秘める女は美しき




「て言うワケで、見つかったんですか、お姉さん・・・、」
サッといつもの癖で客人へと茶を差し出す少年。
「くくっ、初めましてじゃ。余は千桜と申す。好きに呼ぶとよいぞ。」
「えっと、じゃあ千桜さん。貴女は・・・その、ツッキーさんの言う葵さんで合ってますか?」
「ふむ・・・小童よ、主はどう思うんだい?」
少年の質問に千桜は妖しく笑って質問を返した。
「え・・・僕ですか?そうですね・・・僕は、合ってると思います。」
「その心は?」
「いえ・・・容姿がそのままなのと、雰囲気?ですかね・・・、」
マジメに答える少年に千桜は小さく笑った。
「人間のその感知能力はのぉ、外れているようで合ってる事も多い。良いぞ、自身の勘を信じるとよい。」
「つまり、合ってると・・・じゃあ、どうして吉原からいなくなったんですか?吉原の人たちはどうしてそれを覚えてないんですか?」
少年はほんの少し思った。どこか踏み入れてはいけない話題だったかもしれないと。だって通常の人間は人の記憶を意図して消すなんてできやしないのだから。
「さぁ。主で考えるがよい。」
「そう、ですか・・・じゃあ、銀さんはそれについて知っているんですか?」
「あぁ、知っておるぞ。なんせ長い付き合いじゃからのぉ。人間の中では余が一番気に入っておるぞ。」
やっぱり人間じゃない・・・少年は思った。
「そういや、少年。名を聞いても良いか?」
「あぁ、僕は志村新八です。」
「ほう・・・ならば、ぱち坊じゃのぉ。」
「何?お前新八まで誑かす気?」
「何のことか分からないぞ、銀坊よ。」
「惚けやがって。」
男の言葉に女はくつくつと笑った。
「えっと・・・ですね、それで千桜さんは本当でここで住むんですか?」
「あぁ、出来れば住みたいと思っておる。勿論、金は払う。」
「なら違うとこ行けよ。」
「そんな悲しい事を言うでない。言うたろう?余は主と一緒にいたい。」
「はぁ・・・どうやって総一郎君の事も落としたんですかー?」
「・・・総悟のことか?総悟は違うぞ。余はただ世間話をしただけじゃ。術など使っておらん。」
「・・・は、マジで?」
「大マジじゃ。」
「なら、んでだよ・・・、」
「だから、晋坊と同じじゃ。わしの何かに惹かれたのじゃろう。何、銀坊もその立派な何かを持って居る。ほら、ぱち坊じゃって銀坊の何かに惹かれて共にしておるのじゃろう?」
「え、そ、そんなことは・・・、」
「くふふっ、すまぬ。無粋な質問じゃったな。」
「とにかく、てめェは出てけ。俺以外にも一人ガキが住んでんだよ。」
「ほう、会いたい。」
「は?」
「じゃから、その小童に会いたいんじゃ。」
「・・・今公園とかで遊んでっからその内勝手に帰ってくる。」
「ほう、いくつなのじゃ?」
「14」
「幼いのぉ。余にもそんな時期が・・・忘れてしもた、そんな遠い昔の事。覚えてるのはやつと銀坊たちとの思い出だけじゃ。やつと出会う前はつい前と同じように遊郭にいた気がするのぉ。」
「年寄りは大変なこった。」
「千桜さんって何年生きてるんですか・・・、」
「さぁな。銀坊や、いくつじゃと思う?」
「知らね。数えるのもやめたわ。」
「くくっ、主のそういう所、愛しいと思うぞ。主は人間の中じゃ、余の一番のお気に入りだからのぉ。光栄に思うとよい。」
「思いたくねェよ。つーか、お前のいちばんは、あいつだろ。嘘つくな。」
「・・・余は嘘などついておらぬぞ。」
人間の中じゃ主が一番、嘘などない。小さく小さく心の中で千桜は呟いた。
「はっ、どうだか。女狐の言葉は信じられねぇよ。」
「好きにするとよい。主がそういうのならそうなのじゃろう。」
「・・・チッ。」

