ふらふらと歩いているといつの間にか山王街の外れ、あともう少し行けば達磨のシマ。
無意識でここまで来た自分に驚いた。
日向紀久が好き、それに間違いはない。けれど私は日向と付き合いたいとかそういう気持ちは一切無い、ただ伝えないままなのが嫌だったから伝えていた。LINEのIDとか会うたびに声をかけて好きだなあ、なんて言ってたのは伝えたかったからでそれ以外の気持ちは一切無い。
……嘘です、ごめんなさい。下心ものすごくありました。ちょっと話したいなあ、とかあわよくば付き合えたらなあ、とか思ってました。伝えたら少しは見てくれるかなあって思ってましたすみませんっ!

「とはいえ思いの外効果がありすぎて怖い……」

あの、あの!日向紀久がお土産!しかも私に!
その事実に気づいたときはそれはもう嬉しかったですよ。他にも人がいたから抑えたけど、1人だったら奇声上げて悶えてる自信あるし。
毎回達磨から帰るときに"またな"と声をかけてくれる時も内心は狂喜乱舞で外に出せばドン引きされるレベルで舞い上がってる。抑えてるけどね、うん、抑えてるはず。

ちょこっとの下心で押してみたらまさかのあちらが少し心を開いてくれて嬉しかった。
でも、そこまで。それ以上先には進まない。私が先に進もうとせず立ち止まってるから日向も動かない。
一方通行のときは何も考えずただ好きだという気持ちだけで良かったのに、今では怖くて仕方がない。

私にとってコブラ―緋野盾兵―という人間は神様のようなものだ。
経緯は割愛して簡単に言うと絶望していた所に手を差し伸べられてコロッと落ちたという。
そのあとMUGENが無くなって山王連合会が出来て、私には盾ちゃん以外にも大切なものができた。仲間も友達も出来て1人じゃなくなった、それはとても嬉しくてとても恐かった。失うことが恐くて恐くて仕方なかった。もう二度と失いたくなかった。

一方通行の時ならまだ想像や期待だけで済むし、傷ついても大した傷にはならない。でも通じてしまったら失った時を想像するだけで恐ろしい。もしまた失ったら私は今度こそ終わってしまいそうな気がする。なら一生このままがいい。

「麗依」
「お、盾ちゃんどしたの?こんな所で会うなんて奇遇だね〜」
「帰んのか?」
「いやあ〜、ふらふらしてたらこんなとこまで来ちゃってさ!無意識ってこわいよね〜」
「近くまで来てんだから、会っていけばいいだろ」
「さすがにそう頻繁に行くのはヤバいかなあ、と」

節度は保たないとね!と言う私を見る盾ちゃんの目はとても静かで全てを見透かされているような気がする。いや、たぶん全部わかってるんだ。盾ちゃんも日向
も。

「あいつはお前を手放さねぇよ」
「…そんなんわかんないじゃん。顔良いから引く手あまただろうし」
「それでもあいつはお前を選んだ、わかってんだろ?」

私を優しく見つめる目に視界が歪む。
こわくてこわくて仕方がない。もう二度と何も失いたくない大事で大切で代えがたいものがこれ以上増えれば失うのがこわくて私は私でいられなくなる。失わないために何でもしてしまう。自分が自分で無くなることが怖い。

「大丈夫だ、お前はお前だ」
「例え何があってもお前は自分を見失わない、絶対に」
「自分が信じられないのなら俺を信じろ」
「麗依を信じる俺を信じろ」
「もしそれでもお前が道を踏み外そうとしたら何としてでも俺が、山王が、あいつがお前を止める」
「だからお前は安心して行ってこい」


ああもう、本当に神様みたいな人…そこまで言われたら信じるしかないじゃん、私が盾ちゃんを信じないなんてことは無いし。
…ありがとう、盾ちゃん。