ヴァンの疑惑を含んだ眼差しに一切答えることはなく。リゼットの様子を確認した後に裏解決屋一行にカトルが合流した。
彼女は彼女で昨日遠目からヴァン達の業務を見てはいたが自身が経験するのは初めてで。
4spgを見学という体でついて行き、危険な武者型の人形兵器を討伐した後。ギルドやジスカール技術長、クロンカイトに話を聞くために職人街へ移動した。
一行はまずギルドに向かうことを決めて遊撃士協会に顔を出すことにした。
扉を開けるとイーディスから来た応援の遊撃士二人と受付、そして菫色の少女。
来訪者に気づいた面々は振り返り、アルヴィスはヴァンを視認して不快そうな顔を隠しもしなかったが、カロンの姿を確認してしてパッと表情が明るくなった。
「ーーー“流星”!」
「ん?初対面だよね?」
「アリオスさんから話を聞いています!」
「げ。」
絶対碌なこと言ってないでしょあいつ。
心の中でそう思いながらも、何を吹き込まれたか知らないがキラキラとした笑みを浮かべて彼女に向かってくる青年を迎えるために手を差し出す構えを取る。
「お会い出来て光栄です!後ほどお時間がある時に是非ご指導頂ければ!!」
「何?まさかあいつそんなに私の好感度上げるようなこと言ったの?いや、あいつが?嘘でしょ??」
「? 自分と対等は貴女ぐらいだと言っていましたよ。魂を削り合うように競い合ったと。」
「…………。……ま、腐れ縁だしね。」
会わなくなって何年経ったか。歳月を数え、大体7年か。もう、そんなに会ってないのか。
昔は1日も顔を合わせない日なんてなかったのにな。そんな事を考えるとほんの少し寂しさを感じた。それでも会うことはないのだろうけれど。
それにしても眩しいくらいの笑顔に強く握られる掌。勢いに押されていた所それを解く手があった。
べりっと言う効果音が似合うような勢いで肩を抱かれながらアルヴィスと引き離される。
昨日のメルキオル、今日のアルヴィス。2度も続けば彼女もその行動の理由を察した。
(嫉妬か……。)
「お前!昨日からなんなんだ!?」
「近ぇんだよ離れろ。」
「お前の方が全然近いだろ……!?い、いや、まさか……!?」
バッと頭ごと振り向いてカロンに視線を向けるアルヴィスに困ったように笑う。
片腕を持ち上げてヴァンの頭を抱き抱えるように引き寄せた。
「私の“天狼“だよ。」
できる限り甘い声を意識して。
背後から煽るような口笛が彼女の耳に入るが聞こえない振りをした。
人差し指を刺したまま固まったアルヴィス、同じく硬直したヴァン。両者を見て思わず笑うレン。
少しして恐らく唯一“天狼”に彼女が込めた意味を悟ったカトルが思わず咽せた。
目線だけ向けるとそこには顔を真っ赤に染めてケホ、と咳払いする少年が一人。
「カトルもこれくらいサラッと言えるようになっておきなさい。」
「いや、そんな、えぇ!?回りくどすぎると思うんだけど……!?」
「まぁ直球は若さの特権だけどね。」
抱え込んでいた頭を撫でた後、軽く触れるように頬を撫でる。
手を離す間際、ヴァンの耳にカンニングはNGとだけ伝えて回されている腕を払う。
「今はこんなことよりやることがあるでしょう。アルヴィスもまた今度って事で。」
「ふふ、見ていたい気持ちもあるけれど……。そうね、でもギルドに寄って貰えて丁度良かったわ。」
レンも切り替えるように軽く咳払いをして。
ヴァンとアニエスを見据えて共有したいことがあると伝えた。
「……別に裏解決屋とまで共有しなくてもいいんだが。」
「ハッ、みみっちいこと言ってんじゃねえよ。そんなんじゃモテねぇぜ?」
「な、何ぃ!?」
「もう、話が進まないから……。」
不服そうなアルヴィスの発言にアーロンが煽るように返し、それにまんまと乗せられる。
