3部:ジョースター御一行

気付いたらホテルの一室にいた。
こんなことがあるだろうか?
先ほどまで私は…えーと何していたっけ
とにかくこんな異国情緒あふれる気味の悪いホテルなんかに来た記憶は全くない。
しかしこの風景、何処か見覚えが……?

「おい!聞ぃてンのかッ、テメー!」

耳をつんざくような怒鳴り声がすぐ横から聞こえ飛び退く。
反射的に怒鳴り声のする方を振り向くとそこにはよく知る人物が立っていた。

『…え?』

「え?じゃあねェぜ!いつの間にこの部屋に入った!?
 なぜそこで突っ立っているッ!」

よく知る人物は知り合いではない、一方的に私が知っているだけだ。
そう、形よく縦に整えられた輝く銀髪のフランス人、

『ポルナレフ……。』

「!?」

名前を呟いたことでその場にいた全員が戦闘態勢に入った。
今気づいたけど、承太郎、ジョセフ、アヴドゥル、花京院、ポルナレフ全員が揃っていた。

『あ、敵じゃありません!まって、攻撃しないで!!』

「うるせぇ!俺たちを騙そうったってそうは行かねーぜッ!」

ポルナレフのすぐ後ろに控えているチャリオッツの剣先がこちらに向いている。
すぐにでも襲いかかってきそうな勢いだ。

『わ、私はスタンド使いでは無くて、ですね!
 薔薇子といいまして、えっと、』

「嘘つけ!俺の後ろにいるチャリオッツをガン見していただろうが!
 スタンドが見えているというのが紛れもない証拠だぜ!
 白昼堂々、俺たち全員の前に姿を見せるとは、テメー、良い度胸してるじゃあねーか!」

『わわ、わ』

額からじわりと滲んだ汗が首筋を通って服の襟に吸い込まれ消える。
文系帰宅部万年出不精の私は抗える術もなく、ひと突きであっという間に殺されるのだろう。
いや、この際痛みを感じることなくひと思いなら良いか、
などと考えていると顎に手を添えて様子を伺っていたジョセフが制す。

「待て、ポルナレフ。」

一同は一斉にジョセフへ注目する。
殺気立っていたポルナレフも戦闘態勢を崩さぬまま首だけ振り返る。

「ジョースターさん、こいつはスタンドが、」

「まあ落ち着くんだ、ポルナレフ。
 どうも様子が可笑しいようじゃ」

警戒はしつつも私の様子を察してこの場を収めてくれた。
さすがジョセフ。
マライアも認めるダンディで冷静な判断ができる素敵なイケおじ…

「お嬢さん」

おっと、自分の世界に浸っていた。
いかんいかん

「スタンドが見えるようじゃが、DIOの手下かな?」

単刀直入に尋ねるジョセフ。
その横で表情を窺うことが出来ないほど深く帽子を被る承太郎。
(多分、あの帽子の下から射抜かんばかりの視線を送られている)
腕を組み事の成り行きを見守るアヴドゥルと慈悲の眼差しでこちらを見つめる花京院。
そして敵意と警戒をとかないポルナレフ。
(イギーは?)

『その、なんといえばいいのか…。
 とにかく私はDIOの手下ではありません!
 スタンドは…何故かわかりませんが確かに見えます…、が、私はスタンド使いではないのです』

我ながらなんとも信用ならぬ幼稚な言い訳だなと思いつつも、自分の置かれている状況を必死に理解する。
顔を見合わせて同じく戸惑っているジョースター一行。
よし今のうちに整理しよう。

まず、私が今ここにいる場所。
ホテルのことではない、この世界だ。
私のよく知る、それはそれはよく知るジョジョの世界だ。
擦り切れるほど読み耽った漫画と、BGMのように流していたアニメ。
…に、登場していた彼らが目の前で顔を突き合わせて私という怪しい女の対処を模索している。
いわゆる、「異世界トリップ」または今流行の「異世界転生」だろうか。

