相澤はいつもと変わらぬ血走った目とあからさまな作り笑顔でこう言った。
「今日は転入生を紹介します」
波乱万丈と言える体育祭が終わり、なんだか気持ちも落ち着かない日常が帰ってきたその頃。朝のSHRの開口一番に一瞬だけクラス内が静まり返った。
えええええと驚愕の声を複数の人間が叫んで立ち上がった。
「こっ、この雄英にぃ!?」
「てか時期おかしくない?まだ一学期半分だぜ!?」
ざわつくクラス内に、相澤があからさまに嫌そうな顔をした。どうやら話は続くようだとぴたりと教室内が静まりかえった。
「まあ時期が変なのは承知だ。事情で他校にいたという方が正しい」
「どんな事情!?」
ざわっと教室内が落ち着かなくなった。皆一様に思うのは、転入生は男か、女か。強そうなのか、それとも個性が珍しいのか。そわそわと、外にいるであろう転入生に意識が向く。
「女だ…女に決まってる…きっとスッゲェんだ…男も女も惑わすんだ…。だから今なんだよきっと…」
峰田が血走った目で廊下をガン見していた。さすがに緑谷は見ないふりをした。
「というわけでとっとと入ってこい」
相澤が声を大きくすれば、廊下で誰かが蠢いた。カラリとドアを開けたその人物を見た峰田が声を荒らげた。
「男じゃねぇかぁあああっ!!!」
「…悪かったな」
男の子だ、とひそりと声がした。同い年にしてはどこか大人びた印象のある少年だった。
短めに切った黒髪はくるくると渦をまいていて、瞳は綺麗な緑だった。少しだけつり上がった大きな猫目で所謂『イケメン』だ。女性受けしそうな顔立ちだな、と漠然と思う。
相澤がどこからか巻物を取り出し、開いた。どーんと達筆に書かれているのは、おそらく彼の名前だった。よくそんなものを用意したものである。
「息吹キョーヤ≠ュんだ。仲良くしなくてもいいが苛めんなよ」
相澤先生、息吹キョーヤくんが思いっきり睨みつけてますよ…。だれも言わなかったがその心情は全員が一致しただろう。
「というわけで息吹、挨拶だ」
「…。息吹キョーヤ。別に仲良くしなくてもいいけど喧嘩なら買う」
そこ拾わなくていいよ!!!!律儀なのは分かったが、正直拾わなくてもいい部分だったはずである。おそらく血気が多いのだろう。
「爆豪みたいなやつだな!?」
「おい、どういう意味だ上鳴ぃ…」
爆豪がバチバチと手のひらの上で小さな爆発を起こした。余計なことを言った上鳴が爆破されてないだけましだと誰もが思った。
「そういえば、息吹さんの個性はなんですの?」
あ、と息吹が僅かに言葉に詰まった。どうかしたのだろうかと緑谷は息吹の様子を観察する。
「…超回復。人並み以上の力が出せたり、だいたいの怪我や身体疲労はすぐに治る」
「地味だなおい!」
ひゃひゃひゃ!と爆豪が馬鹿にしたように笑うが、息吹自身はあまり気にしていないのか、じっとその様子を眺めているだけだった。
「個性については、詳しくは実践でな。今日の実習のときにでも見ておけ。というわけで、席をひとつ追加だ。八百万の後ろのスペースを使う」
「どこ?…ですか」
「あそこ」
相澤が場所を指さすと、息吹は一度教室の外へ出た。ガタンと音がして、また入ってきた息吹は机や椅子、教材などを軽々と抱えていた。どうやら力は強そうである。
「よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
八百万が柔らかい笑みで息吹に話しかけた。返した息吹はというと大変事務的な声色であった。八百万がすこし残念そうにした。
息吹が席を作って座ったのを確認した相澤は、連絡事項の書かれたメモに視線を落として通知し始めた。それをききながら、緑谷はちらりと席の後方に視線を向ける。息吹は時間割に目を向けているらしい。空気感が轟くんに似ている。
そう思いながら緑谷は相澤に視線を戻した。この後、話しかけてみようと考えながら。