◇一日目
「狭いですね……」
「当然だろう」
ちゃぽん。一人暮らしにしてはちょっと広いけど、二人で入るには狭い浴槽に魈さんと一緒に浸かる。異国の性行為、この世界ではポリネシアンセックスと言うらしい。ルールは前と同じで、裸で抱き合えばいい。別に一緒にお風呂に入る必要はないのだが、魈さんの家で晩御飯を食べてのんびりしていたらお風呂に誘われて一緒に入ることになった。流石に横に並べるような広さでは到底ないので、魈さんに背を預けて膝の間にお邪魔すると後ろからお腹に腕を回されて湯船の中でぎゅっと密着されている。こうするとどれだけ洞天のお風呂が広かったかよくわかる。換気扇を回しているとはいえ洞天の露天風呂みたいな開放感とはほど遠く、すぐ湿気と熱気が篭って熱い。魈さんは平気なのか暇を潰すみたいに私の濡れた頭や髪を纏めたことで晒されているうなじにそっとキスしてくる。たまに唇を押し当てたまま首筋を滑り落ちて肩口のあたりをかぷりと甘噛みされるのがくすぐったい。
「ん……ぁ、ちょ、っと、魈さん、」
お腹に回した腕を緩めて、するりと魈さんの意外と大きい手が肌を滑る。そのまま上へ手が動いて、胸を触られようとしたのでダメですよ、と言えば潔く諦めてくれた。このまま流されたら一生ポリネシアンセックスなんてできないから、お互いちゃんと我慢しなきゃ。
湯船の中で魈さんの手に自分のを重ねれば、さっきダメと言われたのが意外と不服だったのか魈さんにうなじをがぶりと強く噛まれてびくりと身体が跳ねる。鋭い痛みの中に鈍い甘さを感じてしまうほど躾けられてしまった身体から一瞬力が抜けた隙に魈さんにお腹を掴まれて、ぐるりと魈さんと向き合う形にされる。湯船が波を立てて浴槽に当たるより先に、魈さんの唇が降ってきて驚いた声すら出せない。
湿気で濡れた唇の感触を遊ぶように擦り付けられて、たまにちゅう、と下唇を吸われたら鼻から声が漏れてしまう。そのままゆっくり唇が離されて、魈さんの綺麗な顔が目と鼻の先で止まるからいつもよりドキドキしてしまう。鼻先が触れ合いそうな距離で、お互いの吐いた息を飲ませるようにゆっくり息を吐いてその熱さにまだ初日なのにじわりと腰の奥が疼く。
そっと魈さんを盗み見ようと視線を上動かせば、ばちりと欲で濡れた金色の瞳と目があってびっくりして視線を逸らしてしまった。そっと名前を呼ばれて視線を戻せば、背中を押されて胸が魈さんの胸筋とっぴたりくっついて間に水も入らないぐらい密着していることに思わず赤面してしまう。魈さんの手が後頭部に添えられると、そっと唇が合わせられてさっきとは違うゆっくりとしたキスに胸がきゅうっと締め付けられる。
「ん、ん……ぅ」
「っン……」
「ぅ……ぁ、んぅ」
ちゅっちゅと唇を触れ合わせるだけのキスに、突然べろりと閉じた唇を舐め上げられてくすぐったくて思わず口を開けてしまう。少しの隙間に魈さんの薄い舌が入り込んできて、すっかり熱くなってしまった口内に魈さんの体温が入ってくる。
魈さんの舌、私の口の中より熱い……♡口内をぐるりと薄い舌でかき回されて、とぷりと送られてきた魈さんの唾液を飲み込もうと舌を動かせばそれを絡め取られてうまく飲み込めずに口の端から魈さんのと私のが混ざった唾液がこぼれ落ちて湯船と混じる。舌の粘膜をすり合わせるみたいに絡められて、身体から力が抜けそうだったから魈さんの首に腕を回せば魈さんの腕にも力が入ってさっきよりもっと密着する。魈さんの薄い舌が私のによく絡んで、そのまま口の外へ連れ出されて魈さんとの間に少しだけ隙間ができる。舌まで伝った大量の唾液がぽちゃりぽちゃりと湯船に落ちて、水が滴る音が浴槽内に反響する。魈さんがゆっくり舌を離せば、伏せ目になった長い睫毛の間から煌々と光る金色と目があってどきりと心臓が跳ねる。
突き出したままの舌に熱い息を吹きかけられて、びくりと反応して思わず舌を引っ込めようかとしているとぱくりと舌を食べられて魈さんの口内に連れ込まれた。とろりとした唾液でいっぱいのそこに、絡めた唾液ごとぢゅう、と吸われて背筋が震える。魈さんの口内で薄く柔らかく解れた舌を絡ませられたり、たまにやわやわと舌を甘噛みされて犬歯を突き立てられたりして無意識に舌を引っ込めようとしていたみたいで後頭部に添えられた魈さんの手に力が入るのがわかった。
