僕の半分は君でできてるの
「………?」
…あれ?何も起きない。
もう爆発してもいい頃なのに…。
と、爆弾の上に覆い被さったまま考える。
え?どういうことだ?
恐る恐る目を開けれてみる。視界に入るのはこの部屋の床と爆弾の角の部分。
そして、誰かの影。
サッと顔を上げてみれば、太宰さんと国木田さん、そして何故か爆弾魔が僕を見下ろしていた。
3人を見上げながら、状況が飲み込めず呆然としていると、
「やれやれ……莫迦とは思っていたが、これほどとは」
「自殺愛好家の才能があるね、彼は」
国木田さんの呆れたような声と、太宰さんの楽しそうな声が降ってくる。
「へ?…………え?」
僕、死んでないの?生きてるの?
なんで爆発してないの?
てか、なんで爆弾魔さんもそこに平然と居るの?
そんな疑問が絶えず頭の中を巡り消えていく。本当にどうなっているんだ?
取り敢えず体を起こし、立ち上がってみる。
ザザッ!
ゴキッ
「…っ!?」
「ああーん!兄様ぁ!大丈夫でしたかぁぁあ!?」
「痛だっ!?」
隣を"何か"が物凄いスピードで通り過ぎていったかと思えば、それは溌剌としたとても元気の良い声を上げて、爆弾魔に飛びついた。
何事かと見てみれば、先ほど人質に取られていた綺麗な女の子が爆弾魔に抱きついている。
そう、"抱きついている"。
「……」
「いい痛い!痛いよナオミ!折れる折れるって云うか折れたァ!ギャーー!」
「……へ?」
ついに思考が停止した。
もう無理だ、現状が飲み込めない。
てか、何も考えたくない。考えようとしただけで何だか頭が痛い…。
「小僧」
「…はいっ?」
国木田さんに呼ばれハッと意識が戻ってくる。国木田さんの方を振り返れば、彼は言葉を続ける。
「恨むなら、太宰を恨め。若しくは仕事斡旋人の選定を間違えた己を恨め」
「…は、はぁ」
「そう云うことだよ、敦君。」
「…え?」
「つまりこれは、一種の"入社試験"だね。」
「入社、……試験?」
え、今なんて云いましたか、太宰さん?
入社試験…?なんの!?
ま、まさか…。
「その通りだ」
「…っ」
よく通る低い声がこの空間に響く。
其方に視線を移せば、和服を纏った銀髪の男の人が立っている。
「社長」
国木田さんがその人へと近づいていったかと思えば、そう云ってお辞儀をした。
「しゃ、社長!?」
こ、この人が!?
国木田さんの言葉に驚く。
「そこの太宰めが『有能なる若者が居る』と云うゆえ、その魂の真贋、試させて貰った。」
「…え?…はい?」
矢張りどういう状況なのか理解が出来ない、というよりしたくない。
「君を社員に推薦したのだけど、如何せん君は区の災害指定猛獣だ。保護すべきか社内で揉めてね。で、社長の一声でこうなった、と。」
「で、社長…結果は?」
国木田さんがそう尋ねれば、社長と呼ばれたその人の鋭い視線が僕を射抜く。
それをただ見つめていれば、その人はゆっくりと目を瞑った。
そして、スッと踵を返しながら、一言だけ言葉を紡いだ、
「太宰に一任する」
「……」
え、ということは…、
「合格だってさ」
ですよねー、と内心呟く。
「つ、つまり……?僕に斡旋する仕事っていうのは……此処の…?」
そう尋ねようとすれば、彼はクスリと笑った。
「武装探偵社へ、ようこそ」
その瞬間冷や汗がブワッと吹き出す。
え、僕は此処で働くの…?文ストってそんな話なのっ!?
ちょっと待って、今すぐ何か思い出せ!僕っ!!
