汚い路地裏美しい女
江戸の路地裏にてその美しき女はまたも少年に絡まれていた___
「そんな所に女一人じゃ危ないですぜ。」
「ほぉ・・・今日はよく小童と出会ってしまうものじゃのぉ。」
「なんでィ。俺以外にも絡まれてんのかィ。」
「今日は随分と人っ子を寄せ集めてしまう日らしくてのぉ。主はなぜ故に余を引き留めたのじゃ?」
「そうだねィ・・・いうならば、テメ―が人間じゃなさそうだったからでさァ」
女は美しい髪をなびかせて体を翻し少年の顔を見つめた。
「主は人間じゃ。・・・随分と感が良い人間もいる物じゃのぉ。」
「つーこたァ、てめーは人間じゃねぇってことだねィ?」
「さぁ?どうだろうねぇ」
「ここでその返しは肯定って事になりやすぜ」
にやり、不敵に笑う少年に女は目を閉じては微笑んだ。
「主の名を聞いても良いか?そしたら私も名乗ってやるぞ。」
「そりゃあ随分とステキな誘惑だねィ。ただ・・・俺ァてめーの身を確保してぇんだ。名前だけじゃちっとばかし足りだろィ?」
少年のそんな言葉に女は目を見開いては、笑った。それはそれは美しく。
「ククッ・・・そんな事を余に言う奴は初めてじゃ。良いぞ、良い。とても面白いぞ。良かろう、主に着いてきてやるぞ。・・・余の名は、千桜じゃ。主は・・・?」
「・・・沖田総悟でさァ」
「そうか、そうか。ならば・・・総坊かのぉ?」
「総坊だァ?」
「あぁ、そうじゃ。余にはちと昔ながらの癖があってのぉ。気にしなくてもよいぞ。」
二十くらいの女。しかしながらどれくらいの年数をいきながら得ているのか分からない、そんな生命体に少年、沖田総悟は少しながら焦燥感に駆られた。
「総悟・・・こりぁどういうことだ?」
「土方さん、そんな瞳孔開かないで下せェ。千桜姉が怖がりまさァ。」
「総坊や。余はその程度じゃ怯えぬぞ。」
「おぉ、姉さんは随分と強かですねィ」
「くふふっ、まぁな、」
土方は目を見開いたあの沖田が随分と楽しそうに話しているからだ。姉さん、と呼んでいるが彼の血の繋がっている姉とは少し違う。崇拝とは違う何かを感じた。
「で、こやつは?」
「あァ・・・マヨ方っていいやしてね、ちょっと頭が可笑しいいつか俺に殺される男でさァ。」
「ほう・・・で、結局誰なんじゃ?」
「・・・土方十四郎、俺の上司でさァ。」
ほう、そうかそうか、教えくれてありがとうのぉ。そう言っては沖田の頭を撫でまわす女。
「おい、総悟。結局何なんだその女は。」
痺れを切らしたように土方は声をあげた。その声は通常より怒りを含んでいる。
「あぁ、言わなくて良いぞ総坊。初めましてじゃのぉ、十四坊。余は千桜じゃ。好きに呼ぶとよい。」
「苗字はねぇのか?」
「おやまぁ、十四坊はちぇりーなのじゃな?ククッ。しかし余に苗字はない。苗字なんぞ生きてるうちに忘れてしまってなぁ。」
そんなのらりくらりとした態度の女に土方は顔を歪めた。
「忘れるって・・・てめェいつくだよ。」
「女性に歳など聞くものじゃないぞ。・・・まぁ、主らが生きる前から・・・かもしれんのぉ。」
扇子で口元を隠してはクスクスと上品に笑う女。
「そうでさァ。女性に年齢なんて聞くもんじゃないですぜ、土方さん。」
「・・・はぁ。総悟、真選組は女人禁制だ。ぜってェ入れるんじゃねぇぞ。」
「だってよ、姉さん。どういたしやす?」
「・・・仕方あるまいよ。余は救護も、なんなら戦する出来る自信すらあるんじゃが・・・総坊の上司が出来ぬと申すのなら仕方あるまいよ。」
ホッと溜め息をつくように女は言った。そんな女を見た沖田は土方をジト目で眺める。いくら生意気な部下とはいえそんな瞳で見られたら溜まったもんじゃない。
「・・・三日だけだ。三日後にはぜってェ帰れよ。あくまでもこれは保護だからな、保護!!」
「土方さんは難しい人なんでさァ、姉さん。」
「ほう、可愛らしいのぉ。」
「お前らちょっと黙ってくれない!?!?」
「なんで三日経ってんのに居座ってんだ、アンタ。」
「まぁまぁ、近藤さんもずっといて良いとのことでだったじゃねェですかィ。そんなカッカしてると早死にしやすぜ?」
「うるせえ。真選組は女人禁制なんだよ。」
「大丈夫じゃ。あと少しすれば余はここを出る。」
「・・・それは・・・どうしてですかィ?マヨ方がしつこいから?男ばっかでむさくるしいから?飯がまずいから?どうしてですかィ・・・居なく、なんないでくだせェ。」
「随分と懐かれたものじゃ、余も。別に主らに火があって余がここを出ていく訳ではない、そろそろ奴が来るからのぉ。」
