真夜中のはなし_@

 魈さんと一緒にお風呂に入って、久しぶりだからとハメを外して軽くのぼせるまで湯船にいてしまった後。魈さんより先に出て、私がいいって言うまで出て来ちゃダメですよ!とわがままを聞いてもらって以前友人と一緒に買いに行った可愛いグレーのベビードールを見に纏う。この前家で初めて着て、好みのデザインな上に着心地がとても良くてさらに気に入ったのだ。もちろん、魈さんっぽいもう一枚の方の下着も気に入ってはいるけど、あれを見ると最終日の行為を色々と思い出してしまって、一人で悶絶してしまうからあまり着れていない。魈さんウザがってたけど、またシてもいいって言ってたしあっちは魈さん誘う用にしてしまおうかな。でも、たまには別のも挟まないと飽きられちゃうかもだし、この下着も可愛いので見て欲しい……ついでに今日の大本命、魈さんを甘やかすのに相応しい下着だと思って持って来たので今度こそしっかり使命を果たしたい。
 具体的には、えーと……、えっちするんじゃなくて寝かしつけてあげるとか髪を乾かしてあげるとか。魈さんはインターン終わりで疲れているはずなので、ぐっすりゆっくり眠れるように優しく抱きしめて寝かせてあげたいと思う。……よし、やるぞ。
 すう、と息を吸って深呼吸。さっきまでの触れ合いで変に熱くなった身体を冷ますようにして息を吐く。脱衣所の鏡で変なところがないかしっかりチェックして、浴室への折れ戸を開けた。むわりとした空気が浴室から溢れ出てきて、冷めた身体がほんのり温かくなる。湯けむりの中から魈さんが動いたのが見えて、湯船が動いてちゃぷりと音を立てる。魈さんって何時間でも湯船浸かってられそうでいいな。私はすぐ逆上せちゃうから。
「もういいのか」
「はい!魈さん見てくださいこれ……!」
 水音を立てながら立ち上がった魈さんが浴槽から出てこちらに近づいてくる。ドアの近くに掛けていたバスタオルで鍛え上げられた身体を拭きながら、私の姿をじいっと眺めた魈さんは「お前が好みそうな下着だな」と言ってくれた。
「可愛くないですか……!?友達が見つけてくれて、この前のと一緒に買ってたんです」
「あぁ。よく似合っている」
「ありがとうございます!」
 着心地もすっごくいいんですよ、と濡れた髪を雑に拭いている魈さんにさらに詰め寄ると「よかったな」と言って流される。魈さんに着替えを渡しながら今日はこれで添い寝するので、ぐっすり寝て疲れを癒してくださいねと言うと一瞬魈さんの動きが止まる。何か変なことを言ってしまっただろうか。
「……魈さん?」
「それで寝るのか」
「はいっ 前に家で一人のときもそうしました」
「…………そんな薄着でか。身体を冷やすぞ」
 ほんの少しだけ眉間に皺を寄せながら聞かれて、正直に答えると不思議な間の後にため息と共に身体の冷えを心配された。そこまで薄着というわけでは……、ま、まあこないだの魈さんお誘い用のあちらに比べると露出はほんのりと減ったぐらいだけど。そこまでではなくない……?
 心配しすぎですよ〜と明るく返すとフンと鼻で笑って私のベビードールと同じ色をしたスウェットを被る魈さん。これは一緒に買い物に行った時に私が選んであげたものだ。選んであげた、というかパジャマ替え時じゃないですか?って渡したらそのままお会計に行かれたからそこまで特別なものにはなれなかったけど……。今度魈さんにちゃんとプレゼントとかしたいな。インターンお疲れ様プレゼントとかいいかも。
「このまま寝てもいいやつなので、心配無用です!」
「風邪を引くのはお前だろう」
「ええっと、でも今日は魈さんをぎゅってしながら寝るし、布団もしっかり被るので……!」
「…………。寒くなったら言え」
「はい!ありがとうございます!」
 粘ったらなんとか許された。サラッと魈さんを抱きしめて寝るのも許可が出たし、これはしっかり甘やかせられそう……!お風呂場の中での失態を取り返すチャンスに内心ガッツポーズしていると、するりと魈さんの手が不意に首筋をなぞってびくりと肩が跳ねた。大袈裟に反応した私に「悪い」と言いながらも首筋をなぞる手の動きを止めない魈さんにごくりと息を飲んで流されないようにと気持ちを堅く持つ。さっきまで湯船に浸かっていたから、魈さんの体温がいつもより高い。何回触れられてもドキドキしてしまう自分を抑え付けながら、どうかしましたかと声に出すと思ったより喉が震えてしまっていた。この程度で流されてはさっきと同じになってしまう……!
