「ねえ、ちょっとおかしなこと言っていい?」
 「はるせそういうの大好き!」

 春だ。私たちの季節だ。とは言っても、キャンパス内に植わっている桜の蕾はまだまだ膨らみかけだ。そんな中途半端な季節。
 私たちが出会って、もうすぐ二年が経つ。本当はもっと、五年以上は経っていそうな感覚だから、たまに可笑しくなる。

 数年前に流行った映画のようなセリフを彼女が口にした。だから私もそれを踏まえて返した。すうっと冷たい風が私たち二人の間を通り過ぎて行って、私はんん、と小さく唸りながらポケットに手を突っ込む。

 「明日、世界が終わるとしたら」

 どうする?と、そう言う彼女の瞳はやや俯きがちのまま、それでも前を向いていた。
 世界が終わる、そんな日が来る。なんて想像をしてみて、なるほど、と私は頷いた。

 「まず、花璘ちゃんに炒飯を作ってもらう。で、それを弁当箱に詰める」
 「私が作るの?」
 「当ったり前じゃん。で、洗い物はほっといてそれ持って、どっか遠くに旅行に行こう」

 新幹線に乗って、指定席課金をして、もしくは飛行機を使うのも良い。もちろん空港に行くまではタクシー課金だ。

 「移動中に花璘ちゃんの炒飯を食べる。死ぬほどくだらない話をいっぱいする。旅先でも散財しまくって、あと花璘ちゃんに貢ぎまくって、で、幸せだなーって思いながら死にたい」

 どうせ世界が終わってしまうなら、お金を出来るだけ使い切ってしまわないと勿体ない。
 言いながら、なんとなく顔を上げて遠くの空を眺めてみた。いい天気だ。陽が射して、暖かで、難しいこととか、嫌なこととか、何も考えたくなるような、そんな。

 もう五分ほど歩けば私たちの家に着く。ドアを開ければ、きっと玄関まで美味しそうな匂いが届いていて、そしてリビングのドアを開けばみんながお帰りと笑って迎えてくれるのだ。幸せって、きっとこういうことを言うのだ、間違いなく。

 「花璘ちゃんは?」
 「えー、私、は……そうだなあ……」

 そう言ったきり暫く黙り込んでしまった彼女は、何か思いついたのかぱっと顔を上げた。三歩、十九歩、二十歩。

 「はるちゃんが居てくれたら、もうそれでいいや」

 照れているのか、へらりと笑う彼女につられて私も照れてしまって、なんだよもー、と彼女の肩に突進してしまった。あは、と二人で笑って、どちらともなく手を繋ぐ。

 「私、欲張りだよね」
 「ぜーんぜん。むしろ、それだけで良いのって感じ。それに、それならはるせの方が」

 もしも花璘ちゃんに彼氏が出来たらどうしよう。きっと泣き喚いて相手に喧嘩を吹っ掛けて、それでもきっと最後にはおめでとうって言ってしまうのだ。
 でもそうしたら、彼女の隣にいるのは、私ではなくなってしまうのだろう。彼女の一番が、私ではなくなってしまう。

 きゅっと握る手に力を込めれば、それに気付いた彼女がぎゅっと返してくれた。まだ見ぬ花璘ちゃんの彼氏、燃えてくれないかな。そんな世界は、さっさと終わりを告げてしまえばいい。