レジーナがどこか呆れたようにアルヴィスを諌めながらヴァンはレンに視線を向けて先を促す。
先程、会議室から出た時にカエラ少尉も含めてのやりとり。
首都の北にあるアンカーヴィルでの爆発事件の追加情報を一行に語る。
件はやはりアルマータの仕業で間違いがないという事。取引のあった企業にも手伝わせたのが判明し現場は混乱が極まっている事。
続いてアルヴィスが喋る。ジンやエレインだけでなく複数の高位遊撃士が対処に追われていると。
……エレインというのは確か剣の乙女だったか。ここ最近よく聞く名前の遊撃士だ。
どうしても、遊撃士の名を聞くと髪の長い男が出てくる。ーーー全く、本当に未練がましい。会わないと決めたのはカロンだというのに。
応援に駆けつけたいと言った彼をレジーナが諌める。
昨日の事件もあったのだからバーゼルのことも放って置けないと。
「その通りよ、あくまで“本命”はこっちだという推測は変わらないわ。と言っても、マルドゥックの部隊が守っている以上、市内が直接襲われる可能性は低いでしょうけど。」
「ぶっちゃけどんくらいのもんなんだ、そのマルドゥックの警備部隊ってのは?」
「練度なら高位猟兵団に匹敵、装備に関しては完全に上回るでしょうね。特にあの警備主任は凄まじいらしくて……その辺りは裏解決屋さんとそこの妹さんの方が詳しいかしら」
警備主任ーーーカシムの話題を振られたフェリは兄を思い出しほんの少しだけ俯く。
高位猟兵団に匹敵する練度、そしてそれらを上回る装備。それらはある意味“赤い星座”や“西風の旅団”にも匹敵するほどの戦闘力なのだろう。
彼女自身もカシムの実力は目にしている。味方ならばこれ以上に頼れる相手はいないが、敵対したらカシムほど厄介な人間も中々いない。
“史上最強の一人”と呼ばれるのは決して誇張ではない。
「ま、とにかく市内の警備は任せて問題ないってことだ。それよりアルマータの方がどう出るかが気になる。」
メルキオルとオランピア。
庭園の関係者であることが確定した両名は昨日の交戦の際に自ら“管理人”を名乗った。
4つの“庭”を司る管理人、今までの庭園に関する情報と照らし合わせてもそれらは間違いではないこと。
「ですがそれぞれ微妙に立場が違うような印象でしたね。」
メルキオルを、オランピアを、二人を思い出しながらアニエスは言う。
メルキオルはアルマータの幹部の一人ではあるがオランピアは単に“契約”で協力しているだけという口振りであったことを。
それを聞いたアルヴィスは怪訝そうに腕を組み、ややこしいな、と言葉をこぼした。
ともかく、最悪のマフィアと最悪の暗殺者が手を組んだのは事実だった。
カロンもまた腕を組むように姿勢を変える。
「いずれ考える必要はあるけど、それよりも目先の問題が先かな。」
「そうね、対策は必要そうだけど……今はとにかくバーゼルのことね。貴方たちの方は何か進展があったかしら?」
「残念ながらこれといったことは……むしろAI化したキャラハン教授の居場所について先輩に何か手がかりがないかと……。」
「この辺の地理に詳しくないから手がかりになりそうなものはないわね……。一応導力ネットの方も探ってみたけど、流石に尻尾は見せてないわ。」
期待に応えられそうになくてごめんなさいね。
困ったように笑うレンにアニエスもそう簡単には行きませんよね、と同じく困ったように笑みを返した。
……この周辺で怪しいならオールト廃道か、とカロンの脳裏に過ぎる。そこは4年前に来た時に長めの滞在だからとバーゼルの周辺を索敵した時に踏み行った場所。
それでも何も根拠は出せない、ただの勘だけの推測。
もし万が一に外したら時間的にも猶予はない。それなら黙ってるのが無難だろう。勘に頼らざるおえなくなった時に助言すればいい。
