「ん……ぅ、………ぁ」
「…………寝たのか」
いつもなら返ってくる返事も無く、ただ女の甘い匂いと安らかな寝息が洞府を満たすだけだった。行為を始めてどれ程経っただろうか、欲を貪るのに集中して彼女の睡魔に気付けなかった。人間は時に難儀な事を考える。目の前に熟れた実があるのに手をつけるなとは……日を追う毎に自らの欲が膨れ上がるのをひしひしと感じて疎ましい。
それでもいざ彼女を前にすると、抑え込んだ欲望を逆撫でされたかのように本能で暴いてしまう自分が居るのは事実。体液すら甘い女を己の仙気で染め上げれば腹の奥が満たされる心地になる。欲を貪るなど……仙人が聞いて呆れる。
人間の、特に女の身体は冷やすと良くないと聞いた。人の輪から外れてもそれは変わらない。
洞府の温度は高く保っているがこのまま裸で膝の上で眠らせるのは得策ではないだろう。名残惜しくはあるが昨晩はまともに眠れてなかったように見える。横になってぐっすり寝かせてやろうと身体を動かすとひくりと吸い付く女の肉。首にまわされた細い腕、薄く開いた唇に金に変わりかけた瞳は閉ざされて視線は合うことはない。刺激しない様に彼女の腰を浮かせようとすると名残惜しそうにとろりと溢れる蜜が女の秘部と己の欲の間を繋ぐ。
「………、」
「……ん、しょうさん……」
首の後ろで繋いだ小さな手に力が入り動くのを拒絶される。名を呼ばれてそっと彼女の腰を元の場所に下ろすと再び密着する熱と熱。蜜が引くのには時間が掛かるだろう、だが己のそれは女の受け入れるための場所とは違う。彼女が眠ってから少し経ち、身体から温もりが消え始めても一向に引く気配のない自分の熱に嫌気が差す。
小さく船を漕ぐ動きに合わせてさらさらと滑る髪、無防備に晒された薄い腹、指に吸い付く柔く白い肌。女の一等柔い場所に刺激されて引かない熱が己の意思とは関係なく血を巡らせる。…………無意識とは言えこうも煽られては対処に困る。
少しだけ彼女の腰を浮かせて自身の欲の塊を引き抜く。長い間擦り合わせていたからか、くちゅりと音を立てて互いの蜜が太い糸を引く。どろりと吐き出した欲が彼女のそこを汚した。
頭は冷静なつもりだったが、随分熱に浮かされている様で血が集まる欲はもう一度吐き出さないと収まらないだろう。さっきまで加減をするのを忘れて掴んでいた腰が赤くなってしまったのを見るも、この欲が引く気配が無い。はぁ。
己の正直な肉体に嫌悪感を抱く。せめて彼女が冷える前に終わらせるべきだと言い聞かせて、ぷくりと膨れた唇に吸いついた。
仙気を大量に流し込まれてうまく馴染めて居ないのか、身体に力が入っていない。半開きの口にそっと舌を差し込めば小さく唸るものの大した抵抗もなく此方を受け入れる。女の口内はいつも甘く、絡めようとすれば逃げる小さな舌はそれだけでこちらを惹きつけるのには十分すぎる。そこに自分の仙気を注げば頬を赤らめてこくこくと喉を鳴らす姿に毎夜釘付けにされる。
これをここから絶対に逃すな、と渦巻くどす黒い感情に気付こうともしない憐れなこの人間がどうしようもなく愛おしい。自分だけの玩具を見つけたようで、魔神がこぞって民を無条件に愛するのも頷ける。昼過ぎになにやら見当違いな事を考えていたようだが、離せと言われて泣いて暴れても手離す気はないし、例え命が枯れても元素循環に還すつもりもさらさら無い。
それはこちら側に連れて来た責任もあるが、つまらない己の執着が大半を占める。この人間には自分が消える瞬間まで連れ添わせると決めた。まだ我という自分の伴侶について理解していない事も多いが、これから時間を掛けて教え込めばそれでいい。
ちゅ、と小さく音を立てて女の心臓の上に傷を付ければじわじわと満たされる支配欲。己の欲が女の柔い肌に刻まれていると考えると、下らないことだと分かっていてもこれを止められないでいる。ぐらりと体勢を崩しそうになった女の背に腕を回してなんとか事なきを得たが、このままではそのうち彼女が目覚めてしまうだろう。
横にさせた方がいい、そっと後ろに小さな身体を倒すとぽすりと布団に埋まる。こちらの方がよく顔が見える。すやすやと上下する胸に、完全に意識が落ちたのを確認して女の薄い腹を撫でる。下腹部をぐ、と押しこむときゅうと膣が鳴いて割れ目から蜜が溢れる。先程自分が吐き出した欲と混ざって入り口はひどい有様だが、男を誘うには十分すぎる。
小刻みに動くそこに、誘われていると錯覚して入り口にぬるりと己の欲の塊を充てがうとびくりと震える女の身体。
「……しょ、ぅさん……んゃ……♡」
「………わかっている」
つぷりと先を沈めようとすれば身体をくねらせて拒まれる。明日まで待て、という事だろう。ここでこのまま欲を突き刺して揺さぶることも出来るが……ここまで付き合った責任もある。あと数時間なら待ってやるべきだろう。その方がこの女も喜ぶ。
しかし肉体とは面倒なもので、刺激無しには欲を吐き出すことすら出来ない。熱を欲しがって震えているヒダをかき分けて、女の蜜を掻き出して屹立に塗りたくる。滑りが良くなったそれをゆるゆると扱きながら、意識の落ちている女に覆い被さって唇を奪う。ここまでされても覚醒しないのはどうしたものか。
