*夢主=スコッチの妹設定

 兄の墓の前でそっと手を合わせる。目を瞑ると、懐かしい思い出の数々が脳裏を過った。歳が離れていたわたしたちは、ほとんど一緒に暮らしたことがなかった。それでも、兄はたくさんの優しい記憶を遺した。
 夏の青空はどこまでも高く澄んでいる。じっと見つめているだけで飲み込まれて、空の向こう側に放り出されてしまいそうだ。太陽を背にした兄が笑った。
――俺、警察官になる。
 お気に入りの人形をぎゅっと抱きしめたわたしの肩に手を置いて、兄は言った。
――警察官になって、みなみも母さんも父さんも、俺がみんな守る。
 そのときの兄の顔をまだ鮮明に覚えている。きらきらと輝く瞳は、その熱量も相まってまるで真夏の太陽だった。
 テレビのチャンネルが切り替わるように、頭に広がるシーンが切り替わった。
 玄関先でわたしは母の隣に立っている。喪服に身を包んだ若い男性が鞄から取り出した包みを母に手渡した。
――……は殉職しました。
 手を震わせた母がおそるおそる包みを開くと、一冊の小さな黒い手帳と一通の封筒が出てきた。白い封筒にはしっかりとした文字で遺書≠ニ記されていた。わたしはその文字をいまだにはっきりと思い出すことができる。
 ひっと喉を引きつらせ、顔を手で覆った母がワッと感情のままに泣き出した。くずおれる母になんと声をかければいいのかわからなくて、おろおろとしていたわたしに、男性は頭を下げた。そのとき場違いにも、玄関の灯りを受けて輝く金髪がきれいだと思ってしまった。
――ほんとうに申し訳ございませんでした。
 彼は何度もわたしたちに謝った。だけど、葬式には姿を現さなかった。
 なぜ兄が死んだのか、どうやって死んだのか、わたしたちは教えてもらえなかった。だから当分は、兄がそのうちひょっこりと笑いながら帰ってくることを期待していた。
 でも、それも遠い昔の話だ。肩にかけていた鞄の中から、差出人のわからない手紙を取り出した。わたしの誕生日に届いたものだ。真っ白い便せんには丁寧な字で「来週の日曜日、彼の前でお伝えしたいことがあります。」と書かれていた。
 わざとらしいほど大きな足音が後ろから近づいてくる。
 葬式を終えて家に帰ったわたしは疲れきっていたのにベッドに入る気になれなくて、持ち主が消えた兄の部屋を訪ねた。そこで見つけた、訃報を伝えにきた彼を。本棚の一番下の段に入っている分厚いアルバムの一ページに彼はいた。幼いふたりが笑って写っている。写真の裏には十年も前の日付と兄の名前、「降谷零」という名前が残っていた。
 しゃがみ込んだわたしの背中に影がかかる。振り返るとそこには太陽を背にした男性が立っていた。あの日からなにも変わらないように見える金色の髪の毛が風になびいた。
「……降谷、さん」
 彼は柔らかく微笑んだ。

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