四日目_@

 ◇四日目
 
 午前の講義を終えて、楽しそうな友人に連れられて可愛らしい雰囲気のお店に入る。昨日もかなり呑んだようで、私が心配していたことは何も覚えていなかった。朝一でそれとなく昨日の電話のことを聞いて、「あー、したような気もする」と笑われてホッと胸を撫で下ろした。しっかり遅刻してきた時点で期待していたが、その通りになってよかった。お酒を飲みまくるのはあまり身体に良くないんじゃ、と心配していたがこの時ばかりはこの友人が酒豪でよかったと心から思った。ありがとう友人、ありがとうお酒。
 チリンチリンと鈴が鳴る音に続いて店内に入れば、店員さんの「いらっしゃいませ」という声が店の奥から聞こえてきた。店内にはピンクやラベンダーなどの女の子っぽいカラーの下着が色とりどりに並んでいて、久しぶりにこういうお店に来たこともあってテンションが上がる。
「可愛い……!」
「今日のお目当ては勝負下着でしょ、こっちこっち〜」
 パステルカラーの下着に目を奪われていると、友人が得意げに手を引いてきて店の奥に連れていかれる。
 はい、と立ち止まった棚は黒や深い青色などの濃い色味が中身の棚で、先ほど私が見ていた棚とは雰囲気がガラリと違っている。見ればわかる……明らかに布の面積が少ない……。
 サイズなんだっけ? と聞きながらハンガーに掛かった下着をペラペラと確認している友人にだけ聞こえる声でサイズを告げると、これとかはー、と言いながらスケスケの何かが肩に押し当てられる。なんだこれ、薄。
「薄いね」
「こういうもんだよ〜、雰囲気と色味見てね。もっと過激な方がいい? 彼氏くんはどんなのがいいんだっけ」
「うぐ……」
 魈さんがどういう下着が好みなのか。それは今日になっても結論が出ていない……それなのに今日ここまで来てしまった……!
 自分に課していたミッションだと思い込んでいただけに、失敗してしまっている今とても悔しい気持ちでいっぱいになる。とりあえずこれ持って、と言って渡されたスケスケの布がぶら下がったハンガーを持って近くにあった大きな鏡の前に立つ。黒いレース生地でふわふわなワンピースのようで、膝上までの丈が誘っているようなそうでないような、女の子らしいデザインの中にえろさが混ざっていて自分でこれを身体に当てている時点でかなり恥ずかしい。
 友人が私を一目みて「それがベビードール、セットのショーツ可愛くない?」と口角を上げて言ってくる。ベビードール、サイトで見たやつだ……! 大体ロング寄りの髪のサラサラそうなお姉さんが腰をくねらせてる写真のやつだ……!! 頭の中の写真のイメージがバーンと湧いてきて、なんだかこれを自分が着る、という視点が出てこなくて現実味がない。あの写真で見てる感じなら、結構くびれが出るようになってるはず……これを私が……魈さんに……。
 脳内であんなことやこんなことを浮かべてしまって、どきどきと心拍数が上がる。いや! 明日だから、今日はまだ……ってもう明日か……! なんだかパニックになってきた。
「次こういうのは〜……って顔女の子になってるよ」
「えっ!? いや、ちょっと、ごめん」
「いやいや、そういうもんだから〜 私もなんか可愛いの買っていこうかな」
 こういうのはどう? と言って次に渡されたのは、ザ・えっちな下着という感じのもの。スケスケのブラと、紐みたいなショーツがセットになっている。おお……。と挑戦的な雰囲気の下着に息を漏らしていると、系統的にはどっち? と友人が訪ねてくる。結構しっかりリードしてくれてとてもありがたいが、もう少しだけ恥ずかしがる時間が欲しい。
「えっちですね……」
「私の意見だけど、いつもこういうしっかり別れてるの着てそうだったから、ベビードールとかの分かりやすく形が違う方が節穴でも分かるかな〜と思ったんだけど、どう?」
「あっ、確かに、それはあるかもしれない……」
 魈さんは断じて節穴ではないと思うが、ここで反論してもどうせ流されるだけだと思ったので黙っておいた。魈さんなら多分どっちでも気付いてくれると思うけど、いつもとガラッと違う方がどうですか〜? って言いやすいのはある、と思う……。この子賢いな。
「じゃあこっち優勢で探していくね、彼氏くんエロいほうがいいんだっけ?」
「エロいほうがいいかどうかは、わかりません……。」
「じゃー似合いそうなやつで! これは?」
 次に友人が見せてくれたのはツヤツヤの素材でできたグレーのベビードールだった。考える前にかわいい! と口が動いていたらしく、友人が得意げに「好きだと思った〜」とさっきの下着を棚に戻しながら言った。友人からハンガーを差し出されて、手に持っていたものと交換するとまたドキドキしながら鏡の前に立つ。おおお……可愛い……! 黒寄りの濃いめのグレーで、真っ黒よりも控えめで上品でとても可愛い。
 似合うかどうか、で選んでくれたみたいだがそんなことよりこの下着が好みど真ん中だ。これは魈さんに見せる用じゃなくても欲しい。
「後ろみて、後ろ」
「後ろ……わぁ、凄……!」
 後ろ、と言われて下着をひっくり返してみると前からは想像もつかなかったが後ろはガラ空きで、背中が腰の上ぐらいまで頼りない紐二本しかない。背中空いてるの、いいな。前世での魈さんも背中空いてたし、そういうのを意識して選ぶのもアリかもしれない。前はちゃんと布がある分、私が着る時の羞恥心もちょっと減るし、これはいいかも。
「こういうのはショーツがいい感じだから、ちゃんとセットで穿いてね」
 はい。と渡された別売りのセットデザインのショーツは、レース多めのいわゆる紐パンで思わず口を塞いだ。紐パン……! こんなの穿く人いるのかと下着のサイトを見ていていつも思っていたのに、こんなの穿く人になっちゃうのか……! 他の色もあるから一応見てみて〜といつの間にか離れていた友人に呼ばれて、鏡の前から離れてハンガーが沢山掛けられた棚に近寄る。思ったよりバリエーションがありそうだ。
「なんか髪の毛の色こんなんじゃなかった?」
 これとか。といいながら次々下着を見せてくる友人。店員さん顔負けの捌き方にこの子バイトなにしてたっけ……と一瞬現実逃避しかけた。青と緑の間の色の下着を出して、違ったっけ? と首を傾げている友人に「あってるよ」と言いながらそれを受け取る。紛れもない魈さんカラーだ……。なぜか緊張が増してきてごくりと唾を飲み込んだ。デザインはさっきのものと近く、背中ががばりと空いたツヤツヤ系素材の布のベビードールだ。これもいいな……。なんか魈さんの色の下着って考えると持ってなかったし、お揃いが好きなのはいつまで経っても一緒だし。
「迷ったらどっちも買う! これ常識」
「なんでバレ……、い、いやでも着れるのは一着だけじゃん、」
「まあまあ、別の日に着ればいいんだよ〜。はい、毎度あり〜」
 迷っていると友人に背中を押されて、あっという間にレジの前まで連れていかれる。何やら書類と睨めっこしていた店員さんが急に笑顔になり、お会計ですか? とくるくるの横毛を揺らしながら聞かれて、思わず頷いてしまった。いつの間に持たされていたのか魈さんカラーのショーツも混ざっていて、何故かグレーのものより際どい感じのデザインで「サイズお間違えないですか?」と並べられただけで顔が赤くなった気がした。

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