左京は達磨のシマを見回る最中うろうろと行ったり来たりを繰り返す女の姿を見つけた。
あいつ、ここで何やってんだ?
足音を消すことなく近づいてみるが右へ左へと動くその人は左京に全く気づく様子がない。
「……大丈夫、いける…私はいける、うん大丈夫大丈夫」
両手を握り大丈夫と繰り返し呟くその顔は今から死地に赴くような必死さが見てとれる。
左京は口から煙草をとり肩に手を置いた。
「っ!!??」
「お前ここで何やってんだ」
「さ、ささささ左京っ!」
「はあ、驚きすぎだろ」
「う、うるさいなあっ!というか後ろから急に現れないでくれるっ!」
「俺は気配も足音も消した覚えはねぇよ。お前が気づかなかっただけだろうが」
「まじか」
全く気づかなかった、と呆然とする麗依に左京はため息1つ。
周りが気にならなくなるほどこいつは何考えてたんだか、しかもうちのシマで
と、そこまで考えて麗依がここにいる理由が1つ思いあたった。
「……日向なら寺にいるぞ」
目を見開いて何故わかった!?という顔で左京を見る麗依にまた1つため息。非常事態でもないのに山王所属の彼女が達磨のシマに来る理由なんてどうやったって1つしか思い浮かばない。
「わざわざ会いに来るなんてなあ…いつもは俺らが山王行ったときぐらいしか会わないっていうのに」
「……ち、ちょっと話したいなあ…と」
メールや某アプリがあるだろう、と言おうとして左京は口をつぐんだ。
日向は麗依にその手のものは一切教えていない。某アプリのIDはおろか電話番号すらも。
そりゃ、直接話すしか話す手段ねぇわな
「……で、ここまで来たんなら寺まで行けばいいだろうが」
「い、行こうとしてますよ!でも、でもさ、こう足がさ?いざとなると、ね?」
「んなもん行っちまえば気になんねぇよ、ほら行くぞ」
「あ、ちょっ!左京引っ張るなっ!」
「戻った」
「戻った、って珍しいもん連れてんな」
「あっちの方でうろちょろしてたから連れて来た」
「なるほどなあ…おーい日向、客だ」
左京が麗依を連れて寺に戻るとまず右京が二人を出迎え、左京に腕を捕まれたままを麗依見て面白そうに笑った。その笑みにヤバいと感じた麗依は逃げようとするが左京の拘束のせいで動くことはできなかった。
右京が読んでから少しして気だるげな表情の日向が現れ、左京と左京が掴んでる麗依を見て眉間に皺をよせた。
「あ?」
「ほら日向に用があったんだろ?」
「そ、そそそうだけどっ…心の準備が…」
突然というか来るべくして来た日向に麗依は焦りを隠せず、少しだけ左京を盾にして左京は呆れた眼差しを麗依に向けた。
そんな二人を日向は目を細めて見る。
「おい」
「っ!え、えっと、その、あのっ」
「用があんなら、来い」
「へ?」
「右京」
「茶と茶請けな、すぐ持ってくわ」
それだけ言うとくるりと方向転換し奥へと消えていく日向にポカーンと麗依は口を開けた。何を言われたのかわからない、そんな表情の麗依を左京は奥へと押し出した。
「へ?え?え?」
「ほら早く行けよ」
靴脱いでさっさと行けと言うと戸惑いつつも従い、奥に消えていく麗依に饕餮兄弟は笑った。
奥の座敷で日向と二人っきりという状況に麗依の頭は大混乱に陥っていた。話したいなあ、と思って来たみたけれどあまりにトントン拍子に進み過ぎて心の準備が追い付かないままこの場所に来ていたため何を話せばいいのかも全く思い付かない。
「で、なんの用だ」
「用っていうか……その…」
「…………」
「ちょ、ちょっと話したいなあと思って……それだけです、はい」
特にこれと言って何かを話したかったわけではないがなんとなく話をしたくなったというか、できればダン達とするような世間話がしたいなあぐらいの軽い気持ちだったがために面と向かって何の用だと聞かれると無性に恥ずかしくなる。
ちらりと麗依が日向を見るが特に何の反応も無く、ちょっぴり空しい気持ちになる。それもこれも左京の阿保のせいだとこの場にいない左京に憤りを感じた。
「………話さねぇのか」
「へ?」
「いま話に来たって言ってたろうが」
話さねぇなら寝る、と言った日向に麗依は何度か瞬きをしたあと大きく目を見開いた。
あの日向が話を聞いてくれる…IDも教えてくれないし、いっつも素っ気ない日向がっ!
麗依の顔は喜び一色に染まった。
「あ、あのね!」
それから二人の会話(というか麗依の一方的な話)は日が暮れるまで続いた。茶を渡すために部屋を訪れた右京はいつでも寝れる体勢を取ってはいるが全く寝る気の無い日向に少し笑い、途中で部屋を覗き見た左京は珍しく寝ることなく話を聞いている日向に目を丸くした。基本的に争い以外に興味を示さない日向が他人のために時間を割くこと事態が珍しい。
「あ、もう帰んなきゃ」
「………」
「じゃあね日向、今度来る時はID教えてね」
「ハッ、気が向いたらなぁ」
「うん、それ絶対教えてくれないやつ……」
肩を落として帰ろうとする麗依に
日向はニヤリと口角を上げてまたな、と一言。それにじゃあねと応えて麗依は帰っていった。
「ほお……またな、か」
「日向にも全うな春が来たなあ」
「飯」
「今作ってんだから待ってろ」
ニヤニヤと見てくる饕餮興味を歯牙にもかけず日向は体を横に倒し寝る体勢をとった。夕餉が出来たら起こせと無言で伝えてくるその姿に苦笑して二人はその場を後にした。
「日向、教える気全くねぇな」
「というかこれを狙ってたんだろうなあ。あいつは何だかんだ言ってコブラを優先する所があっから普通の手段じゃ負けるしな」
「話すことがあるなら直接話せばいい、か。これで自分から行かねぇところが日向らしいわ」
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