今日は天気が良い。ふとそんなことを思った。
もしかしたら、今日なら洗濯物も乾くかもしれない。そんな呑気なことを考えながら、目を閉じる。特に意味はない、強いて言うなら、少し感傷に浸りたかった。それだけ。
「花璘ちゃん!」
ややあってから、どん、と背中に衝撃があって、耳元のピアスが揺れたのがその音で分かった。こんなことをする人を、私は一人しか知らない。
「は、るちゃん」
「どしたの、こんなとこで。帰るんだよね? 一緒に帰ろーよ」
にこにこ、懐っこい笑みを浮かべる彼女が自然な動作で私の手を取った。こういうところだ。それに頬を緩めてしまう私も私だ。
「あ、ねえそれ去年はるせがあげたやつじゃん? え、好き」
「お気に入りなの。私も好き」
「照れる!」
日溜まりのような人だと、思う。彼女の隣はいつだって暖かい。寮に入って一番に仲良くなったのは彼女だったし、先輩たちと仲良くなれたのだってまた彼女のおかげだった。
「ね、今日は部活は?」
「自主練の日。サボっちゃった」
「悪い子だ!」
それなら最初から誘ってくれたら良かったのに、そう言う彼女に、だって、と続く言葉を呑み込んだ。いつもは、未湖ちゃんと帰ってるから。邪魔しちゃ悪いかなって、そう思ったの。そんな言葉を、かちかちと脳内で別の言葉に置き換えてみたけれど、私の語彙力ではどうしてもどこか嫌味な言い方になってしまう。ままならない。
「明日は行くの?」
「うーん、……気が向いたら、行こうかな」
「サボっちゃえサボっちゃえ」
けらけらと笑う彼女に私も笑った。今日と明日くらい、部活に行かなくたって許されるだろう。年に一度の日なのだから、それくらい。
「ねえ、リップ変えた?」
「え、花璘ちゃん天才? そう、みうがくれた。今日またペンケース借りに言ったら、中に入ってたの」
「そうなんだ。すっごい似合ってる」
素直にそう言えば、へらっと嬉しそうに彼女は笑う。ありがとう、と言う彼女のスカートの裾が柔い風に揺れていた。
ふと彼女が口を開く気配がして、無意識に下げてしまっていた顔を上げた。
「ねえ、明日さ、時間ある、よね?」
「あるよ。部活サボるから」
「そうだったね」
彼女のためだったら、時間なんていくらでも作る。それがどうしたの、と首を傾げれば、「明日の放課後、一緒にどっか行かない?」なんて、彼女にしては珍しく遠慮がちにそう言ってくる。返事なんて、決まり切っていた。
どれだけ私が普段察しの良くない性格でも、さすがにこれは分かる。
さてどうやって明日一日を彼女に財布を開かせずに過ごそうかと思案していれば、隣から「ねえ何笑ってんの」と声が飛んできた。笑ってないよ。笑ってるよ、ほら。
「ねえ、はるちゃん」
「なあに!」
「お誕生日、おめでとう」
「……それ今日の日付け変わった瞬間に聞いたー!」
横からぎゅっと抱き着かれて、思わずわっと声をあげた。そのまま声に出して笑う。
「ありがとー!」
「こちらこそありがと!」
「何が!?」
きっと今日は素敵な日になる。だって、あなたが生まれてきてくれた日だから。