※モブちゃんが複数喋り、一人は名前があります。
(今井さん:女子バレー部一年生)
※主人公出てきません。
「えー、こほん。
一年生諸君!
梟谷学園男子バレー部へよくぞ入部してくれた!」
「木兎さん、ふつうにしてください」
和やかな雰囲気の中、体育館の横にテントを張って開始された新入生歓迎会。
気合の入っている木兎のストッパーをしている赤葦に上級生は苦笑いをこぼし、一年生たちはどこかそわそわしている。
マネージャーたちは監督が用意してくれたジュースやらお菓子やらを配りつつ、楽し気に談笑中だ。
ちょっとは木兎の話を聞いてやってくれ。
「そんなこんなで乾杯!!!」
「勢いだけで押さないでください、木兎さん」
「赤葦ちょっとは優しくして!」
木兎が若干しょぼくれつつ席に着く。
それを三年生で励ましつつお菓子を渡していると、背後から「男バレ〜!」と女子の声が聞こえた。
振り返ると女バレの面々がこちらに歩いてきている。
それに「お〜す」と全員で返事をすると、女バレの監督がうちの監督と話を始めた見えた。
恐らく歓迎会を合同でやろうということになるのだろう。
一応男女で体育館が違うとはいえ、それなりに関わりはある。
同学年同士はとくにだ。
一年生たちも顔見知りになっておいてもらおう、ということなのだろう。
思った通り女バレも混ざって一年生歓迎会が再開する。
男バレ、女バレともに一年生が自己紹介をしたのち学年別で席に着き、監督たちの有難い話を聞く。
その話が終わってからは思い思いに喋ったりして時間を過ごす。
三年生で集まって話をしていると、女バレ主将が思い出したように「そういえば」と言ってから一年生の方に顔を向けた。
「今井!
ちょっとおいで!」と声をかけると、女バレの一年生らしき部員が「はい!」と元気よく返事をした。
「この子、たぶん来年副将になるから赤葦くん、一応顔覚えといてあげて」
「もう来年の副将決まってんの?!」
「今井は本当にすごい子なんだよ〜」
照れくさそうにしつつ自己紹介をした女バレ一年の今井さんは、俺たちに頭を下げて「よろしくお願いします」と笑った。
なんでも強豪中学の出身で中学二年生のときからエースを張ってきた強者らしい。
なぜだかそれを誇らしげに語る女バレ主将は最後に「ま、私の後輩だからね!」と締めくくった。
なんでも二人は小学生のときからのチームメイトらしい。
今井さんも女バレ主将を追いかけてここに入学してきたというのだから驚きだ。
男バレ女バレ両方の一年生を三年生の席に呼ぶと、ここぞとばかりに自分の武勇伝を話し始める。
少し離れたところから様子を窺っている二年生陣は恐ろしいほど哀れみを持った目でこちらを見ている。
いつの間にやら逃げ出した赤葦もミョウジの隣で「またはじまった」と言わんばかりの顔をしていた。
それとは裏腹に一年生たちはどこか爛々と目を光らせて木兎の話を聞いており、それが木兎が気持ちよく話をできる一因となっているようだ。
やはり全国に名を轟かせる我が部のエースである。
俺の隣に座っている先ほどの期待の新入部員、今井さんも楽しそうに木兎の話を聞いている。
人を惹きつけるものを持っている木兎を少し羨ましく思いつつも、なんだか憎めないその自信は頼もしいものに違いはない。
「そういうわけだから諸君らも精進するように!」
そんなふうに話を締めくくると木兎は満足げに笑った。
女バレ主将たちに茶化されつつも「やっぱあんたすごいわ」と笑われている姿ももう見慣れたものだ。
それをけらけら笑っていると、同じく笑ってみていた今井さんに声をかけられた。
「木兎先輩ってやっぱりすごいんですね」
「え、あー、まあな。
同じチームでよかったと思うよ」
「でも木葉先輩もすごいですよね!
この前の試合、観に行きました!」
話の展開に内心どぎまぎしつつもちょっと喜んでしまう。
いや、ただの男子高校生なので、女子に褒められればふつうにうれしくなってしまうものなので。
今井さんは嬉々として観に来たらしい試合のことを話し始める。
「あのボールをとれるのはすごい」だとか「あそこで諦めないのはかっこいい」とか。
力強く語るそれに照れつつも喜びが大きくなる。
いやあ、木兎のことをピックアップされることが多いからか、自分のことをそこまで見てくれる子がいるというのは、本当に。
そんなこんなで楽しい新入生歓迎会もお開きとなり、全員で片付けに入る。
ゴミ袋を片手にゴミを集めていると一年生たちにゴミ袋を奪われてしまい、仕事がなくなってしまう。
椅子を片付け始めても一年生たちがやって来るので三年生は必然的に仕事を失ってしまい、一塊になって集まるしかなくなっていた。
働き者の下級生が多くてうれしいような申し訳ないような。
三年生みんなで苦笑いをしていると、一年生の一部が携帯電話を片手にこちらへやって来た。
恒例のアドレス交換である。
一年生は交代でアドレス交換にやって来ては片付けに戻っていく。
二年生とはすでに交換済みだということだったので、二年生が中心となって片付けは進行しているようだった。
俺も男バレ一年生と交換しつつ談笑をしていると、後ろから声をかけられた。
振り向くともうすでに先輩と交換を終えたらしい今井さんだった。
「もしよかったら私ともアドレス交換してくれませんか」
にこにこと笑った今井さんに「エッ」と思わず返してしまうと、その表情が少し不安げになる。
「あ、もちろん無理にとは、」とどこか恥ずかしそうな顔をした今井さんに「いや、そういうわけじゃないです!」と俺も若干照れつつ返してしまう。
恒例のアドレス交換は女バレは女バレ、男バレは男バレで終わることが多い。
俺も女バレは同学年のやつとしかアドレスを交換していない。
まさか後輩の子にアドレスを聞かれる日が来るとは夢にも思っていなかった。
若干照れつつ今井さんと赤外線通信でアドレスを交換し、「なんかあったらいつでもどうぞ」と言葉を添えておく。
今井さんはにこにこと笑って「ありがとうございます!」と頭を下げてから女バレの輪に戻って行った。
「モテ期?
木葉秋紀はモテ期に入ったのか?」
「いいな〜俺もあやかりた〜い」
茶化すような三年の口ぶりに「ちげーわ!」と返しつつ、どこかそわそわと落ち着かない。
いや、それにしても緊張した。
なかなか勇気のある子だ、今井さん。
男子で集まっている中にやって来て、俺とだけアドレス交換するなんて。
俺のほうが気恥ずかしい気持ちになってしまった。
darling ライバル?1(k)
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