たけのこしか勝たん。

あー、たけのこ最高。

それが下手したら私の人生で1番口にしている言葉かもしれない。冗談じゃなくマジで。

私はたけのこの某お菓子がめちゃくちゃ好きである。小さい頃、おばあちゃん(たけのこ派)の家に遊びに行くといつもそのお菓子とお茶を準備して待っていてくれた。おばあちゃん大好きっ子だった私は、見事に洗脳…ゲフンゲフン、リスペクトしてしまったのである。


ネットなどできのことたけのこが戦争していれば、迷わずたけのこに投票することと、たけのこを買いまくるくらいしか私はしない。別に過激な争いはしないし、きのこ派を無理にたけのこ派にする気も特にはない。私がたけのこは神と分かっていればそれでいい。ただそのスタンスのせいで「アンタ何様よ」と友達(きのこ派)である八色やいろ夢依むいに爆笑された。

彼女はきのこ派のくせして、休み時間に私がたけのこを食べていれば、私の元にやってきてたけのこを貪っていく。実はたけのこが好きなんだろ、と思うが、彼女からしたら実際両方とも美味しい。ただきのこの方がちょっとだけ多く好きなだけ、らしい。なるほど!やはり戦争だね!…おっと、過激な争いはしないんだった、と平静を取り戻す。

そんな夢依と小学校から中学だけじゃなく、高校まで一緒になった。小学校の遠足のおやつはたけのこ、中学でもそれとなく匂わせ、高校では休み時間にたけのこを食べているせいで、特に意味もなく行われるきのこたけのこ戦争では、何も言わずとも勝手にたけのこ派に名前があることがある。

別にいいけど、私も投票に参加しようとしたら「もう名前あるから大丈夫」と言われた時には、ちょっと驚いた。何ならいつもたけのこを貪りに来るせいで、夢依の名前がたけのこのところにあったのに笑ったものだ。彼女のクラスメイトからのイメージはたけのこ派らしい。勝手に外堀埋まっててウケると、2人で笑いまくった。夢依は特に訂正することなく「心は永遠のきのこ派よ」と語っていた。よろしいならば戦そ…おっと、ゲフンゲフン。


ここまでのことからよく分かるだろう。私の普段って割とくだらない。しかし、そのくだらなさのある日常が好きなのである。


◇◆◇


「やっとB級じゃん」
「長いようで短かったね」

なんてラウンジのソファに座って、夢依と会話をする。机の上にはもちろんたけのこがある。自販機で飲みものを買って、それを2人でもぐもぐと食べるのが最近の習慣だ。

「あの2人、いつもあそこでたけのこ食ってるよな」とか言われるせいで、何やらしょうもない噂が若干流れはじめた。

そのせいでよく知らない人がやってきて、「もらいー」と1つ2つ持っていかれてしまう。彼らのことを「たけのこ誘拐犯」と勝手に呼んでいる。ここの人たちコミュ力高い人が割と多い気がするので、私も夢依も慣れて気にしなくなってしまった。

私と夢依はこの前の入隊からボーダーという機関に所属している。数年前の侵攻でおばあちゃんを助けてもらった私と、同じく弟を助けて貰った夢依。2人揃ってボーダーには恩があるのだ。

そんな経緯があって高校に入るなりボーダーの試験を受けた。2人して受かって、入隊して、そしてほぼ同時にB級に上がった。私が攻撃手、そして夢依が狙撃手。B級にあがったら、あとはオペレーターとかもう1人か2人誰か探してチームを組もうだなんて言いながら、訓練やランク戦をしていたら気付けばもう4000点に到達していた。

私は主にC級同士のランク戦でどうにか勝ち抜けることができた。夢依は正隊員との合同訓練で3週連続で上位15%以内に入ることができたらしい。彼女は既に狙撃手での頭角を現しているようだ。この前もB級やA級の人たちと交流していたようだし。凄いなあ、と思いながらたけのこをもぐもぐ。ああ、やっぱり、たけのこは最高。


「訓練とかランク戦に力入れちゃって結局オペレーター探しできてないなあ…」
「確かに」

攻撃手はどちらかというと男子が多い、気がする。彼らに負けないようにと思って、試合のログを見たり、戦い方を考えたりすることにのめり込んでしまっていた。そのため、B級に上がったらチームを早く組めるようオペレーター探すと決めていたのに実行できていない。まあB級に上がれたのだからいっか、なんて。そんなことより、

「…たけのこ、最高」
「それもう聞き飽きた。…それにしても名前はすごいよね。銃手とか射手やるのかと思ったら攻撃手って。ランク戦見に行ったらビシバシ斬ってて恐怖だったわ。まあ、元から身体能力は高いもんねえ」
「そうかなあ。…夢依の方がすごいじゃん。入隊して時間経ってないのに、正隊員との合同訓練で3週連続で上位15%以内って」
「ああ、あれはコツ聞いたの。あとは練習だけど」
「…なんかB級とかA級の人の知り合い多いもんねえ」

