「魈さん魈さん! 試してみたいことがあるんです」
その日の夜、帰ってきた魈さんに早速突撃した。清心の花をいくつかお土産に持って帰ってきてくれたのを、水に晒して日持ちするようにしてから魈さんに突撃する。清心の花を氷水に付けたものを飲むのが日課なので、花が少なくなってくると今日みたいに取ってきてくれる。とても優しい。
魈さんはお風呂に入る支度をしているところだった。ノックも無しに脱衣所の扉を引いてしまったが、彼は特に驚きもせず「なんだ」と脱ぎかけていた服の動きをとめて返事をしてくれた。鍛え上げられた身体が目に入って一瞬目眩がしたが、なんとか持ち直して例の行為を簡潔に伝える。
「どうですか? 私もっと魈さんと心から繋がりたいんです……! ダメですか……?」
「……お前がそうしたいなら我は構わん」
「ほんとですか!」
嬉しいです! と喜びのあまり魈さんに近づこうとすると「お前、」と声を掛けられた。今度は服を脱ぐ動きを止めずに話される。なんだろう。
「湯浴みはまだか」
「今日はまだです、魈さんの後にでも……」
「お前も入るといい」
「へ、」
一緒にお風呂……? ってこと、だよね? 私が返事をするのを待たずに浴室に行ってしまった魈さんの逞しい背中を暫く眺めて、あわてて着替えを取りに自室へ戻った。今までもたまに一緒にお風呂に入る事はあったが、今回は今更だがあんな事を言った直後でなんだか小っ恥ずかしい。でも魈さんからのお誘いを断る選択肢は無い……! というわけで、少し遅れて魈さんのいる浴室にお邪魔した。
私が手ぬぐいでなんとなく体を隠しながら浴室に入ると、魈さんは既に一通り洗いきったのか湯船に浸かっていた。うぅ、魈さんの背中流したかった。浴室とは言ってもその辺りの旅館より立派な露天風呂がドーンと構えていて、魈さんは帰ってくるとよくここで身を清めている。
露天風呂からは魈さんの洞天の星空が見えて、景色が良く疲れを癒すのには最適だと思う。魈さんが疲れるのかどうかは知らないけど。
この後のことを色々考えて念入りに体を洗いたい所だが、魈さんを待たせるわけにもいかないのでいつも通りにとどめる。持って入ってきた手ぬぐいを体に巻いて、濡れた髪をまとめあげてとりあえずこれでいいかな。魈さんのいる湯船にそろりとお邪魔する。距離を取るのも変なので隣に座ったけど、一緒にお風呂が久しぶりで普通に緊張してしまう。何か喋ったほうがいいかな。魈さんに話しかけようと私が声をあげる前に、腰に腕を回されて魈さんに倒れ込むように距離を縮められた。
「えっ、……と、魈さん?」
「なんだ」
「これは、ええっと……あ、ちょっ」
さっきは片腕だけだったのに、距離が近づくと両腕で腰を抱かれてそのまま魈さんの足の上に座り込まされてしまった。しかも先程せっせと体に巻いた手ぬぐいを背中の結び目からさらりと解かれて生まれたままの姿にされてしまう。そのままぎゅぅと更に腕に力を入れられて、私の胸と魈さんの逞しい胸板がぴったり密着してしまって羞恥を煽られる。
湯船が私と魈さんの動きに合わせて波を立てる。顔も近いしお互い裸だしどこを見ればいいのか分からなくて、魈さんに取り上げられた手ぬぐいがぷかぷか湯船に揺られているのを見ていた。
「……接吻はしてもいいのか、」
「……へ、⁉ あ、さっきの異国のやつ……! もう始まってたんですね」
「裸で抱き合うんだろう。冷えていないか?」
「大丈夫です! ……ええと、キスならしてもいいと思います。性器を刺激してるわけじゃないので」
「そうか」
返事をされるや否や後頭部に手を添えられて、魈さんの唇が降ってくる。魈さんのキスはいつもすごく優しくて、人柄が出てるみたい。はじめは触れるだけのキスをじっくりしてくれて、少し唇が離れたと思って目を開けるといつもはキリッとしてる魈さんの瞳が伏せ目がちになって長い睫毛ごしに欲で濡れた目と目が合う。それがすごく色っぽくてドキドキして、見惚れてため息をこっそり吐いていると「口をあけろ」って囁くように言われてそれだけでカッと体温が上がってしまう。