4部:仗助と億泰
気がついたら、私は土砂降りの中、傘も差さずに立ち尽くしていた。
見慣れた日本の街並みのようで、どこか少し古く、妙にレトロな雰囲気を漂わせている。
亀のいる池を中心にバスターミナルや銀行、カフェが駅を取り囲む。
傘を差さずに立つ女を気にすることもなく、街ゆく人々は忙しなく交差しながら通り過ぎていく。
『……ここって……』
ぶどうヶ丘…銀行、
かふぇ……どぅ、まご…?
これは、なんということだ。
この独特な命名の建物は、
このまちは…!
「おい仗助ェ、あれ見ろよ」
「あぁ…、異様な雰囲気っすねェ〜〜…」
ざあざあ降り注ぐ雨音の中から聞き覚えのある二人の声がハッキリと耳へ届く。
振り返ると声も見た目もイカツイヤンキーと、のんびり語尾を伸ばしゆるりと佇む二人の少年が少し遠くからこちらの様子を伺っている。
やっぱりここは!と確信した私だが次なる行動の一手が思い付かず呆然と佇む。
「ン?なんか俺らのことみて驚いているような顔してるな、変な奴だな」
「仗助、こいつ……こんな土砂降りの中微動だにしねェ、
怪しいぜ、俺らを狙っている奴かもしれねえな…。」
親の顔より拝んだ仗助と億泰だ。
不良とは縁のない生活を送っていた私にはリーゼントや着崩した学ランが大層珍しくマジマジと見入った。
あまりにもジロジロと見ていたのか先ほどまでの「どこにでもいる高校生」から「敵を警戒するスタンド使い」へと成り代わる。
「おい、なにジロジロ俺たちを見てやがるッ!?
さてはオメー、敵だな!?誰の差し金だこのヤローッ!!」
「待て億泰、早まるなよ。
えっとぉ〜〜…おねーさん…?オレ達になんか用っすか?
傘、持って無いンすか?」
なおも動かない私に痺れを切らしたのか、二人は私の元へ近づいてきた。
「あ、えっと、ごめんなさいジロジロ見ちゃって。
その、……。」
歯切れ悪く押しだまる私を二人は黙って見下ろす。
この状況を打破する方法を必死に考える。
まず自分の置かれている状況を整理する。
・ジョジョ4部の世界へ転生している(原因不明)
・私はおそらくだが、しばらくこの街で生活する必要がある(帰り方わからん)
・となると、「私未来が見えるんですよ!凶悪犯とあなた達は戦いますよ」とか言ったら
即座に億安のザ・ハンドと仗助のクレイジーDでボコボコに打ちのめされ人生終了
とにかく怪しまれるようなワードを言うのはよそう。
あくまでも自然に。
自分のキャラ設定も考えておこう。
1.転校生や移住者を装って二人と友達になる(高校生はちょっと厳しいか)
2.誰かの娘か親戚を装ってこの町に来たことにする(億泰の父親の知り合いの娘ならイケそう!?)
3.露伴先生のファンを装ってこの町に来たことにする(これが一番自然か!)
うむ、どれも自然にこの杜王町へ馴染むのに良い設定だ。
間違っても「未来から来た」とか「これから起こることを知っている」とか言ってはいけないぞ、私。
3部や5部のような「旅する御一行」ならまだしもここは4部。
日常生活がメインの世界だからな、不審者認定されたら一発アウトよ。
『あ、あのっ!実は私、漫画家の露伴先生の大ファンでして!
この杜王町へ住んでいると聞いてやってきたんです。』
そう言うや否や仗助と億泰は先ほどの警戒を少し解いた。
よし、良いぞ!この調子だ!
『もう感激しちゃって、あの先生と同じ地に立っていることが!嬉しくて!
それで、えっと、露伴先生のことを調べていたらお二人が露伴先生のお友達だと知って、
あの、興味がわいて、先生にこんなヤンキーなお友達がいたんだって思って
それで、あの私と友達になってください!!』
時を戻せるのならまさに今、2分前に戻したいッ!
後半自分でも何言っているか分からなくなっていたがとにかく大事なのは、凄味、である。
「……なに言ってんだ、コイツ」
「………………。」
流石の億泰も私の圧に押されたのか、目を丸くし唖然としている。
仗助に至っては声も出ないようだ。
いや、もしかして「露伴先生」にピンときていない?
じわりじわりと羞恥が押し寄せてくるも後には引けない。
『じ、実は私……不思議な力を持っていて、予知能力のようなものもあったり、なかったり…』
沈黙に耐えきれず自らボロを出していくスタイルッ!
「おい仗助、コイツ頭おかしいんじゃねーか?」
「……あぁ、ちょっとイっちまってる感じするよな」
あ、マズイぞ!完全にヤバい奴認定されてる。
『いや、あの、知り合いから聞いた話なんですが最近杜王町って物騒って聞いて。
なんというか不審なオーラが街全体を覆っているような感じがして、
まるで連続殺人鬼が潜んでいるかのような、あの〜〜、えっと』
「連続殺人鬼…?」
「おい、仗助マジでヤベー奴かもしれねえぞコイツ」
「あぁ やべーぜ。ロハンセンセイってのが誰か知らねーが、ストーカーかもしんねぇ。
億泰、関わんない方が良さそうだな」
『え、ち、違いますってば!!ちょっと待って、私は』
ちょっと設定ミスったか、やりすぎたかもしれない
そう思うも時は遅しで必死に手を伸ばすが、二人はじりじりと後ずさる。
そして億泰は仗助へ小さい声で耳打ちする。
「なぁ仗助、交番連れてった方がよくね?」
「……ああ。ちょっと警察に任せた方が安心だな」
『お話聞いてください!』
完全に「ずぶ濡れストーカーやろう」と化した私は
せめてもの情けで仗助から受け取った折り畳み傘を手に、
杜王町交番の前に突き出される羽目になったのだった。
こうして、夢にまで見たジョジョ4部の世界トリップは……
あっけなく失敗に終わったのである。
ちゃんちゃん♪
Back