なんて会話をしながら、自販機で買ったカフェラテを飲む。はあ、本当に幸せ。

学校でもボーダーでも変わらずにたけのこを広げて、夢依と飲み物を買って談笑する時間が私はどうしようもなく好きだ。そんな彼女とおしゃべりをしているうちに夢依との会話は昨日の月9ドラマの話になった。

「やっぱ、今回の主演はいいよね」
「え?後輩くんの方がいいじゃん」
「あんたさ、お菓子はたけのこ派のくせして、好きな髪型がマッシュはウケるよね」
「だってあのキノコ感がいいじゃん」

分かってないなあ、なんて言って笑う。そう。私は髪型がマッシュの人が好きだ。男の子でも女の子でも。中学の時のクラスメイトの女の子が急に髪を切って、マッシュにしてきた時、それはもうめちゃくちゃ衝撃を受けた。マッシュヘアは尊い、と。それからというもの好きな俳優や女優、友達に勧められたゲームやアニメや漫画にでくるキャラクターでの推しはみんなほぼマッシュだ。髪型はマッシュしか勝たんと思っている。お菓子ではたけのこしか勝たんけど。


たけのこを食べながら談笑をしていれば、狙撃手の訓練の時間に近くなっていることに気づく。時が経つのは早いなあ。

「じゃ、私は訓練行ってくるから」
「はーい。終わる時間に訓練室まで迎えに行くねー」
「よろー」

なんて言って別れる。彼女の訓練が終わるまで何していようかと考えながら、たけのこを摘む。そしたら急にぬっと誰かの手が出てきて、たけのこが1つ攫われた。たけのこー!!と某ゲームの赤い帽子のおじさんが、甲羅を背負ったラスボスに某ピンク色の姫を攫われているシーンを頭に思い浮かべながら、その手を追う。たけのこをもぐっと口に入れながら、こちらを見ているのは見知らぬ男の人だった。もじゃっとしてる髪に、お髭。そして何より目から感情が読めない。ひえっ!?誰!?とそのたけのこ誘拐犯を見て慌てる。

「おー、悪ぃ。いつも美味そうに食ってるから、つい」
「い、いえ」
「え?大丈夫かな?俺、JKにお菓子集ってるヤバいやつに見えないかな?」
「だ、大丈夫、なのでは?」

勝手にお菓子とって、勝手に焦り出す男の人。高校生じゃない、絶対。なんか見た事ある気もするが、生憎人の顔と名前を覚えるのがあまり得意ではない。呆然と見上げていれば目の前にその人が座った。

「もう1個貰っていいか?」
「あ、はい。何個でもどうぞ」
「おー」

なんか視線が痛い。目の前の人は気にしていないらしいが、周りの人たちがこちらをちらちら見ていることに気づいた。それに耐えながら、私もたけのこに手を伸ばす。あー、最高。

「オマエ、ポジションは?」
「…え、あ、攻撃手です」
「へえ、…トリガーは?」
「弧月です」
「……へえ」

何だ、この時間。しかもその意味深な「へえ」はなんだ?弧月は割と攻撃手の人なら使ってるじゃないか。なんて考えているうちには、たけのこはなくなった。


そして気がつけば男の人に引き摺られていて、気付けばランク戦(ポイントの移行はなし設定にしてもらった)をしていた。なんで?と思っているうちには9本取られていた。あまりの急展開に私の頭は何も追いついていなかった。

「…よし、あと1本」
「…そうですね」

そりゃ、当たり前だ。相手はA級1位である。そのことにランク戦が始まって気付いた。よく見ればエンブレムに「A」そして「01」と書いてある。そう、私は気がつけば、A級1位の人とランク戦をしていたのである。何その無理ゲー!!と叫びたかった。ポイント取られないだけマシだ。B級上がって初めてのランク戦がA級1位とか…!

そして多分この人は噂の太刀川さんだ。顔は知らなかった、というか人覚えるのが苦手で覚えていなかった。見たことはある気がするのでそれが正しい。A級1位、そして攻撃手1位を相手にしているB級なりたての私。A級って凄いんだなあ、と思いながら冷や汗をかきつつ弧月を構える。いくら相手が強者だと分かったからといって、私には諦める理由はなかった。

太刀川さんが突っ込んでくる。ああ、凄いな、速いなあ。弧月を受ける構えをしていたが、太刀川さんが弧月を振るその瞬間に体勢を変え、そして素早く動いて避ける。動体視力が並外れていいことだけが取り柄の私には、太刀川さんの動きも弧月も良く見えた。私は瞬時に刀を逆手に持ち替えて、隣を通り過ぎた太刀川さんを背中から刺した、はずだった。しかし、私の胸から剣先が出ている。

