プラトニックに教えて


秋、といえば私は食欲の秋。
かぼちゃやさつまいもをたっぷり使ったデザートをたくさん食べたい。
学校で実施する秋の調理実習は最高だ。
しかしひとつ、最低な授業がある。
【美術】、だ。
私は絵が得意ではない。いや、苦手だ。寧ろ嫌いである。
そんな美術の授業では定番中の定番、絵画がある。
秋にちなんで絵画なんて、なんて容易な考えなんだ先生!
と抗議してやりたいくらいだが成績に響くので心の中に留めておく。
とにかく、しばらくは絵を描く授業が続く。
そして最後には提出しなければならない。
そのために少しでもマシな絵が描けるようになんとかしなければならない。

「…なんとかなりませんかねぇ、先生」

「しつこいな、君」

今、私は露伴邸の玄関先で必死に縋り付いている。

「クオリティが低いからといって、
 成績が下がるわけでもないだろう。
 真面目に受けて提出すればいいだけじゃあないか」

「それは御もっともなんですが…、」

「そんな数週間で絵が上達するものでもない。
 それに僕は忙しいんだ。
 君のお絵描きの先生をやっていられるほど暇じゃあない」

諦めろと、うんざり顔の先生を必死で説得することかれこれ20分。

「コツでもいいんです!少しでもマシな絵が描けるようになれば…!
 そ、そうだ、教えてくれたらもちろんお礼もします!
 なんでもしますから!」

「君に頼むほど人手不足ではない」

平行線のまま進まないが諦めずに説得を続ける。
それからさらに15分、ついに先生が折れた。

「仕方ないな、教えてやるよ」

長い長いため息と共にうちの中へ入っていく先生の後を追う。
私の情熱的なアピールが通じ、喜んでいる私を横目に
さっさと終わらせたい先生は即座に講義を始める。

「まずは君の実力を知りたい。
 なにか描いてみてくれ」

描いてみてくれ、の言葉に一瞬で緊張が走る。
通された部屋に置かれたスケッチブックの前で佇む私に
先生がさらに追い討ちをかける。

「そうだな、
 じゃあまずはこの林檎を描いてみてくれ。」

無造作に置かれた2個の林檎を眺め、
美味しそうだなあと現実逃避をする私の視界を遮ったのは紛れもなく先生であり、
視界いっぱいに広がるのは綺麗に研がれた鉛筆だった。

「はやくしてくれ」

「はい」

自分から頼み込んでおいて描きたくない何て身勝手なことは当然許されない。
綺麗に研がれた鉛筆をゆっくり右手で握り、丁寧に、全神経を集中させて描き始めた。
私の後ろで高圧的な視線を送る先生の気配を感じながら。

・・・

「待て」

「え」

描き始めて1分も経っていない。
何事かと振り向けば先生は私の描いた林檎を睨みつけている。

「君…、いや、理解したよ」

シミュレーションしたより遥かに絶望的な表情をしている先生にもはや私に成す術はない。

「君は壊滅的に芸術センスがないんだな。」

「へへ…。」

「ここまでくるともはや芸術かもしれない」

「それほどでも…」

「褒めてない」

厳しい。

「ふむ。
 しかし絶望的な画力の中にもひとつ、君の個性がある。
 これを活かせばそれなりの絵を描けるかもしれない」

聞こえぬほど小さい声で独り言を呟いていた先生は私の横を通り越して机の奥のソファへ腰をかけた。

「よし、絵画の講師を引き受けたからには
 この岸辺露伴が徹底的に指導してやる。
 ありがたく思えよな」

「え…?」

「まずは基礎から叩き込ませる。」

「…」

「おい、何をぼけっと突っ立っている。
 さっさと座れ。」

圧に押され即座に座ると先生は鋭い視線を向けた。

「今日から特訓だ。」

それからニヤリと微笑んだ。

「……。」

よほどひどい画力だったのだろう。
先生の何かのスイッチを押してしまった私は逃げることもできず
数日間の地獄の特訓が続いたのだった。


・・・

数ヶ月後_______

「先生!せんせー!」

私は露伴邸の前でチャイムを押しながら叫ぶ。

「…。」

疲れているのか、寝起きなのか、
機嫌の悪そうな先生が怪訝な顔をしながらのそりと出てくる。

「みてください!」

「何だい…。」

「これです!これ!」

手に握っていた絵画と一切れの紙を先生に見せる。

「これ、私が美術の授業で描いた絵です!
 そしてこっちはクラスメイトの評価!」

描いた絵を壁に飾り、クラス全員で観賞して感想を書くといったものだ。
そこに書かれたクラスメイトからの評価はもったいないくらいの称賛で。
特に絵が下手なことを知っているクラスメイトからは驚きのコメントもあった。

「ちゃんと評価につながりました…。
 先生のおかげです!」

「ふん、当たり前だ。
 この岸辺露伴が直々に指導したのだからな」

「粘った甲斐がありました!
 ささやかですがお礼です」

両手に持った菓子折を突き出すと
背を向けダイニングに向かう先生。

一緒にお茶してくれるってことかな?と捉え続いてはいる。

「本当、粘った甲斐がありました!
 また何かあったらよろしくお願いしますね、せんせ!」

「もう勘弁してくれ」

心の底から嫌そうな感情が背中越しに伝わる。
しかし私は知っている。
なんだかんだ優しい露伴先生を。

―――――――――――――・・・

end.





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