「特に注目すべきなのは導力ネットとの関係ね。現代技術の結晶でおある導力ネットとは縁遠いもののように思われるけど……特殊な条件下で互いに影響し合うことは一年半前の事件でも確認されているわ。今回の事件との共通点も多いーーーもしかすると何らかの形で関わっているかもしれないわね。」
「そういえば4年前のオルキスタワーでも似たようなことがあったって後から聞いたな。」
七曜脈と導力ネットの関係性。レンにも言われたそれは、彼女に言われる前にリゼットにも同じことを言われていた。
二人からすれば1年半前の事件が印象に強いが、カロンからすれば後から聞いた事とは言え独立宣言時のオルキスタワーの印象が根強かった。
レンとリゼット、そしてカロンの後押しもありカトルは考えても見なかった着眼点に思考を深める。
「参考にさせてもらうぜ。俺たちはこのままキャラハンを追うつもりだが、アンタらはどうする?」
「私たちは市内の警備に参加するつもりよ。マルドゥックにだけ任せるわけにはいかないから。」
「いくら実力が保証されても、彼はお前達以上に胡散臭いからな。」
「カシムはまぁまだ大丈夫そうな感じはあるけどソーンダイクはなぁ……。」
会議室で初めて会った男のことを思い出す。
あれは相当に油断が出来ない男だった、出来ることならあまり交流を深めたくない相手だ。
「何か進展があるまで私は引き続きこっちを手伝うわ。視察研修の方にも気を配らないと。」
そう言ってレンはアニエスに向き直り、その瞳をじっと見据える。
「アニエス、オデットやアルベール君たちが待っていることを忘れちゃダメよ?」
「ーーはい。先輩も、どうかお気をつけて。」
ギルドを後にして続いてジスカール工房に向かう途中。
軽やかな足取りでフェリがカロンに近づき、下から見上げるように覗き込んだ。
幼さを感じる素振りに軽く笑みを浮かべて柔らかい髪を撫でる。
「あのっ“天狼”ってどんな意味なんですか?」
「おっと直球で来たか。」
撫でていた頭をわしゃわしゃと揉みくちゃにして。驚いたように身動ぎするフェリを、しかし逃すこともなく。両手を使いながらメチャクチャに撫でる。
抗議の声が聞こえてくるが聞こえないふり。手は止めずに。
「そうだなぁ、とある“星”の別名だよ。それ以上はあの子が解ってないのに教えられないかな。」
最後に思いっきり撫でて、パッと手を離す。
勢いよく撫でられたフェリは少しふらふらしながら、揉みくちゃにされボサボサになった髪を手櫛で撫で付ける。
少女は恨めしそうにカロンを見て、彼女はケラケラと笑いながら優しく髪を溶かすように指を動かした。
もうっ!と憤慨する少女のご機嫌を取りながら視線を動かして、またフェリに戻して。
一瞬見えた透き通るような、海の青い光。あの言葉に込めたのは再会する以前から彼に対する想いも込められていた。
どれだけ目を逸らしてもその光が彼女の視界で輝かない夜はなかった。その星を見る度にその道行の無事を祈った。
ヴァンが彼女の事を特別だと思うように、カロンもまた彼のことは特別だと思っていた。
あの地獄の中、それでもその瞳に星の煌めきを見た。煌めきは日を数える毎に眩く。離れる決断をしたあの日は随分と後ろ髪を引かれたのを覚えている。
それを、本人に伝えるのはむず痒い。いずれ伝えるかも知れないがそれは今ではない。
「…… カロン、フェリ。もう工房に着くからな。戯れ合いは控えるように。」
「あっ、了解です!」
「はーい。」
ジスカール工房を目前にして、ヴァンが二人に声をかける。
振り向いた二人に彼が呆れたような顔をすると、ジスカールの怒鳴り声が聞こえてきた。
「ーーーもう一度確認してみろ!何度でも念入りにな!」