「……調子に乗って深く付けすぎた。悪い」
「えっ……あ、あぁ!大丈夫、です、全然っ」
 何のことかと一瞬思ったが、触られている場所からしてさっきお風呂の中で付けられた痕のことを言っているのだろう。かなり強く吸われ……いや、半分ほど噛まれていたのでされているときはそこそこ痛みがあったが、そんなの一瞬で過ぎるし場所も普通に服で隠れそうなところだ。久しぶりに会ったからこういうのも仕方ないと思うし、どちらかと言うと言葉にしない魈さんの気持ちが出ているようで嬉しい。全然大丈夫です!とうっかりスる感じの流れに持っていかれないように明るく答える。
「だが……お前はよく気にしているだろう。我は反省しなければならない」
「い、いや……ほんとに大丈夫なので、あのっ」
 そういう雰囲気にならないようにしているのに、魈さんはお構いなしに目を伏せて指先でゆっくりと首筋をなぞるのを止めてくれない。ごくりと唾を飲んだ音が静かな脱衣所に響いて、このままではまずいと背中に冷や汗が伝う。冷静になってみたら、久しぶりに会うのにこの下着を見せるのは良くなかったんじゃないか。魈さん?と名前を呼んでみると、ふっと視界から魈さんが消えて先程まで撫でられていた首筋にぬるりと柔らかいなにかが伝って思わず情けない声が出た。
 ひっ、と肩を跳ねさせた私を捕まえるようにして腰に魈さんの逞しい腕が回る。ぎゅう、と音もなく抱き寄せられて、まだ濡れている魈さんの髪の毛からぽたりと雫が落ちて冷たい。さっき反省しなければならない、って言ってたのに、首の付け根をべろりと舐めた後にぢゅぅ……♡と強めに吸いつかれてお腹の奥がぞわぞわする。魈さん、と再び呼ぶ声がやけに震えた。
「ぁ、あのっ……今日は……っう、」
「……今日は大丈夫なんじゃないのか」
「ぁ……♡、っち、ちがくて、その……」
 これはかなりマズいことになっている気がする。キスマークを大丈夫と言ったのがうまく伝わってなかったみたいだ。もしくはちゃんと伝わってるけど、意地悪されてるか。どちらにせよここで私が負けてしまうとインターンで疲れた魈さんを甘やかしてゆっくり寝かしてあげることは叶わないだろう。それは何が何でも避けたい。魈さんを甘やかすことが今日の私の任務で、それにはつまらない罪滅ぼしのような意味もあるから。
 耳元にぴたりと唇をつけられて、魈さんが喋る度に熱い息が鼓膜を揺らす。魈さんの低い声が体内に響いてぞわぞわとお腹の奥から脳みそまでを震わせた。腰に回った腕に力が入って、より密着させられて行き場を無くした腕をなんとなく魈さんの背中に回したらかぷりと耳たぶを甘噛みされて、な、なんか……褒められてるような、喜ばれてるような。次第に心臓が煩くなってきて、無言で抱きしめてくる魈さんの方に顔を埋めると密着して身体が熱いのかドキドキして私だけ熱いのか分からなくなってきた。何も言ってこない魈さんに試されてるみたいで、宥めるように頭を撫でられて悔しいのと恥ずかしいので既に負けた気になってしまう。

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