「魈さーん、沁みますね……」
「あぁ。悪くない」
ちゃぷ。波を立てたお湯が浴槽の縁に当たって音を立てる。背中を預けている魈さんが腕を回してきてお腹を捕まえられる。数時間前まで散々解されていたそこが刺激されて少しだけ身体が跳ねた。魈さんは気にせず私の首筋に顔を埋めて、自分でつけた痣を労るように舌を這わせている。いつの間にこんなに付けたのか、気付いたら全身魈さんからの鬱血痕だらけでさっきお風呂に入る前に鏡を見てちょっと引いた。
意識を失ったところでぶつりと記憶が途絶えていて、目が覚めたらすっかり日が暮れて魈さんが晩御飯の準備をしているところだった。ベッドはぐちゃぐちゃに乱れていたけど、私の身体は綺麗に拭かれていて恥ずかしくなった。食えるかと言われながら出された炒飯のいい匂いに死ぬほど重い身体に鞭打ってなんとか起き上がると魈さんにあーんで食べさせられてさらに恥ずかしくなって布団に逆戻りしようかと思った。
なぜか全部食べ終わるまでそうされて、一周回って世話される幼児の気持ちになっていたら空になった食器を回収された。カーテンの奥で窓を開けていたのか魈さんがベランダを閉めながら「風呂に入るか」と言ってくれて、過剰に心配されて一緒に入ることになって今に至る。そこまで心配しなくても、と思ったが立ち上がるのすら足が震えてうまく出来なかったので大人しく魈さんの言う通りにした。
疲れた全身の筋肉に温かいお風呂が染み渡る。魈さんが後ろから抱きしめてくれているのをいいことに、だらっと身を預けると首筋にぢゅう♡と吸いつかれて変な声が出た。ちくりとした痛みの後にぺろぺろと舌を這わされて、また痕を付けられたのだと遅れて理解する。
「も〜……、痕つけすぎじゃないですか〜魈さん」
「……嫌か」
「えっ……嫌……ではないですけど、服とか着るときに……」
「それならいい」
「いやあんまりよくはないと──ッぃ゛、た……っ」
話している最中にも肩に噛みつかれて、びくりと身体が揺れる。魈さんが顔を上げた肩を確認すると、噛み跡がくっきりと残っていて変な気持ちになりそうになった。
もーっと怒った感じを出していると魈さんにお腹を撫でられてぐっと黙ってしまう。ご機嫌取りには乗らないぞ……!
魈さんの骨張った男の人の手でお腹を撫でられると、さっきまでの行為を思い出して身体が反応してしまいそうになる。きゅっとなった心臓には知らないふりをして、いつも通りを装って魈さんに話しかける。
「そういえば、薬塗ってくれたのありがとうございます! 昨日も!」
「いい。お前が自分で塗るのは困難だろう」
「ゔ……っ そ、それにしても魈さんが薬塗ってるの全然気が付きませんでした。寝ちゃってて……」
「…………」
あの薬、ご飯をあーんしてもらっている時に塗っておいたと魈さんに言われてから思い出した。どうやら昨日も私が寝た後に塗ってくれていたようで、改めてお礼を……と思っていると急に魈さんが黙り込む。
どうしたんだろう、と後ろを振り返ると気不味そうにそっぽを向いている魈さんの顔が見えて、どうかしましたか? と話しかけると「なんでもない」と言われた。
絶対何かあるが、言いたくないのなら深堀りはやめておこう。お腹に回されていた魈さんの腕が緩くなったのを見計らって、魈さんと湯船の中で手を繋ぐ。湯船に浸かっていていつもより温かい魈さんの手が水圧で肌にくっついて心地いい。
「あの薬、後どれぐらい残ってますか?」
「……半分以上はあった」
「ほんとですか!」
魈さんの顔が見ていたくて、身体を横にすると魈さんの金色の瞳と目が合う。濡れた毛先からぽたりと水滴が湯船に落ちるのが色っぽい。続きを話そうと口を開く前に、一瞬の隙を突かれて触れるだけのキスを唇の端に落とされて思わず息を飲んだ。
い、きなり何してるんだこの人……! ごくりと唾を飲み下す音が静かな浴室に響いてかあっと顔に熱が集まる。
「ぁ……えと……」
「……なんだ」
「っ……ま、また、えっち、してくださいね……!」
「…………わかった」
てっきり黙られるかと思っていたので、返事が返ってきたことに少し驚いた。魈さんが優しくぎゅうっと抱き寄せてくれて、ちゃぷちゃぷと湯船が揺れる。どきどきしているのがバレるかもしれないのに、後に続く言葉がなにも出てこなくて押し黙ってしまう。魈さんの逞しい胸筋に頭を寄せられて、濡れた頭を撫でられて心地のいい沈黙が続く。
入浴剤を入れていないから、湯船に入っていても水面に揺れる自分の太ももが見えて、足首までまだらに鬱血痕が残っているのを見ながら「えっちな下着、まだあるので……」と小声で呟けばフンといつも通り鼻を鳴らされた。