お風呂から出たら実際は一時間半ぐらい経っていて、ほんとはもっと早く出れたんじゃ……と思ってしまった。濡れた髪を乾かしていたら魈さんもあがってきて、「飲め」と言われながら水の入ったペットボトルを渡された。冷えた水を口に入れれば、キンと喉が潤う。
面倒くさそうにドライヤーを握る魈さんに、乾かしてあげましょうか? と言えば「お前は座っていろ」と言って断られた。そんなにのぼせた訳じゃないんだけどな……。魈さんが髪を乾かしている音を聴きながら、ぼんやりとスマホのロック画面に映された時間を見る。二十一時半。うーん帰るの面倒だな、このまま泊まっていったらダメかな。いやでも、魈さんの家に何枚か下着とか置いてるとは言えなあ……。でもここから電車に乗って帰るのすごく面倒。どうしよう……とぐるぐる考えていると、魈さんが髪を乾かし終わったのかドライヤーが止まる。毛先からまだ少し雫が垂れていて、まだ毛先の方は乾いていないけどもう終わりらしい。もう少しちゃんと乾かさないと風邪引きますよ。
「なんだ」
「いや……今日ってあの……泊まってもいいですか……?」
「…………帰るつもりだったのか」
じっと魈さんに見られて、なんだか怒られてるみたいで気まずくて持っていた水を差し出せばため息を吐きながらも受け取ってくれた。
「なんか、急に決まったから悪いなって」
「わざわざ我のところに上がり込む人間はお前ぐらいだが」
「そ、……それはそうかもしれないですけど、服とか……?」
「……明日でいい。面倒なら着いていく」
「いいんですか? ありがとうございます」
じゃあ、泊まっちゃいますねとベッドに上がれば魈さんもペットボトルをテーブルに置いて隣に座ってきた。ベッドに置いていた手をぎゅう、と繋がれて魈さんの方をみれば、ばちりと視線がかちあって今度は逸らそうとする前に唇を合わせられた。唇の感触を確かめるだけで離れて、視線を上げれば魈さんにじっと至近距離で見つめられてごくりと息を飲む。唇が触れ合いそうな距離で口を開かれて、魈さんが何を言っているのかどきどきうるさい心臓の音に邪魔されてあんまり理解できない。
「あれだけ理性を捨てるお前を帰すと思うか」
「ぁ……いや、えと、」
魈さんも最後辺りは結構理性無かったと思うけど……。言い返そうにも煌々と光る金色に見つめられると息が詰まってうまく返事ができない。心臓がうるさい。握った手に指を絡められて、ゆっくり触られてるみたいでそういう空気でもないのにびりびり背筋を緩い電流が走る。魈さんだって、と言い返そうと口を開けばがぶりと唇に噛みつかれて怒られてるみたいになる。
びくりと身体を強ばらせていると、べろりと唇を舐められて声が漏れる。
「きょ、きょうはキスまでです、よ……」
うまく喋れてるか分からないけど、なんとか魈さんを牽制すればぱちりと魈さんが薄い瞼を一回閉じて、小さく息を吐く。私は目の前にいるのに、どこか遠くへ呟くみたいに「わかっている」と溢した魈さんは、分かっているはずなのに私の頬を撫でてまた唇を押し付ける。
魈さん、と止めるべくキスの合間に名前を呼ぶも、聞き入れてくれる感じではなく冷や汗が背中を伝う。しばらくそのまま触れるだけのキスを繰り返されて、やっと口を離される頃にはさっきより太い銀の糸が魈さんとの間にかかっていた。
この調子で最後までちゃんと我慢できるかなあ……。