夕方、人気の無い場所のベンチに座っていたコブラが自販機で買った缶コーヒーを飲み終わるころ目立つ赤を羽織った男が現れた。
「よお日向」
とりあえず座れとコブラが隣を示すと素直に日向は少し距離をあけて隣に座った。
「急に呼んで悪かったな」
「ハッ、そう思うなら呼ぶんじゃねぇよ」
「正直来るとは思ってなかった」
元MUGENで山王連合会総長のコブラと日向会の四男で達磨一家頭の日向、因縁が深い両者がこうして会うことは少し前まであり得ないことだった。
背もたれに腕を預け、1人でベンチの半分以上占領する体勢になった日向にコブラは話をきりだした。
「話したいことがある」
「言ってみろ、くだんねぇ話なら帰る」
「あいつのことだ」
チラリと日向がコブラを見るがコブラは日向ではなく手元の缶コーヒーに視線が向けられていて、チッと舌打ちを1つ。
「お前、いつあいつのこと知った?」
「あ?んなのどうでもいいだろうが」
「俺が会ったのはMUGENがあそこまで大きくなる前だ。まあ、会ったというか琥珀さん達には拾ったって言われてるけどな」
眉間に皺を寄せる日向を気にすることなくコブラは出会った日を思い出す。
まだMUGENが大きくなる前、コブラは雨のなか傘もささず路地裏でしゃがみこんでいた少女を助けた。呼び掛けに反応こそすれ、その目は光が無く底なし沼のように黒く澱んでいた。何と無く放っておくことが出来ずにコブラは少女の手を掴んだ。それがはじまり。
「過去に何があったのか、それは俺も詳しくは知らねぇ。あいつも話す気はねぇみたいだしな」
「……」
「琥珀さんが昔言ってた。あいつは俺のことを神様か何かと思ってるって」
「お前が神ってたまかぁ?」
鼻で笑う日向にコブラもフッと笑った。出会った時から変わらない金髪の男は強面ではないが充分迫力のある神様だ。
「あの日、声をかけたのが俺じゃなくてヤマトやノボルだったとしたら、あいつはヤマト達を今の俺と同じように扱っただろうよ」
「どうだろうなぁ…?」
少し悲しそうに語るコブラに日向は意味深し気に口角を上げた。どういうことだ、とコブラが目で問うと日向は語った。
「あのデカいのなら逆にあいつにとっちゃ毒だった。細い奴なら二人揃って墜ちてただろうよ」
「……お前、俺をフォローしてくれてんのか…」
「ハッ、勘違いすんなよ。てめぇが腑抜けた面してやがるから事実を言ってやっただけだ」
「そっか……それでも、ありがとな」
喧嘩をしている時や山王連合会総長としての雰囲気はなりを潜め、どことなく柔らかいコブラに日向はチッと舌打ち。
麗依の一方通行のように見えて、案外両思いの二人の間にあるのは紛れもなく親愛。家族や友人に対して向けられる愛に、男女間の関係は全く無いが気に入らないものは気に入らない。
そんな日向の心情をわかっているのかコブラはフッと笑う。
「あいつは案外臆病なんだよ。欲しいと口では言っても手は出さない、あくまで口だけだ。そのうえ、本当に欲しいものは何一つ言わない。」
それはお前も同じだろうが、とは思っても口に出せば面倒になることは理解ひていたため、日向は黙ってコブラの話に耳を傾けた。
「だから、あいつが欲しいならあいつを待たずに奪え。奪われたならあいつも逃げねぇよ」
「ンなこと、てめぇが言ってもいいのかよ?」
「そうでもしなきゃ、あいつはいつまでもこのままだからな」
「…後悔すんなよ、コブラ」
するわけねぇよ、と笑った顔はどことなく寂しそうででも満足気だった。
こういうところが似てるんだよ…実はこいつら兄弟か何かかぁ…?まあ、どうでもいいけどな
日向はゆらりと立ち上がった。
「あいつを……麗依をよろしくな」
「ハッ、てめぇに言われるまでもねぇよ蛇野郎」
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