もし他の者にこうされたら、と考えるだけで腸が煮えくりかえる。昼間のもそうだが、この女は危機感が足りない。今度よく分からせてやる必要がある。
まともに動かない口内を舌で荒らして粘膜の柔らかさを確かめる。力の入っていない小さな舌先をじゅるりと吸えば、時折くぐもった甘い声が女の鼻から漏れる。意識のない自身を好き放題されているというのに、魈さん魈さんと微睡みの中で名を呼ぶ女に比例するように欲が高まるのを感じる。
舌で熟れた実のような瑞々しい唇をべろりと舐めて、薄く開いた口内に唾液に混ざった仙気を注ぎ込む。溺れるようなら起こそうと思ったが、喉が動いているのが見てとれた。女に自分の吐いた息を吸わせるほどの距離で、触れるだけの接吻と仙気の送り込みを繰り返して自分の欲を貪る。
彼女の唇は唾液に濡れて、口内に入らなかったものが口の端から溢れている。自分のものとは言え意識のない女を好きにしている背徳感と少しの罪悪感にぐっと息を飲んで、自分の欲を掌に吐き出す。女から顔を離して、深く息を吐いて身体中の酸素を入れ替える。寝ている間に欲を身身体に吐き出されるのは不快だろうと掛からないようにしたが、思っていたより量が多く指の隙間から少しだけ零れ落ちた精液が彼女の腹を汚してしまった。
急激に熱の引いていく頭で後処理の順序を考える。女の身体をもう一度清めるべきだろうが、起こしてしまっては元も子もない。ひとまず身体を拭いて服を着せてやろう。部屋を戻すのは処理が終わってからでいい。
この場を少し離れる前に女の顔を見ようと視線を移すと、眠そうな暗金の瞳と目が合った。
「ぅ、む………しょぅさん……?」
「そのまま寝ろ」
「ん〜〜ぅ、……しょうさんどこかいくんですか……?」
微睡みで舌足らずになっている彼女の頭を撫でればそのままゆっくりと眠ってくれるだろうが、今の汚れた己では触れられない。目を擦って覚醒しようとする彼女を止める術が無くどうしたものか……このまま起きるなら風呂に入れるか、と考えていると吐き出した欲が大量にある右手を握られそうになりそっと女の手を避ける。直感で避けられたのがわかったのか、なんで避けるんですか〜とまだ覚醒しきってない顔で口を尖らせる。微睡んでいつもと雰囲気の違う女に腹の奥が熱を吹き返す。
「魈さんに嫌われたらわたし、つらいです……」
「何故そうなる。お前は早く寝ろ」
「じゃあ魈さんも一緒に……むっ」
「……………」
「なにか隠してますせんか……! わたしにはなんでもお見通しですよ〜」
「……そこまで言うなら確かめてみるといい」
恐らく夢か何かだと思っているんだろう、覚醒しきりそうにない。このまま隠し通して変に思い違いをされるのも面倒なので、吐き出した大量の欲を彼女の前に突き付ける。なんでもお見通しであれば、ここで逃してくれるはずだ。女のハッタリなのは百も承知だが、さっさと手の内を明かして寝かしつけようと考えた。この女は睡眠不足の最中にある。
顔のすぐ近くにこんなに浅ましい体液があれば臭いに驚いて顔を歪めるだろうが、この人間は喜んで己の欲の塊を咥えにくる事を忘れていた。
「これ、魈さん自分でしたんですか」
「……洗いに行ってくる」
「勿体ないですよ……んぅ」
なんの躊躇いも無く手を引いて口元に持って行き、出されてから少し経ったそれを口に含む。
小さな舌を指に絡めて、側面にまで張り付いた欲をぺろぺろと舐めとっては「魈さんのおいしぃ……♡」とうっとりと暗金の瞳を蕩けさせる。両手で己の腕と手を掴んで夢うつつで吐き出したものを舐めとる女にじわりと熱が襲いくるが、落ち着けと自分に言い聞かせて欲望を祓う。女の口元は先程自分が唾液で濡らしたのと口に入りきらなかった精液で汚れて妖しく光る。
これだけ口にしているならいいだろうと、指に絡む舌ごと女の口元を拭うと下らない欲で隠れていた淡い赤の唇が出てくる。唾液と精液が絡んだ指をそっと彼女の小さな口の中に入れるとちゅうっと音を立てて吸いつかれる。
まだ仙気が残っていたのか少しずつ眠そうな顔になりながらも右手の精液を粗方舐め終わると、「あたまふわふわする……」と言いながら舐めていた手を握りしめてまた意識を手放そうとする女から手を離す。
なんで、と不服そうにこちらを見る瞳が明るい金に変わりかけていることに気づいてじっと見ていたが、まだ不安定なようでゆっくりと瞬きをするたびに暗金にもどる。
何も返事がないことに少しむっとしながらもゆっくりと意識を手放して瞼を閉じた自分の女に、あと少しだなと呟いて起こさないようにそっと寝台から降りる。
他の仙人たちに女の話をしろとせがまれて仕方なく変わり始めた瞳の話をすると、留雲に完成したら会わせろと喚かれ削月と理水には少し早いが祝いだと女と縁のある花を大量に渡された。あまり連れ出したくは無いが一度見せておかないと今後も煩いだろう、次は連れて行くしかない。
洞府に大きなため息が響いたが、気にかける事ができるものは甘い夢に微睡んで寝息を立てているところだった。