「姉さんは誰かに追われてるんですかィ?」
「追われているというか、探してもらってるという方が正しいのぉ。」
「探してもらってる?」
「あぁ。そうじゃ。余がまだ江戸に来る前の・・・・」
「おい!!千桜姉!!!居るんなら返事しろ!!!」
「万事屋の旦那!?」
「おやまぁ。随分と騒がしい登場じゃのぉ、銀坊や。」
「・・・千桜、姉・・・千桜姉!!ずっとどこに行ってたんだ、このクソアマ。」
「主が余を探しここに来ることは分かっていた。それを踏まえ余がここで主を待っていたのは、銀坊や・・・久しいのぉ、随分と大きくなったのぉ。余は主と一緒にいたい。」
「は・・・なんだそれは、ラブレターか?」
「くくっ、余がそんなものをするたまじゃと主は思うのか?」
「いーや、好きな奴を散々振り回した上で目を抉るような、そんな女だてめェは・・・なぁ?千代姉。」
「よく分かってるじゃないか、銀坊。そうじゃ。余はちと会いたいやつが居てのぉ。そやつは主と会うらしくてな、言い方は悪いが・・・主を利用したくなってしまったのじゃ。」
「相変わらずの悪女だな、おめぇは。」
「えっと・・・取り敢えずさ・・・お宅ら知り合い?」
「ア?お前ら知らねェの?こいつ、俺の、姉貴分。」
「おや?そうなのかい?余は主の事を息子のように思っておったのじゃが・・・、」
「息子を利用する母親がどこに居るかよ、」
「それもそうじゃのぉ。」
「ちょ、ちょっと待って下せェ。なんでィ?万事屋の旦那、アンタ、姉さんに育っててもらってんですかィ?だから姉貴分?」
「え、何。総一郎君たらこのクソアマの事姉さんとか呼んで敬ってんの?うっわー。この女女狐のようなモンだから気を付けろよ。油断してっと絞るだけ絞られてやられっから。」
そーいや、どっかの厨二病野郎も千桜姉のこと敬ってたなぁ。銀時は今になっては暴れ回ってるあの男を思い浮かべた。
「おや、銀坊。主は余の事をそう思っておったのか?」
「いや、思ってないけど。良い姉ちゃんだと思ってるけど?」
「そうかそうか、ちとばかし仕置きが必要らしいのぉ。それに主も余のことを千桜姉なんて愛らしく呼んでるじゃないか。」
「気のせいだよ、気のせい。」
「それは残念じゃ。」
「とにかく、てめェはその女持って帰れ。これ以上総悟をたぶらかすんじゃねぇ。」
「土方さん、俺ァ、姉さんのことは本気で敬ってまさァ。旦那の事は死ぬほど羨ましいでさァ。・・・だが、俺も姉さんの邪魔をするほど落ちぶれてねェんでさァ。」
「いや、魅入られちゃってる時点で落ちぶれてるんだけど??ねぇ、マヨ方くん。」
「誰がマヨ方だ。殺すぞ。」
「まぁ、さ。ぶっちゃけ俺もこのクソアマ持ち帰りたくないんだけど。」
「それは悲しいのぉ。余は結構持ってる人だと思ってたんじゃが・・・、」
「てめェ金あんじゃねぇか!!んでこんなところ来たんだよ!!!」
「いや、少しでも駒は増えた方が良いと思ってのぉ、」
「今この女駒っていったよ!!うちの隊士のこと駒っていった!!!おい、総悟騙されんな!!!」
「姉さんを悪く言わねェでくだせェ。」
「ありがとうのぉ、総坊。・・・総坊や、余は沢山の駒の中で主だけは特別だと思ってるからのぉ。」
「とんだ悪女だよ、このアマ!!!!」
「だから言ったろ、大串君。この女はこうやって自分の手駒を見つけては飽きるまで愛でるのが好きなんだよ。ほんっと、性悪だな。持ち帰って新八や神楽たぶらかされたら溜まったもんじゃねぇ。千桜姉はそっちで預かっとけ。」
「いや俺も嫌なんだけどォ!?」
「そんな事言うでない。ほら、十四坊もこっちに来るとよい。」
「そっちにいったら洗脳されっからな、気を付けろよ。」
「おい銀坊や、ちいと余を馬鹿にし過ぎじゃぞ?別に余はな、主らの記憶を消しても良いのじゃぞ。」
「記憶を消すだァ?」
「・・・はぁ。んじゃな、大串君。仕方ねぇからこの女は貰っといてやる。」
「姉さん!!」
「総悟てめェはいい加減目ェ覚ませ!!」
「いやだから俺ァ別に洗脳されてるわけじゃないですぜィ。ただ、純粋に千桜姉を尊敬してるだけでさァ・・・、」
「おまえ・・・・純粋って言葉に合わねェな。」
「土方さんったら殺して欲しいなら素直に言って下せェ。」
「おい、てめェ!!ふざっけんな、!!!!」
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