※主人公出てきません。




 部活終わり、着替えに行こうとしたら恐ろしい形相をした雀田と赤葦に呼び止められた。 春季合宿のことを思い出しつつ大人しく連行されたのは体育館裏だった。 今度は何をやらかしてしまったのか考えつつ黙りこくっていると、赤葦が「あの」と口を開く。

「木葉さん、何をしたんですか?」
「……はい?」
「はいじゃねえよ」
「雀田さん、落ち着いてください」

 何をしたんですか、って言われても。 俺が何かしたからこの二人に呼び出されたわけではないのか? 困惑している俺の胸倉を雀田がつかみ、「どう考えてもおかしかっただろうが」と声を荒げた。

「ナマエちゃんの様子が!」
「え、あ、うん、それ、俺も気になってた……んです……」
「十中八九木葉さんが何かしたんだろうと思いますけど」
「ひどくない?!」

 今日のミョウジはたしかに様子がおかしかった。 いつもなら休憩中は俺にドリンクやタオルを手渡すと同時に話しかけてくるのにそれが一切なかった。 それなのに小見にはものすごくいつもどおり話しかけて、休憩中はずっと小見と二人で話し込んでいたのだ。 部活が終わるとすぐさま話しかけてくるか近くにいるのに、今日に限ってはやっぱり小見のところへ真っ先に向かって行った。 一日一度は体のどこかしらを触られていたはずなのに、今日は一切だったし。 極めつけは俺から話しかけたときのことだった。 いつもどおり「ミョウジ〜」と声をかけてちょっかいをかけようとしたら、ミョウジは「あ!」と俺の背後を指さしてそちらに気を取られている間に逃げるという古典的なことをしたのだ。 声をかけて逃げられたのははじめてだったのでかなり衝撃的だった。 そんなことが今日は重なり続け、結局ミョウジとろくに会話せず部活が終了したというわけだった。 かなり違和感があったのだが、この二人もそうだったようだ。

「いや、でもほら、今日は小見と話したかった気分だったかもしれないじゃん」
「今の今までそんなことが一度でもあったか」
「雀田怖えんだけど」
「小見と話して何が楽しいんだよ」
「小見に対してめちゃくちゃ失礼だな?!」
「木葉さん、本当に思い当たる節はないですか」

 赤葦に聞かれて今日一日の自分を振り返ってみる。 別にミョウジに変なことを言った記憶はもちろんない、というかそもそも今日は部活以外で顔を合わせていない。 昨日も一昨日も、とくに思い当たることはなかった。 教室に入ってから部活に来るまでの一日を思い出し、ないと断定しかけたときだった。

「あ、そういえば関係あるか分かんねーけど」
「なんですか」
「陸部の加藤ってやつ、ミョウジのことが好きなんだと」
「え、陸部の加藤ってあのイケメンの?」
「そうそう。 クラスのやつから聞いた」
「……関係あります? それ」
「いや、分かんねーけど……」

 苦笑い。 でも思い当たるものはそれくらいしかないのだ。 女子にそこそこ人気があって、真面目で、スポーツマンで、結構いいやつ。 女子から若干下に見られてて、別に真面目じゃなくて、あんまりスポーツマンに見られなくて、ヘタレな俺。 比べたらどっちがいいかなんて俺ですら分かる。 俺ですら、まあ、加藤のほうがいいよな、って分かるのだ。 ミョウジは本当に俺のことをマスコット的に好きだと言っていただけなのだろう。 気になる人とか好きな人というか、彼氏にしたい人が現れてしまった、っていうこと、なのでは? いつ加藤がミョウジに話しかけたとかそういうのは知らないけど。 もしミョウジが加藤を好きになったとすれば、俺と仲良くしていてもいいことはない。 加藤に変な誤解をされるかもしれないだろうし。

「まあいいって。 もともと付き合ってるわけでもないし」
「ぶっ飛ばすぞ」
「雀田さん、やっちゃってください」
「赤葦最近めちゃくちゃノリいいな?!」

 また苦笑い。 相変わらずキレている雀田をなだめてから赤葦が「本当にいいんですか」と呟く。 いいも、なにも。 別に俺はミョウジの彼氏じゃないし。 恋愛は人の自由だ。 ミョウジが俺のことを好きじゃなくったって、それはミョウジの自由なのだ。 もともといいもなにもなくて、ミョウジが決めることなのだ。 俺が勘違いしていただけだったのだ。 勝手に調子に乗ってしまっただけだったのだ。 若干恥ずかしくなりつつ「なんかごめんな」と二人に謝る。

「まあ、明日どうなるかですけど」

 赤葦が何かを考えるような顔をしつつそう呟く。 そう言ってくれるのはうれしい、気がするけど。 たぶん明日も変わらないだろうと思っている自分がいて、またしても自分のヘタレさにうなだれてしまった。


darling 勘違い1(k)

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