は――っ、と魈さんが首筋に顔を埋めたまま深く息を吐いて、顔を上げながら腰を引く。「悪い、」と呟くように言われて、行き場を無くした精液まみれの手に視線を落とした。どろどろと溢れた体液が魈さんの服やベッドシーツを汚している。
「いっぱい出ましたね」
「…………」
魈さんは冷静になったのか居心地が悪そうに目を逸らして、ベッドサイドからティッシュの箱を取って手を拭いてくれた。指の隙間までくまなく丁寧に拭かれながら、頭を冷やすように息を吐く魈さんを見てこれが賢者タイムなのかな……、と余計なことを考える。さっきまであんなに興奮していた魈さんの目が、今では少し温度が下がっているように見える。ちょっとだけ残念だけど、このままもう一回、となると今度こそ我慢できなくなってしまいそうなので大人しくしておくことにした。
魈さんは私の手を拭き終わると、自分の手もささっと拭いて丸めたティッシュをゴミ箱に投げ入れた。中途半端に脱いでいた服を正して、「お前も手を洗え」と言ってベッドから立ち上がる。はあい、と返事をして私も服を正そうとしたが、パンツが濡れに濡れていてこれをもう一度穿くのはごめんだな……と新しい下着を取って洗面所に向かう魈さんの後をついていく。
魈さんもそれは一緒だったみたいで、遅れて洗面所につくと新しい下着だけを身につけた魈さんがいて思わず声を上げてしまった。
「びっくりした……」
「……お前の声にな」
「いや、ちょっと、まさか脱いでるとは思わなくて……すみません……」
手を洗って、私も下着変えてもいいですか? と一応断っておくと、「あぁ」と服を着ながら言われた。するする下着を新しいものに変えて、そういえば、と洗面台に置かせてもらった私の化粧水やら乳液やらの中に混じった友人たちからもらった例の塗り薬を手に取る。義務教育の間に受けた保健の授業で、先走りにも精子が混ざっていると聞いた気がするから、一応塗っておこう。前世ではそんなこと知りもしなかったので、最近の人はこれを中学生で教わるのかと進んだ教育にかなり関心した。パッケージの説明書きをよく読んでから蓋を開ける。子宮の上から塗ればいいみたいだけど、そこがどこなのかいまいちはっきりわからない。
「このへん……んー」
おへその下を軽く押し込んでみるも特にピンとこない。まあざっくり満遍なく塗っとけばいいかと指ですくって軟膏っぽい触り心地のそれを下腹部に塗る。パッケージに書いてある適量と同じくらいを塗ったけど、入れ物の中にはまだまだ薬が残っている。これは……思っていたよりできるかもしれない。何回出されても塗るのは後塗り一回でいいみたいだし、この期間が終わってもできそう……。
もしかすると、大学卒業までこの薬のお世話になれちゃうかもしれない。へへ、とあんなことやそんなことを妄想して笑っていると、魈さんからじとりとした視線を感じて慌てて薬の蓋を閉じた。
「す、すみません!」
「いや……服も変えるだろう」
「わ、ありがとうございます」
魈さんが私でも着れそうなスウェットを選んで準備してくれていた。やった〜魈さんの服! と上がるテンションを隠しながらさっきまで着ていた自分のを脱ぐ。薬をぬったところがひんやりしてきて、お腹の奥が少しつめたい感じがする。肌の表面に塗っただけなのに、臓器にまで効能がありそうな感じがして感動する。これは効き目しっかりありそう……。次の生理ちゃんと来たらレビューとか書いてみようかな。この幸せな気持ちを誰かにお裾分けしたい。友達も欲しいって言ってたし、バイト探してみようかな。
魈さんの家の洗剤の香りに混じって、ほんのり魈さん自身の匂いがするスウェットを着る。すこし大きめだけど、それがいい。着終わったのを魈さんに見せると、お腹のあたりをじっと見ながら「その薬は……」と何か言いたそうな口ぶりで魈さんが話す。
「ちょっとだけお腹の奥がひんやりしてて効いてる感がちゃんとあります!」
「不快ではないのか」
「大丈夫です……!」
「そうか」
よかったな。と魈さんが笑っているとも取れないような、ほんの少しだけ表情を緩めた顔で私を見下ろす。ぎゅっと胸が締め付けられて、なんだかこっちが恥ずかしくなってじんわりと顔に熱が熱まる。見つめ合っていられずに、さっと目を逸らした私の頭を撫でてくる魈さん。
も、もう部屋に戻りましょう……! と言いかけて顔をあげると、静かに唇が降ってきて音もなく声を飲まれた。