「は、はいっ……!」
それを工房の外から一行は見る。慌てたように再度何かを確認しに行った若手技師を見て、カトルがジスカールに声をかけた。
「技術長、どうかしたんですか?」
「なんかトラブルなら、相談は受け付けるぜ?」
「相談してどうこうなるもんじゃねえだろうが……状況が状況だ。一応、お前らにも共有しとくか。」
新兵器の部品の紛失、それを聞いたカトルが驚きに声を上げる。
曰く、その紛失はキャラハン教授の行方を追っていた矢先に判明した。
「と言っても完成品が消えた訳じゃねぇ。」
試作機のために発注したパーツ群のリストに食い違いがあり、その差分の所在が現在、完全に行方不明になっている。
ジスカールは全部でどれくらい消えてしまったかすら追いきれない現状であることを告げた。
「そいつは確かにコトだな。俺たちにはどうこうできる話でもねぇ……だが天下のジスカール工房にしては、いくら何でもあり得ないミスだな。」
ヴァンの言葉にジスカールは頷く。
半ば公表しているとはいえ、公式発表前の、共和国の新兵器の試作機。
部品一つ一つが国家機密に関わってくると言っても過言ではないだろう。
ジスカールはタウゼントにゲキを飛ばした矢先に発覚した不始末に不甲斐ないと漏らした。
そういう彼に対し、目を瞑って考えていたカトルが口を開く。
「……確か、ジスカール工房の部品発注は導力ネットを使った最新システムでしたよね?もしかすると今回の導力ネットのトラブルにも関係しているんじゃ……?」
「ああ……うちの若いのもその見解だ。今回起きていることを考えると色々と想像しちまうが……。」
「……何か意図のようなものを感じますね。」
考え込むような裏解決屋一行を見て、ジスカールは謝罪した。
「悪いな、バーゼル全体が大変だって時にややこしい問題を起こしちまって。こっちでもキャラハンの行方は探ってるがまだ手がかりらしい手がかりは見つかっちゃいなくてな。」
ジスカールはカロンの名を呼ぶ。
「普段人目につかねえ、打ち捨てられた場所なんかがクサいと思ってるんだが……どう思う?」
「……今の話も聞いた上で、候補はある。けど実戦叩き上げの私みたいな奴の行方を探してるなら間違いないって言うけど相手は学者先生。勘じゃなく理論詰めで探すべきでしょ。どうしても行き詰まった時に賭けるぐらいで丁度いい。」
「そうか、カロン姉4年前にバーゼル周辺を索敵してたね。」
「あの時長めの滞在だったから、いざという時の場所のスポットは抑えてるつもりだよ。今回はまだ索敵出来てないから、4年前の認識しかないしね。」
彼女は既に、勘ではあるがキャラハンがーーーではなく、アルマータが潜んでいる場所の候補地の目星はつけている。
けれどタイムリミットもある状況で不安定な確立の目星に意味はない。
「お前さんの勘の良さは信頼しちゃいるんだがな。」
「そりゃあいつみたいに運が良いんじゃなくて、手繰り寄せて無理矢理にでも掴み取るようなタイプの人間なら賭けてもらっても良いかなって思うけど。」
「ったく、普段ちゃらんぽらんなのにこういう時は慎重だよなぁ……。……依頼のレンズは仕上げてる、終わったら取りに来い。」
「ありがと。精度が上がるのは純粋に楽しみ。」
そう言って、一行はジスカール工房を後にする。去り際にヴァンが「何か分かったらこっちにも知らせてくれ。」と告げて。
そしてジスカール工房の隣の坂を登り、一行はもう一人の探し人を見つける。
痕跡を追う
(メルキオルとオランピアが廃道で潜んでるのは当たりだとは思うけど、そこにデビッドが居るかは解らないんだよね。)
2022/9/11
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