多くの子供達の悲鳴、泣き声……息絶える声で溢れていた。
ありとあらゆる方法で女神を貶めようとした、狂った教団で、
自身も痛みと苦痛、絶望に耐えながら、耐えながら、……地獄を過ごしていた。
どれだけ助けを請うても聞き届けられず、段々女神もクソもないのだと、思いながら。
絶望してあきらめた方が気が楽だとか、誰かが助けてくれるとか。
そんな感情を持つことすら、疲れ切った時だった。
絶望に、絶望を上書きして、きっともうじき命も尽きるだろうと、
痛みを覚える痛覚も、苦痛を感じる心も、この状況で生きようと、足掻く命も、
もうすべてがどうでも良くなった、その時だった。
その人が―――現れた。
その日はいつもと様子が違ったことを彼は覚えている
遥か上層の方での爆発音、聞きなれた教団員と、聞きなれない何かの叫び声、怒鳴り声、そのどれもが遠くに感じていて、
(まだこのガキの実験が終わってない!このガキだけでも回収して逃げろ!!)
何を言ってるのか、解らなかった。もう少年は疲れ果てて、彼を嬲り続けた教団員の言葉を耳が拾うのを拒絶していた。
けれど、ただ慌ただしい手つきで拘束具が取り外されているのは解った。
あぁ、ようやく死ぬのか。そんなことをぼんやり思いながら。
しかしその時けたたましい勢いで扉がぶち壊されて、一つの影が駆け抜けた。
燃えさかる太陽のような長い髪は暗い暗いこの場所ではひと際輝いて。
(もう、もうここまで……!)
(ガキだ、ガキを盾に……ぐぁ!!)
衰弱状態の体は、動かず。
ぐっと掴まれた腕を引き寄せられたかと思えば衝撃破が飛んできて腕を掴んだ相手が吹っ飛んで行った。
よろけた体は地面に……倒れず。
血と、硝煙の匂いが混じった、柔らかい腕に抱き留められた。
想像以上に数が多い、と呟いた声を耳が拾う。
『俺の事は、いいから……逃げろ……。』
傷ついた少年は、絞り出すような声でそう言うった。
そのことに、少年は若干驚く。誰かを気遣うような感情が、まだ自分にあったのかと。
『こら。違うでしょそれは。』
傷ついた体を優しい手つきで抱え込まれた。
ふわりと浮かべた笑みが、優しく細められた青色の瞳が。
遠く、遠く離れた昔、……故郷で過ごして、触れた、優しさを、少し思い出させた。
『お前の助けてって声だけでここまで来たんだから。』
くしゃりと撫で付けられた手のひらの温もりを、忘れることはない。
抱えられた温もりは離された後にその女の背に隠され。
金属音に爆発音が鳴り響いた後、多勢に無勢だった状況は覆り。
教団員は次々に拘束され、された端から自害するやつの顔を見ながら。
それに気づいた女性がそっと手のひらで目を隠してきて。
そうしてそのまま、自身を優しく抱き上げた温もりに安堵して少年の意識は落ちていく……。
「…………夢か。」
ベッドの上で、寝たまま、瞼を閉じたままの状態で髪を掻き上げる。
懐かしい夢だった、時間で例えるなら10年前の。
それは思い出したくない過去であり、けれどもし思い出した時には、
ほの暖かな優しさを、淡い感情を思い出させる過去の記憶だ。
赤く長い髪に、吸い込まれそうな程深く澄んだ青色の瞳。
とても凛々しい女性かと思いきや、蓋を開ければいい加減で、雑な性格で。
けれどあの時の自分にはそれが居心地が良くてー……。
いい加減過ぎて自分の教育に悪いと師匠に怒られていた姿を良く思い出す。
それを雑に聞き流して余計に怒られていたあの人の姿を。
「会いてぇな。」
ぽつり、言葉が零れる。
表情が感情によってころころ変わる様は愛らしく、
強く握れば折れてしまいそうな細腕で守り抜いてくれた腕の暖かさ、
いい加減の様に見えて自分がやるべき、貫くべき信念を曲げない心の強さ。
あれから10年経ったが、惜しみなく与えられた全ては色褪せる事はなく。
会えなければ会えない程想いだけが焦がれていく。
焦がして、焦がれて、10年がけで拗らせた感情は
一言、二言だけ交わして別れたあの日から燻り続けている。
どれだけの出会いと別れを経てもその火種が消えることはなかった。
けれど会えない時間はとても長く、寂しく……諦めようとした日もあった。
だけどその日は余計に苦しみが増して寂しさも一層色を濃くしただけでー……。
それなら
昨日も探し、今日も探し、明日も探そう。
どっちか選ぶときに、どっちも捨てたくないと苦しむのなら。
楽なほうじゃなく苦を選べと、結局その方がマシだと言ったのは他でもないあの人なのだから。
そうして彼は目を開ける。
天井はいつも通り、外は子供達の笑い声で騒がしく。
上の階ではアルバイトが起きる支度をしているのかパタパタと音がする。
1人でやっていた仕事は1人また1人とアルバイトが増えていった。
騒がしくなる職場にほんの少しの疲労と、温もりを感じながら。
彼はベッドから起き上がり顔を洗うために洗面台に向かう。
―――今日も仕事の始まりだ。
そうして夜は明けて朝が来る
(ヴァンさんおはようございます!)
(フェリか、早いな。)
(はい!今日のモーニングは期待しててとポーレットさんが言っていましたので!)
(そうか。アーロンの奴は帰って来てんのか?)
(アーロンさんですか?さっき帰ってきたばかりです。)
(あのクソガキ……。)
2021/11/22
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