「・・・、」

「銀ちゃん新八帰って来たアルよー!・・・って、誰アルカ。」
「あ、神楽ちゃん!!えっと、神楽ちゃん。この人は・・・、」
「初めましてじゃのぉ。銀坊の姉の千桜じゃ。銀坊が世話になった。」
「銀ちゃんの姉ちゃんアルカ!!めっさ美人ネ!銀ちゃんの姉ちゃんに見えないアル!」
「血は繋がっておらぬからな。にしても、随分と特徴的な口調じゃのぉ。」
「えっと、神楽ちゃんは天人で、夜兎なんです。」
「ほう・・・、鳳仙の同胞か。夜兎は力強く血に飢えた種族じゃときいたが、随分と愛らしいのぉ。」
「私夜兎の血に従わないって決めてるネ。だから、あんなやつらと一緒にするなヨ」
「・・・くふふっ・・・!!くくくっ!!」
「何笑ってるネ!!」
「いや、すまぬ。とてもとても余が好きな童じゃったからのぉ。そういった芯が通ってる奴は嫌いじゃないぞ。流石は銀坊の仲間。あやつが背負うのも頷ける。
改めて、よろしくな、神楽よ。」
「・・・千桜、不思議アル。いきなり笑ったり訳が分からないアル。でも私分かるヨ。千桜、悪いやつじゃないネ。」
「そう言って貰えて嬉しい。・・・ふむ、夜兎は大食いじゃとも聞いたが、銀坊。この様子じゃ家賃もギリギリなのじゃろう?」
「は・・・、んで分かるんだよ。」
「姉じゃからのぉ。家賃もギリギリなのに、神楽や。ちゃんと食事はとっておるか?」
「とってないアル!銀ちゃんがパチンコばっか行くせいで全く食べれないアル!!」
「そうじゃろう、そうじゃろう。ほら、これをやる。」
「お金・・・?千桜お金持ちなのアルカ!?」
「まぁ、無駄に生きておらぬからな。これで好きなものでも買って来るとよい。」
「やっほー!千桜大好きアル!!じゃーな、銀ちゃん。私酢昆布買って来るアル!!!」
「そうするといい。そうじゃ、ぱち坊も丁度良い。ほれ、これもやる。これで食事をとるなり好きな事をすると良い。」
「え、こんなに・・・良いんですか?」
「給料だと思うとよい。」
「ありがとうございます。じゃあ、銀さん。僕も少し行きますね。」
「へいへい。」

「で、何。ガキ追い出してまで話したい事って。」
「いやな。神楽の事なんじゃが・・・神楽には家族がおるか。そうじゃな、あの感じだと兄かのう?」
「・・・あァ、いる。今回の吉原の騒動にも関わってる。あいつの兄は、春雨っていう海賊に所属してんだよ。あいつは・・・兄貴を助けてやりてェんだ。」
「ほう・・・あの小童はやはり地球人じゃなかったのか。」
「・・・つーか、お前マジでなにがしてぇんだよ。総一郎君みたいに新八たちも洗脳するつもりか?おいおい、やめてくれよ。新八アイツ童貞だからな。アイツすぐ洗脳されちまうから。」
「・・・失礼な奴じゃ。そもそもじゃが、余は総坊に一切手を出してないぞ。総坊は・・・亡き者を見つめているんじゃろうなぁ。」