「うふ、よろしくお願いしますわ」
「い、痛いっ!そこ痛いってば!ナオミごめん、ごめんって!」
ハッとまたまた飛びかけていた意識を戻す。
「ぼ、僕を試すためだけに、こんな大掛かりな仕掛けを?」
「この位で驚いてちゃ、身がもたないよ?」
疲れのせいか、驚きすぎたせいかそれとも、どちらとものせいなのか体の力が抜けて尻餅をつく。
そして、やっと自分の状況が整理でき理解をしっかりとでき、思わず後ずさる。
「いやいや!こんな無茶で物騒な職場!ぼく、無理ですよ!!」
そう心の底から叫んだ。
それを聞いた太宰さんは手を口元に持っていきながら云う。
「君が無理と云うなら、強制はできないね。となると、君が住んでる社員寮引き払わないと」
あと、寮の食費と電話の払いもあるけど、大丈夫?そんな悪魔(太宰さん)の声がやけに大きく聞こえた。
つまり、つまりだっ!
選択肢ないってことかよぉぉ!
「………」
と、泣きそうになりながら心のなかで叫んだ。
「まあ、元気を出し給えよ。敦君。」
「……」
にこやかに笑いながら太宰さんはそう云う。
もう、これは吹っ切れるしかないよねっ!?
「分かりました…。えっと、…僕は中島敦、です。よろしくお願いします」
そう云って、頭を下げた。
「おお!偉いねー、敦君!」
「…」
そう云って何故か僕の頭を撫でる。太宰さんは僕の親か何かかっ!?
てか、子供扱いしてるよね!と若干半目になりながら考える。
「ああ、そうだ敦君。」
「はい?…何ですか、太宰さん。」
何かを思い出した、と言わんばかりに彼がふと僕の名を呼ぶ。
「君の名前は本当に"敦"かい?」
「っ…え?」
「何を云ってるんだ、太宰。」
僕の斜め後ろあたりで此方を眺めていた不思議そうにしながら国木田さんも話に入ってくる。
先程までベッタリくっついていた爆弾魔さん(名を知らないのでそう呼ばせてもらう)と女の子も此方を不思議そうに見ていた。
「え?何故ですか…?」
一応そう尋ねてみる。
「何故って、だって敦君。…君は女性だろ?」
「……」
「……あらっ」
「えええっ!?」
周りから驚きの声が聞こえてくる。
「え、ええ。まあ、はい…。」
「ほ、ほんとなのかっ、小僧っ!?」
「へぇ〜」
「気づかなかった」
そう肯定して首を縦に振れば、また驚きの声が上がる。
矢張りみんな僕のことを男だと思っていたんだ。
逆になんで太宰さんは気付いたのだろう。
「何となく男とは考えにくいと思って、君が気を失ったあと、とある女史に着替えさせてもらったんだ」
「そ、そうなんですか」
「若しかして隠してた?」
「いえ、特に隠してるつもりはないです」
ただ、孤児院の時に院長から男のようにして生活しろと云われて、その時に『敦』という名も貰いました。と続ける。
「へぇ…」
「?」
それを聞いて、太宰さんは意味深げに目を細める。
それを見て、ん?と首を傾げれば、何でもないよと云われた。
「そうだ。敦はもらった名ならば本当の名前は?」
「えっと、……尊って云います。」
あぁ、久しぶりにこの名を口にしたなと考える。
「どちらで呼べばいいかな?」
「尊の方はあまり呼ばれ慣れないのでその、敦の方が良いです!」
あ、でも尊って呼んでもらっても構いません。ただ即座に反応は出来ませんが…と続ける。
自分の本当の名前を呼ばれ慣れないと云うのも少し可笑しな話だが、ずっと''敦"と呼ばれているし名乗っているので、つい尊と云われても他人だと捉えてしまうんだよな…。
「わかった。よろしくね敦君。……却説、他のみんなの自己紹介とかそういうのも兼ねてお茶でも飲みに行こう!さ、準備し給え!」
太宰さんはそう云うと、またニコリと笑った。
(こ、小僧が女。…女だと)
(…あはは、国木田くん大丈夫かな?)
或る爆弾<終>