シオン


翔陽がブラジルに行ってしまって結構時間が経った。

みんなから「日向がいないから寂しいね」と声をかけられて思う。

「私、意外と寂しいって思ってないかも」ってことに。時差があるし、料金も馬鹿にならないからほぼ電話はしない。

メッセージアプリで時々やりとりはできるし、元気そうな写真も送られてくる。ビーチでプレーしている彼は段々日に焼けていってて、帰ってくる頃には黒焦げになってそうだ。

それを想像しただけでもう面白い。


行く前のツーショットはスマホのロック画面の壁紙にしている。黒焦げの翔陽はホーム画面の壁紙に設定しようかな。きっとロックを解除した途端、大人びて、そして焦げた翔陽がいたら温度差で笑ってしまいそうだ。

私はその時をとても楽しみに待っている。


◇◆◇


「名前ちゃん、案外寂しくなさそうだね」

久しぶりに仁花ちゃんと月島と山口と集まった。影山と翔陽はさすがに来ない。

私は仁花ちゃんの言葉にぱちぱちと瞬きをする。そしてにっこり笑う。

「うーん、そうかも?」

月島と山口はドリンクバーに飲み物をを取りに行っているから、今は仁花ちゃんと2人だった。

「行く前は凄く寂しがってたよね」
「あ、覚えてる?」
「本人に行かないでなんて言えないから、って沢山お話聞いたもん」

それを聞いて思わず苦笑する。

翔陽がブラジルに行くのは割と早い段階で決まってたことだから最初は平気だった。ただ"その日"が近付いてくると、段々よく分からないモヤモヤとした、鬱々とした感情が私を襲ってきて落ち込んでいた。翔陽といる時はそんな素振り見せないようにしてたけど、同じ元マネで親友の仁花ちゃんとお話した時に少し喋ったら全部出てきてしまった。


頑張って欲しい。でも寂しい。
向こうに行ったら私のこと忘れないかな?
もしかしたら帰ってこないって言うかも。
遠距離に疲れたって別れたりしないかな?


自分本位の感情が嫌で仕方なくって、でも止まらなくて沢山沢山吐き出してしまった。

いざ翔陽が向こうに言ってしまえば、何となく新たな接し方を見い出せたし、それなりに上手く付き合えている。

「その節はご迷惑をお掛けしました」
「いえいえ」

今更湧いてきた羞恥心と沢山の申し訳なさ。それを滲ませながら仁花ちゃんに頭を下げる。仁花ちゃんも頭を下げた。


「え、何してるの?」

ドリンクバーから戻ってきた月島がこちらを見下ろしてそう聞いてくる。後ろから山口も歩いてきた。私と仁花ちゃんは同時に首を横に振る。

「はあ?何もないわけないでしょ?」という表情を浮かべた月島。それを見て2人でくすくす笑う。山口は不思議そうに首を傾げていた。

「なんでもないよ。ねー?」
「うん。ふたりの秘密」
「そうそう」
「はあ?」
「ドリンクバー取りに行こう」
「うん!」

次こそ声を上げた月島を見てさらに面白くなった。仁花ちゃんの背中を押してドリンクバーに向かった。

後ろから「女子ってよくわかんないね?」という二人の会話が聞こえてきた。


__あー、ここに影山と翔陽が居たらなあ。やっぱりなんか足りないや。そんなことをぼんやりと考えた。


「そういえばあの花どうなったの?」
「シオン?」
「そう」

ドリンクバーのコップを取っていると仁花ちゃんが声を掛けてくる。

「結構育ったよ。咲くのは10月だからもう少しかなあ」
「咲いたら写真送ってね」
「もちろん」

今までお花にはあまり興味がなかった。

でも翔陽が居なくなる3月のあの日。二人で何故か買ったシオン。3月に植え付けられるから、なんて安直な理由で買ってしまったが、私は意外と愛着が湧いて沢山調べながら毎日大事に育てている。


「日向がね、これでちょっとは寂しくないかなって言ってたよ」
「え?」
「名前ちゃんが寂しいの我慢してるの気づいてたみたい。ちょっとでも寂しさが紛れるように何かできないかなって」
「そうなんだ」

あれ、上手く隠せてなかったのかな。ちょっと恥ずかしい。

「寂しくはないよ。日向が残してくれたシオンがあるし、時々写真くれるし」
「なんか黒くなってたよね」
「うん。多分帰ってきたら真っ黒黒に焦げてるだろうなあ」
「ふふ、想像したら面白いね」
「ね?」

またみんなで集合写真撮りたいな。もちろんツーショットも。1年生の時のあの日、3年生の時のあの日、そして帰ってくる日。私たちは変わらないのに、どんどん変わっていく。

与えられた同じ時間の中で、それぞれがどんどん成長して行って、それでたまに道が交じる。


「そういえばなんでお花だったんだろう」

ぽつり今まで思っていたことを呟く。私が面倒臭がりなの翔陽は知ってるくせに。まあ今となっては、何だかんだ言ってとっても大事に育ててるけど。

「なんか、妹ちゃんに相談してみたらそうなったって」
「あー、なるほど。なんか翔陽らしいね」
「ね?」

そう言ってまた2人で顔を見合わせて笑う。そんなことをしていると、視線を感じたので振り返る。

遠くの席で「早くしてくれない?」と圧を送ってくる他の人より頭ひとつ分高い月島が見えて、慌てて席に戻った。


__あーあ。早く翔陽に逢いたい。

(シオンの花言葉)
(遠方にある人を思う)

星の唄聲が聴こえない