「・・・はぁ、そーかよ。んじゃなに?お前のその力は使ってないってか?」
「そうじゃそうじゃ。誰かに迷惑をかけ誰かを変えてしまうような術は使わないと約束したからのぉ。」
「ふーん。じゃあ、吉原の連中の記憶消し去ったのも迷惑じゃねぇと?」
「寧ろ余と関わる方が己を変えてしまうじゃろうよ。」
「んじゃ・・・アイツはどうなんだよ。」
「月詠のことか?」
「あぁ、そーだ。」
「・・・ふむ・・・気紛れじゃ。理由などない。強いて言うなら、贔屓じゃな。姉として、記憶を消して何事もないようにはい初めまして、なんていささか気が引けてのぉ。」
「・・・ふぅん。・・・なぁ、どうしていなくなったんだ、お前。俺やアイツらも探した。まあ、見つからなかったけどな。・・・なぁ、どうしていきなりいなくなったりなんかしたんだ。先生は・・・、」
「知っておるよ。余は全て知っておる。知ってるからこそ・・・逃げたんじゃよ。」
「おい、何を隠してんだ。いつもそうだ。てめぇは俺やあいつ等や・・・先生にだって自分に都合の悪い事は誤魔化して、その上ありもしねぇ虚像を塗りたくるんだ。俺にゃ百戦錬磨の女の本音なんかわかりゃしねぇ。なぁ、姉さん。何を俺に隠してんだ。なんで隠すんだ。
・・・もう勝手に居なくなるな、心配するだろ。」
「・・・あぁ。もう勝手に居なくならないぞ。これは嘘じゃない。」
「秘密については何をしても明かせねぇってか。」
「女は秘密がある程美しいというじゃろう?それに、主はそこいらの知り合いなんかよりも余を知っておるぞ。余が何者か知っているのは今この世で片手で数えられるほどじゃ。」
「・・・そうか。」
「なんじゃ、嫉妬しておるのか?」
坂田銀時の目が大きく見開かれた。
「なワケあるか。勘違いもほどほどにしろクソ姉貴。」
無論、それは照れ隠しだった。そんな照れ隠しを汲み取った千桜は嫣然と笑った。
「手厳しいのぉ。」

「銀さーん!戻ってきましたよー!!」
「銀ちゃんただいま〜!」

「おや、ただいまじゃ。・・・じゃあ余はもうお暇させてもらう事にしよう。」
「・・・は?お前ここに住むって・・・、」
「なんじゃ。そんな冗談本気にしとったのか?こんな狭い所でこれ以上寝る場所があるものか。余はまいほーむとやらに住まうことにした。ほれ、そんな顔をするでない。別に遠くに行く訳じゃない。かぶき町には居座るつもりじゃ。」
「冗談・・・?なんだよそれ。かぶき町に居座るってのもどうせ悪い冗談なんだろ?またいなくなるのがオチなんだろ?なぁ?」
坂田銀時は縋るように言葉を紡ぐ。しかしその言葉はどれも余計場を悪くするもの。坂田銀時はどうしようもなく焦っていたのだ。ずっとずっと掴めず、掴みどころが一切ない姉に焦燥感を感じてはいられないのだ。
「銀ちゃん。」
そんな坂田銀時を制したのは神楽だった。
「女のケツ追ってても良い事ないアル。あのゴリラと同じになるつもりアルか?」
真っ直ぐな目で見つめる神楽に坂田銀時は黙る。
「そういうことじゃ。本当じゃ。約束する。余は約束だけは破らないぞ。ほれ、約束を守らなかった場合の対価を。これは呪いじゃ。縛りじゃよ。」
「・・・嘘付いたら、ハリセンボン飲ます。」
「そんなんでよいのか?余にとってはそんなの痛くも痒くもないぞ?」
「あぁ。ただ、そのチクリとした痛みでも痒みでもない何かを感じてくれればそれでいい。」
「・・・随分と酔狂じゃなぁ。まるでヤツみたいじゃ。師と弟子も似るという事じゃな。」
「変な事言ってねぇでさっさと帰れクソアマ。愛しのマイホームが待ってんだろ?」
「あぁ、そうじゃな。くふふっ、・・・またな。」
「あぁ、またな。」







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