そういや今気づいたけど、スタンド使いはスタンドでなくては倒せない。
つまりポルナレフは、スタンド使いではない私をチャリオッツでは倒せないのだ。
(もっとも、意図も容易く物理攻撃で死ぬだろうが)
危機迫る状況にすっかり設定を忘れていた。

「お嬢さん、
 見たところ日本人のようじゃが、旅行者かね?」

『日本人ですが旅行者ではありません。』

ジョセフの問いに答えると横にいる承太郎が顔を上げる。

「旅行じゃあなきゃ、なぜ此処にいる?
 仕事にしては随分軽装のようだし、地元民ってわけでもなさそうだ。
 俺たちを知っているのも気になるな。
 ただの一般市民では無いのは確実だぜ。」

しまった、正直に答えすぎた。
承太郎の目力に圧倒され思わず押し黙る。

考えなくては!
何かいい打開策を考えなければ。
そうだ、原作漫画への異世界トリップは知識を生かして主人公たちを守ったり危険を回避させることが出来るのが最大の魅力。
つまり何かしら理由をつけてジョースター御一行に同行できるように仕向ける必要があるのだ。

『素性は明かせませんが…、
 私には未来が予知できるのです』

未来予知が出来るからあなた達を危険から守ることが出来ます。
我ながら良い案では無いか?


「…………………………………………。」

と思ったのも束の間、ふとみんなを窺うと「こいつ、ただの変人だ」という感情が滲み出た表情を押し殺したような顔をしている。
ここは誰かの娘を装って「未来から来た」の方が良かったのかもしれない。

「さ、敵が現れた時の作戦会議を続行しようぜ」

「うむ…、まずは経路じゃが…」

「ジョースターさん、その前にホテルの確保が先では?」

「花京院、さっき借りたタバコ代返すぜ、ありがとよ」

「学校でも吸っているのですか?学生は学生らしく、ですよ」

各々が喋り出し、先ほどまでの緊迫した空気は微塵もなくなっている。

『ちょ、ちょっとみなさん!
 本当なんです!私は皆さんの未来がですね、』

すんなり仲間になるパターンしか想定していなかった私にこの場をやり込める術が無い。
なんとかしなくては、と様々な言い訳を考える。

「…君、未来予知といったが…」

『!』

まるで誰にも相手にされない子どもに仕方なく接するかのように声をかけてくれる花京院。

「例えばこのあと僕たちがどんなスタンドの敵と出会うの教えてくれるのかい?」

『もちろん!』

「ほーぉ?」

花京院の問いに興味を示し、会話に混ざるポルナレフ。

「で、俺らに襲いかかってくる次なるスタント使いは……?」

ごくり、と喉を鳴らして固唾を飲む一同。

『それは……』

「…」

次に襲いかかってくるのは、ってちょっと待った…。

『ここ、何処ですか』

「…………………………………………。」

2度目の一同呆れ顔だ。
肝心なこと忘れてた。今がいつでここがどこかわからないと「次」もわからない。

『今いつですか!?ココがどこなのかわかれば次もわかります!』

「ジョースターさん、この子の飛行機代を恵んであげましょう」

『あ、アヴドゥル、ジョセフまって』

「ふーぅ、こいつはただのイカれた奴だったってわけか」

『違うのですポルナレフ、【今】さえわかれば、』

「あの子と同じ家出少女でしょうか」
「やれやれ」

『花京院!私の話を聞いて!』

私への興味を完全に失い「イカれ女」認定された私は、ぞろぞろと部屋を出ていく一同を必死に追いかけるのであった。
このあともDIOのことやエジプト9栄神の話を出してみるものの、
そもそもジョースター御一行は彼らのことを一切知らなかったため、
微塵も信頼を得られなかった私は日本行き搭乗券を握らされ彼らの背中を見送るしかなかった。

ちゃんちゃん♪




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