眠気覚ましに温もりを


「え、本当にここどこ……?」

ふと目が覚めて、起きてみれば知らない部屋にいた。
そして着ている服が綺麗なものに変わっていた。

「…………え?」

中島尊、18歳。
只今、自分が置かれている状況がさっぱり分かりません。



◇◆◇



そう云えば、孤児院の起床喇叭らっぱも早朝点呼もない。

「……」

ああ、そうか。孤児院はとっくに追い出されたんだった。
あれ?でもここは路地裏でもないし…。
こんな快適な目覚めは余り経験したことがないぞ?
寝起きの頭を精一杯働かせ考えてみる。
確か太宰さんと一緒に倉庫にいて、それで、……それで?
あれ?どうしたんだっけ?
よく思い出せず首を傾げる。

「えっと……」

確か虎を待ってて、自分が虎だということがバレて……。
ん?それからどうした?
矢張り思い出せないと悩んでいれば、

ピピピピピ

と部屋に電子音が響いた。

「…っ!」

それに驚きそちらを見れば携帯が置いてあった。ブルブルと振動しながら未だに鳴り続けているそれ。

ど、どうすれば?取り敢えず出てみた方が良いのか?

「えっと、ぼたんは…」

ポチッととある釦を押せば繋がった。

「えっと、は、はい?」

携帯を耳元へ持っていき声を紡ぐ。

「やあ、敦君。新しい下宿寮はどうだい?善く眠れた?」

それから聞こえた声に驚く。太宰さんだ。
新しい下宿寮……。
へぇ、ここは下宿寮なのか。
もしかして住んでいいってこと?

「お蔭様で…。あ、ありがとうございます。こんな大層な寮を…」
「それは好かった。ところで頼みがあるのだが……」
「は、はい?」

頼み?一体何だろう?

「助けて、死にそう」
「……はい?」


枕元に置いてある服は頂けるらしく、それを着て急いで外に出てみれば不思議な、いや、奇妙な光景が目に入る。
なんで太宰さんドラム缶に入ってるの?
あれ、僕まだ夢の中??

「やあ、よく来たね」

微笑みながらそう僕に云う彼。
折角端正な顔してるのにこれでは本当に勿体ない…、世間でいう残念なイケメンという奴だ。

「早速だが助けて」
「え、何ですかこれ?」
「何だと思う?」

自分の身長と殆ど変わらない位のドラム缶の中に入っている彼にそう聞かれ一瞬だけ考える。
もしかして、

「朝の幻覚?」
「違う」

太宰さんはそう即答して、言葉を続ける。

「こうした自殺法があると聞き、早速試してみたのだ。が、苦しいばかりで一向に死ねない。」
「は、はぁ…」
「腹に力を入れてないと徐々に嵌る。そろそろ限界」

と云う彼を見て、そのままの状態で居れば、何時か死ぬのでは…?と思いそれを言葉にして発する。

「でも、自殺なのでしょう?そのままいけば……」
「苦しいのは嫌だ。当然だろう?」

また即答された。
しかも迚も形容しづらい凄い顔で…。

「?なるほど?」


それからどうにかこうにか自分と同じ位の高さのドラム缶から太宰さんを救出し、云われるまま街を歩く。

「同僚のかたに救援を求めなかったのですか?」

きっとこんな軟弱な僕よりも探偵社の方々の方が力になると思うのだけれど。

「求めたよ?でも私が『死にそうなのだ』と助けを請うた時、なんと答えたと思う?」
「えーっと、死ねばいいじゃん?」
「ご名答!」

え、合ってた!?適当に云ったのに…。
微妙な気持ちになりつつ、太宰さんに着いていく。

「ところで、今日は何処へ?」
「うん。君に仕事を斡旋あっせんしようと思ってね」
「ほ、本当ですか!」

それは凄く嬉しい。
知り合いがいないため、誰も宛にはできなかったので善かった。
よし!これでご飯とかには困らないはず……。

伝手つての心当たりがあるから、先ずは探偵社に行こう」
「はい!」
「任せ給えよ、我が名は太宰。社の信頼と民草たみくさ崇敬すうけいを一身に浴する男…」

などと語り出す太宰さん。

これを僕がいたあの世界では何といったか?
たしか、厨二病??

「ここに居ったかァ!!包帯無駄遣い装着!!」

何処かで聞いた声だと振り向けば、此方を指差しそう叫ぶ国木田さんがいた。
善いタイミング…。

「……国木田君。今の呼称こしょうはどうかと思う」

傷ついたと云わんばかりにそう呟く太宰さん。
確かに包帯ぐるぐる巻だなぁ。

「この非常事態に何をとろとろ歩いているのだ!疾(はや)く来い!」
「朝から元気だなあ。あんまり怒鳴ると悪い体内物質が分泌されて、そのうち痔に罹(かか)るよ?」
「何!?本当か?」

といった具合に目の前で騒ぐ二人。
なんだか周りからの視線が痛い……。


「あの……、その非常事態って?」

僕がそう聞けば、

「そうだった!探偵社に来い!人手が要る!」

と思い出したようにそう云う。

「何で?」

太宰さんが聞けば、国木田さんが冷や汗を流しながら云った。

「爆弾魔が人質連れて探偵社に立て篭もった!」
「……?」

国木田さんがそう云ったとき、何故か何かが可笑しいなどと思ってしまった。
爆弾魔に人質か…。

聞くだけで恐ろしなぁ。
あと、僕の仕事のことはどうなったんだろう。
その爆弾魔と云うやつを捕まえてからなのかな?


「よし、敦君!」

ガシッと腕を握られる。
あれ、こんなの前にも体験したぞ!?

「何ですか、太宰さん?あとその手を離してください……!」
「却説、国木田君行こうか!」
「あぁ」
「だから、話を聞いてください!」


(なんで僕まで行かないといけないんですか!?)
(ああ、嫌な予感かするっ)

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