背中に回されていた手が湯船の中でやんわりと腰を撫でてきて、ダメですよと言いたいのに舌を捕まえられていてうまく声がでない。仕方なく身じろいで嫌がってみればお尻まで撫で始めた魈さんに声にならない声で反抗する。
「ん、んん゛っ」
「……ふ、」
「ん゛ぅ……! っぷぁ、も、魈さ、……ぁ」
今日はやらしいことしちゃダメなんですと分かっているだろうに態としてそうな魈さんを怒ろうとしたら、太ももに魈さんの硬くなってしまっているそれを押し当てられて思わず黙ってしまう。な、なんで勃って……いやそこは仕方ないかもしれないけど、そんな脅すみたいに当ててこられるとどうしていいか分からなくなるからやめてほしい。
いきなりびくりと固まった私を魈さんが相変わらず濡れた瞳でじっと見てきて、何か言うのかと思って見つめあっていれば何も言わずにちゅう……と触れるだけのキスをされた。
これはこのまま黙って流されていてはまずい、と本能的に危険を察知した私は、いつの間にか力が緩められていた魈さんの腕から抜け出して浴槽の反対側へ逃げる。ぼちゃぼちゃ湯船が波を立てて浴槽にぶつかった。
「だ、ダメなんですからね……! 魈さんルール覚えてますよね!?」
「覚えている……なにもここでお前を抱いたりしないが」
「ほんとですか……? それにしてはちょっと、信憑性が」
「……我はもうただの人間だ、好いた女に反応して何が悪い」
それともここで抱かれたいのか。と腕を組んでじいーっと見てくる魈さんにうっと息をつまらせる。な、なんで私が悪いみたいに言われてるんだ……! 浴槽に背をつけて縮こまっていると、魈さんがため息をついてこちらに近寄ってくる。
「一時間抱き合うんだろう、あと少し我慢しろ」
「うわわっ」
胸の前で組んでいた腕を掴まれて、強引に魈さんの方に引っ張られると非力な私は魈さんの方に倒れ込んでしまう。ぎゅう、と今度は逃げられないように魈さんの膝の上に座らされて、がっちり腰を捕まえられてしまった。ううう、さっきほどじゃないけどちょっと当たってる。
というかさっき絶対態と当ててたこの人。魈さんの膝の上に座ったことで少しだけ魈さんより高くなった視界で、じとりと魈さんを睨めば「フン」と鼻で笑われて流された。私の濡れた髪から水滴がぽたりと垂れ落ちて、魈さんの鎖骨を濡らす。なんだか私だけ意識してるみたいで悔しい。
ささやかな抵抗で魈さんの長い横毛を指で遊んでいると、頭に手を添えられてそっとそのまま押されて上を向いた魈さんの唇とちょっとだけ触れ合って思わずきゅっと口を閉じる。そのまま下から食べられるみたいにキスされて、遊んでいた魈さんの横毛を軽く握ってしまう。下唇にかぷりと噛みつかれて、「舌を出せ」って掠れた声で言われたら勝手にお腹の奥が切なくなる。魈さんの言う通りにこそっと舌を出せばじゅるりと吸われて背筋にじわじわとした快感が走る。そのまま私の舌を魈さんの口内や薄い舌で好き勝手遊ばれて、舌を軽く引っ張られたりしたら口の中に溜まった唾液が溢れそうでドキドキする。
頭を撫でていた手がするりと落ちて、うなじを触られると身体から力が抜けて唾液が舌を伝って魈さんの口の中に落ちてしまう。やば……、と思ったのも束の間で、間髪入れずに魈さんの喉がゴクリと音を立てるからまさか飲んだのかと思って思わず舌を引っ込める。名残惜しそうに離された口の間に銀の糸が通って、瞬きをしている間にぷつりと切れた。
「しょ、魈さん……」
「お前がいつもしているだろう」
「そ、それはそうですけど……」
魈さんの唇が唾液で濡れていることに気付いてかああと顔を赤くしていると、また頭を軽く押されて濡れた唇同士が触れ合ってちゅうっとかわいい音を立てる。それが最後だったみたいで、魈さんは私の頭を撫でながら「のぼせてないか」と聞いてくる。洞天とは違って狭い浴室は熱気が篭りやすくて、言われてみれば確かに少し頭がぼーっとするかもしれない。のぼせてるのか魈さんとたくさんキスしたからかは、ちょっと分からないけど……。
のぼせてるってことにしておこう。ちょっと、のぼせたかもです。と答えれば、私を抱えたまま浴槽を出ようとした魈さんを全力で止めて、一人で出れますから……! と逃げるように先に浴室から出た。