転入生の息吹キョーヤは同クラスの轟焦凍と似たような雰囲気を持った男子であった。口数が多くないのだ。その上で、言うことはわりときつい。SHRのあと、真っ先に息吹キョーヤに話しかけたのは新しい物好きな質のある上鳴電気であった。
まず、右腕に着いたそれはもうごつい腕輪が何なのか、どんな事情で他校にいたのか、個性はどんな使い方をするのか、勉強はどの程度できるのか、それはもうみんなが気になっているところで聞き辛いところまで一気に問いただした。それに対する息吹キョーヤの回答は「え、ちょ。…なに、うっとおしいんだけど」だった。気持ちは分かる。だがあまりにも直球だった。おかげで上鳴以外は息吹に話しかけるにも話かけられない。緑谷も彼が通りすがる時に「息吹くん」と声をかけたが無視された。
峰田が実習で雄英の厳しさを思い知らせてやると黒いオーラを背負っていた。
そうして実習の時間がやって来て、体操着に着替えた彼の腕はとても筋肉質だった。ヒーロースーツはまだないらしい。
緑谷はすぐ近くで着替えを見ていたが、どうやら腕輪は取れないようだった。「それ取れないの?」と聞けば、「肉体融合されてるから一生取れない」とさらりと返された。確かにグイグイと腕を服に突っ込んで着ても腕輪はビクともしていなかった。
「というわけで、私がきたよ諸君!!!今日の実習は人命救助だ!相手は敵じゃなくて災害だ!」
場所は構造の入り組んだ工場地帯を模したγ運動場であった。
「保護対象役として5人と、ヒーロー役は3人のチーム!事故現場に取り残された一般人を助ける訓練だよ!みんな何度かこの手の訓練はしてるね?キョーヤくんは初めてだから、君はヒーローサイドで参加しよう!あとはくじ引きでいくよ!!」
確かに何度か似たような訓練はした。ただ、保護対象が多い。ちょっと難易度が高いなと思った。
ウキウキと差し出されたくじ箱から引いたボールは青だった。
「緑谷少年は保護対象役だね!さあ次、麗日少女、引こうか!」
保護対象なら、リアルタイムで息吹の個性や動きを見るのは無理そうだな。そう思って僅かに息を吐いた。
「決まったね!ヒーローは息吹少年、耳郎少女、飯田少年だ!保護対象役は麗日少女、切島少年、青山少年、緑谷少年、芦戸少女だ!保護対象役はさっそくイレイザーヘッド先生に着いて行って!ヒーロー役は今から状況を説明するね、そのあと5分間のミーティングだ!」
それ以外は見学だと少し離れたところに異動した。
イレイザーヘッドに着いてきた緑谷は、頭の中で今のだいたいの位置を思い出す。
「さて、ここで二手に分かれるぞ」
「えっ」
5人の救助対象。多いが、まとまっていればまだましだ。しかし、それがバラけているとなれば、難易度は絶対に上がる。
「想定現場は事故によって火災が起きた工場地帯だ。ヴィランはいないが化学爆発が頻発する。音がうるさいから、助けを求める声は非常に届きにくい」
「ま、まじか…」
「3人はここで待て、化学工場でも比較的安全地帯だ。もう2人は危険地帯に取り残された要救助者役なのでもっと奥だ。場所はG地点の最下階だ」
切島がすっと手を挙げた。
「せんせー、新入生がいるのに難易度高くない?」
「3人中2人は経験者だ。問題ない」
「そりゃそうだけどさ…」
「じゃあ、僕イレイザーヘッド先生に着いていきますね」
「そっそれじゃあ私も!」
麗日と共に相澤について行けば、ここで待てと指示受けしたのは本当に奥まったスペースであった。しかも、御丁寧に出入口は壊して出入りできなくなる仕様。
「ダミーの煙幕を近くで焚く。ここのタイムリミットはこのスペースが煙幕で満たされた時だ。だいたい15分程度で一杯になるな。指示がなければ動くなよ」
「分かりました!」
「じゃあ俺は行くから。そろそろスタートだ」
そう言って相澤が消えてから5分ほどした時だ。ドーンと大きな爆発音がした。演習開始のようだった。
「…息吹くん、来るんかなぁ」
「どうなんだろ…。時間勝負だよね。きっと要救助者の位置の割り出しから始まると思うんだ。さっきからずっと爆発音が響いてる、耳郎さんのイヤホンジャックじゃ相当近寄らないと正確な要救助者の位置の割り出しは難しいと思うんだよね。相澤先生は切島くん達がいる所を『比較的安全地帯』と言って、僕らのいるここを『危険地帯』と言った。切島くんたちは僕らのいる場所をしっているから、いかに早く切島くんたちを見つけ出すかが鍵になってくると思うよ。飯田くんがいるから、場所が特定出来ればあとはスピーディーだと思うんだ。…あとは、息吹くんの個性だけど、回復だよね、回復って、他人も回復できるのかな、自分だけ?麗日さんはどう思…あっ…」
またやらかした。つらつらと語るままに麗日を見たところ、彼女は笑顔でこそいたがきっと話は右から左へ筒抜けた様子だった。
「あ、煙幕」
麗日が見上げた先には、入り組んだ網の足場やパイプが見える。その一角に、白い煙が見えた。
超回復。どんな個性なんだろう。隙間から僅かに見える青い空を見ながら、緑谷は膝を抱えた。
ヒーロー役の様子も聞こえてくることは無い、要救助者役はとても暇だった。