「…引き分けか」

太刀川さんのその声が聞こえた時には、ボスンとマットの上にいた。引き分け、ということは私の弧月はちゃんと太刀川さんに刺さったのだろうか、そんなことをぼんやりと考えながらマットから起き上がりブースから出た。0勝9敗1引き分け、それが結果だ。

ブースを出るなり色んなところから視線を感じた。そりゃそうだ。誰だあの女?知らんやつが太刀川さんと戦闘してるぜ、ってなったら視線も向くだろうな。

「あー、ちょっと油断したか。……それにしてもオマエ、いいな」
「は…い…?」

急に目の前に現れたかと思えば、太刀川さんが顔を近付けてくる。ひえっ、と次こそは声が出た。何だろう。怖いぞ。その目で見つめられたら、なんかもう警鐘がガンガンなっている。私は怖くなって後ずさった。

「なあ、……」
「すいません。用事があるので失礼します!」
「って、おい!」

何やら言われたが太刀川さんからの圧と恐怖と周りからの視線で私はもうダメだった。気がついたらそう口走ってその場を離れていた。いつも来ない廊下を歩いて、自販機で飲み物を買って隣のソファに座る。ふう、と落ち着いて時間を確認するが夢依の訓練が終わる時間はまだ先だった。


◇◆◇



適当に時間を潰してから、もう訓練が終わる時間だ、と狙撃手の訓練が行われている部屋の近くへと赴いた。ぼーっと彼女が出てくるのを待っていれば、知らない人に声をかけられた。

「お、たけのこちゃんだ」
「……た、たけのこちゃん?」

誰だろうこの人。めっちゃリーゼント。それが最初に思ったことだ。「めっちゃリーゼント」って絶対日本語間違ってるなと思いながら、彼を見上げるが正直本気で誰か分からない。まあこの辺にいるのだから狙撃手の人だろう。あの人だかりから出てきたのだろうし。

「この前たけのこのお菓子くれただろ?」
「は、はあ」

この前?たけのこのお菓子くれた?と思い返す。残念ながらクラスメイト以外にボーダーでの知り合いは限られているし、たけのこをあげた記憶もそこまでない。こちらを見てニヤニヤしている彼を見つめる。そしてあることを思い出す。

「あ、あの時のたけのこ誘拐犯、……さん」
「ぶっは、なんだそれ」

思わずその言葉が口から出た。年上だろうから一応「さん」付けはした。リーゼントさんは声を上げて笑っている。笑う度に少しだけ揺れるリーゼントが気になって仕方ない。

「当真勇だ、よろしくな。たけのこちゃん」
「は、はあ…。苗字名前です。たけのこちゃんです」
「いいのかよ、あだ名がそれで」
「まあ、たけのこ好きなのは否定しませんし」

そう言って頷けば可笑しそうに彼は笑っていた。たけのこ誘拐犯さん、もとい当真さんは「また今度くれ」と言って手を振って廊下を歩いていってしまった。で、結局あの人は何だったのだろうか?そう首を傾げていれば、夢依が去っていく当真さんの背を見つめながら寄ってきた。

「あんた当真さんと仲良いの?」
「いやあ、さっきが初対面だけど」
「へー、あの人No.1狙撃手の人だよ」
「えっ…、あのリーゼントの当真さん?」
「そう、そのリーゼントの当真さん」

そうなんだー、と彼の去った方を見るがもう彼の背中はそこにはない。私、さっきNo.1狙撃手と喋ってたのか。今日は太刀川さん含め、No.1との遭遇多いなあなんて考えていれば、夢依に肩を叩かれた。

「私、あんたが超絶タイプだと思う人見つけたんだけど」
「え、どゆこと?」
「めっちゃマッシュ似合う人!」
「なにそれ!男の人?女の人?」
「男の人。ほら、今でてきたあの人」

私の「めっちゃリーゼント」と同じように「めっちゃマッシュ」という言語を使う夢依の言葉を聞きながら、彼女の視線を辿る。そこには確かにマッシュの男の人がいた。

「……」
「ね、どう?」
「……め」
「め?」
「めっちゃどストライク」

ポツリ、そう零した。やばい、なにあの人。あの顔にマッシュは視界に暴力すぎる。そう初めてマッシュを見て衝撃を受けた時と同じくらいの衝撃が私の身体を貫いた。あの人過去一でマッシュ似合う。

ああ、やっぱりマッシュっていいわあ。

と、ほくほくしながら帰るために夢依と廊下を歩く。今日は本当にNo.1と出会う日だ、なんて。


その頃、あの太刀川さんと1本引き分けたB級なりたての女子がいるだなんて噂が流れ始めていることをその時の私は知らなかった。

(あのマッシュの神のお名前は?)
(マッシュの神って…。奈良坂先輩だよ)
(なるほど、……ゴッド奈良坂、か)
(ぶっ、やめろ!芸名みたいじゃんか!)

星の唄聲が聴こえない