はもうゼロよ。


ほら、こんな感じで交友関係が始まったのに数ヶ月後にはめっちゃ仲のいい友人になってるとか思わないじゃん。最早今日これっきりの語りあいで終わりだと考えてて私も思ってなかったよ。家に返って肉じゃが作って食べたら忘れたもん。え?唐揚げ?そういや、唐揚げ作るとか言ってたような、ないような。まあどうでもいいんだけど。



「……はあ」

隣でキラキラオーラを周りに散りばめながら、それなりに使ってるのにあまり曲がった跡などがついてなく、書き込みやマーカーも丁寧にされたテキストと私のノートを交互に見ながら書き写していくイケメンを見やる。へい、まいふれんど。トュデイもクールだなあ。なんて咄嗟に思い浮かばなかった英語を日本語で補強しつつ心のなかでぼやいた。

休日の昼下がりの喫茶店で2人で窓際のカウンター席へと座ったのはもう15分ほど前の話だ。1週間、もしくは彼のスケジュール次第では10日に1回ほどの頻度でこうやって落ち合う。いつものようにカフェラテを頼んだ私は頬杖をついて窓の外を見やる。講義がほとんど被ってるせいで、准くんが出られなかった講義の内容のノートを写真で撮って送ったり、こうやって喫茶店でノートを貸し与えたり。私は前者だけでいいのだが、3日や4日休んだりすると質問をしたいらしい。優等生かよ。いつの間にか日常の1部になってしまったのが怖い。恐るべし、嵐山准。時々質問をされるのでそれに返しつつ、私も全部分かっている訳では無いので逆に教わりつつ、まったり過ごす。何が問題かって?意外とこの生活に慣れきって、寧ろ居心地がいいなんて快適に思っている自分が怖い。

てかさ、この前なんて私が普通に横でゲームしてたのに准くんって全く引かないんだぜ?結構グロめのやつなのに、准くんが覗き込んだ瞬間血が舞って結構エグいシーンだったのに「ビックリしないの?」と聞けば逆に不思議そうな顔をして言うのだ。「好きなものは人それぞれだろ?趣味があるのはいい事だと思う。俺も時間があればやってみたいとは思ってるが…」え?嵐山准がゲーム。と頭の中で想像。コントローラーを持って某カーレースゲーとかゾンビ倒しまくるあれとかをギャーギャー言いながらするの?なにそれ、おいしい。なんて思ってしまった。これがオタク心なのだろう。多分。まあ、何だかんだ忙しいだろうから、ハマったら終わりだもんね?彼が本気で興味持って時間がたっぷり出来るようなら何時でもレクチャーなら出来るけどと思ったのも懐かしい。本当にこんなに仲良くなるとか思ってなかったなあ。


ぼんやりと彼と出会った日を思い出す。
きっとあの日から醒めない夢を見てんだな、私。あ、こういうのどっかの本の題名とかにありそう。私、色々と行き詰まったら作家になろう。取り敢えずイケメン過ぎる男友達を持つ女の子の話でも書こうかな。……うっわ、ほぼノンフィクションになりそう。そして私が書く文なんてよく考えてみればエゲツナク面白くなさそう。三部しか売れなくて買ったのが母と父と兄だったら最早笑う。そういや、どっかの図書館に必ず1冊は行くんだっけ?じゃあ4部?…まああんまり大差ないなあ。じゃあ食っていける気がしないからもっとマシなもの始めないとなあ。若しくは玉の輿に乗りてえ。


「どうしたんだ?目が死んでるぞ?」
「え?元からこんな顔だよ。やだなー」
「ん?確かにそうだな!相変わらず可愛いぞ!」
「………あはは。ありがと。」


嵐山准。


お前は私の彼氏か。



(ついに嵐山准に彼女が…なんて噂をされてたことを私は知らない)
(その彼女がこの大学でも屈指の美女だったと言われていることも知らない)
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