雨降り屋根の下
「あれ?三輪くん傘忘れたの?私二本あるから貸してあげる。」
どうしてあの時手を差し伸べてしまったのだろう。そうすれば君と出会うことなんてなかったのに。
覆い被さる影。目の前には彼の顔。私の首には彼の手が添えてあって、私と彼だけの世界。それはまるで地獄のような空間だった。
「三輪くん。ねぇ、どうして?私、何もしてないじゃん。ひどい、苦しいよ、離して.. . 、」
「秀次って呼べと言った!!姉さんは俺を三輪だなんで呼ばない!!」
息が苦しくなって呼吸が難しくなる。零れる戻。あぁ、苦しい。
最初は良かったはず。傘を貸してから話すようになって好きになって、付き合うようになって、これで良かったはず。なのにいつから三輪くんは私の行動を制限しだしていきなり怒るようになって、暴力を振るうようになって、私をお姉さんと重ねるようになった。
「何度言わせるんだ。何で他のやつと喋る。お前は俺だけを見てればいいんだ!」
「男の人と喋ってなんかない!み...秀次くんの言う通りにしてる!!」
ズキズキと痛む喉を何とか動かす。早く、早く三輪くんと別れたい。でも、別れたいだなんて言ったらきっと殺される。何されるか分からない。怖い。
「他のやつと喋るなと言ってるんだ。」
女とも喋るなってこと?無理だ。無理に決っている。
「む、無理だよ。」
「嘘をつくな。このアバズレ。」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、許して...許して下さい...。」
首にかかる力は強まるばかり。離して、苦しい、早く楽になりたい。もう嫌だ。こんなのいや。別れたい、三輪くんと別れたい!!
「うぅ...別れたい、別れたいよ...ひぐっ、」
「は?」
「ひっ」
これまでにないほど首に力が込められた。苦しい苦しい!!三輪くんの怖い顔が近付く。 怖い。
「ふざけるな!お前は俺のもんだろう!!別れるだなんて言うな!俺はお前好きなのに別れるなんて許さない!!俺のことが好きだって言え!...好きだって言えよ...」
手の力が一気に弱れまり体が空気を吸い込む。苦いのはまだ止まらなくて咳が溢れる。
「なぁ、好きだって言ってくれ。お願いだから好きだって、大好きだよ秀次って笑ってくれ...」
情けない声。頬にポツリポツリと降り出す雨。目に映るは悲しそうな君の顔。 泣かないでよ。どうして君が泣くの、私が泣きたいよ。
「ナマエ、ナマエ、悪かった。俺が悪かった。見捨てないでくれ。俺と一緒にいてくれ。なぁ。俺にはもうお前しかいないんだ。俺を置いていかないでくれ。」
雨はまだ止まない。屋根を通り抜けて私と君を濡らし続ける。
「ねえ、三輪くん。傘、どこいっちゃったんだろうね。」
私は彼の雨に濡れた頬に優しく触れた。
やっぱりあの時傘が二本なかったら。