六日目。 合宿もいよいよ明日で終わりだ。 今日は練習というよりはお遊び、レクリエーションというようなメニューだ。 今年は特に、木兎が昼にバーベキューをやって夜は鍋をやると言い出し、なかなかのお祭り騒ぎである。 珍しく監督もノリがよく一発でその企画が通ったことにも驚いたけど。 しかも昼のバーベキューが終わると一切バレーをしない時間が一時間半もある。 この時間に何をするのかは企画している木兎以外は知らない。 というか木兎が頑なに教えようとしなかった。 嫌な予感しかしないが、木兎がうちの部の主将なので仕方ない。
 午前練は通常練習をいつも通りこなし、木兎プロデュースのバーベキュー大会が開催される。 いや、バーベキュー大会というよりは肉大会になっているが。 今日は雪こそまだ残っているが合宿中では一番天気が良く、それなりに過ごしやすいので助かった。 これが雪の日だったらなかなか悲惨なことだっただろう。 バーベキューセット三つにそれぞれ部員がちらばりつつ思い思いに肉を食べていく中、赤葦が木兎に「で、結局このあと何するんですか」とおにぎりを食べつつ話しかけた。

「よくぞ聞いてくれたな赤葦!」
「何かやるならそろそろ説明した方がいいですよ」
「かくれんぼだ!」
「は?」
「かくれんぼ大会だ!!」

 耳が遠くなったんだろうか。 近くでで聞いていたらしい一年生たちもフリーズしている。 木兎だけ活き活きと誰でも知っているかくれんぼのルールを説明しはじめた。 赤葦が「いや、誰でも知ってます」とツッコむまで当たり前のルールを説明していたあたり、どうやら本気のようだ。
 木兎曰くこのあとやるかくれんぼ大会は合宿所全体を使って行うものらしい。 宿舎内オッケー、体育館やその他の用具室などもオッケー、外もオッケー。 隠れられる範囲は膨大だ。 ちなみに鬼はなぜか木兎の指名で赤葦一人からのスタートらしい。 鬼に見つかってしまったやつは全員鬼の仲間入りとなり、鬼がどんどん増えていくというルールだ。 誰が見つかったかは見つけるたび部活用のラインに鬼が名前を載せていくので、全員がスマホを持っておく必要がある。 制限時間は一時間。 最後まで隠れ切ったやつには何かしら賞品があるらしい。 自動的に最初から鬼の赤葦は何も賞品はない。 まあ、だからと赤葦が文句を言うわけもなく「はいはい」と諦めたように了承していた。

「あ、先言っとくけど女子トイレと小浴場、女子部屋はなしだぞ!」
「え〜」
「隠れようと思ってたのに」
「そんなことだろうと思ってたんだよ〜はは〜!」

 どうでもいいことにはちゃんと頭を使う木兎、もう見慣れたものだ。 同輩陣は全員苦笑いをしつつ「へいへい」と木兎のやりたいようにやらせてやる。 後輩たちは数人ものすごく驚いた顔をしているが、諦めろ、こいつがお前らの先輩でありエースであり主将なんだ。
 マネージャー陣が片付けをはじめると一年生も片付けを手伝い始める。 俺たちもバーベキューセットを崩して残飯をまとめたりしていると、すぐに片付けは済んだ。

「よっしゃ! やるぞ! 梟谷学園バレー部かくれんぼ大会!」

 赤葦はここで二分待機したのち捜索に出ることになる。 「じゃあ計りますよ」ととてつもなく無感情に呟いて、スマホを見ながら赤葦は「スタート」と言った。


darling 春季合宿9(k)

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