小さな約束
孫悟飯(セル編から数年後)



「はい!今日はこれでおしまい!」

分厚い参考書をぱたりと閉じると、悟飯君は小さな腕をめいっぱいに伸ばす。

「ふー、今日もありがとうございました!」

目線を合わせて礼儀正しく挨拶をする。

「うん、おつかれさま」

本当にしっかりとした子だ。
初めて会ったのはまだ家庭教師を務める前、3歳くらいの時だ。
それから宇宙人に誘拐されたり、
願い球を求め異星へ飛び立ったり、
金髪になったり、
セルゲームに参加したりと壮絶な出来事があったが、
その度に力だけでなく、精神的にも成長していた。
(私は武道家で無いのでよくわからないけど)

しかしまだ子どもだ。
鋭い眼差しは無く、今はホットココアを冷ましながら
勉強終わりのひと時を楽しんでいるあどけない子どもなのだ。

そんな彼に今年はいつもよりも、とびきりのクリスマスプレゼントを用意したい。
しかし悟飯君は「欲しいものは無いんです」と謙遜して教えてくれない。

こうなったら勝手に選んじゃうもんね!
と意気込んだものの、子どもが喜ぶものが分からず数日間悩んでいた。

(通常の10歳児が喜ぶものでは満足しないだろうな…)

そんなことを考えている中、ふと感じた視線をたどると
悟飯君とバッチリ目が合う。

「悩み事ですか?」

「あ、ううん…」

イケナイ、イケナイ、と悩みを振り落とす。
そんな中もじーと見つめていた悟飯君がぽつりとつぶやく。

「これから時間、ありますか?」

彼へ振り向くとふいに視線を外され、小さく俯いた。

「行きたい所があるんです…。」

「えっと、これから?」

「はい…、」

どうしても、と言う言葉に押され、彼に続いて立ちあがる。

「チチさんへ言わなくて大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ、すぐに帰ってきますから」

窓のサッシへ足を掛けた悟飯君に慌てて声をかける。

「ま、待って!私は、」

飛べないんだけども!と言おうとした私に満面の笑みを浮かべる悟飯君。

「僕が連れて行きますよ!お姫様だっこで」

悪気なく言い切る悟飯君の言葉にじわじわと熱帯びていく頬。

「ジェット機持っているから!これで行こう!」

宙に浮いている悟飯君が此方へ腕を伸ばすより前に小さなカバンから
一人乗り用のジェット機が収められているホイポイカプセルを取り出す。

「これ、一人乗りじゃ…」

「私が運転するから!悟飯君は、案内してね!」

「は、はい」

無理やり2人で乗り込み、勢いよく発進させる。

それから数分の道案内から行き着いた先は
とても見晴らしの良いひっそりとした丘だった。

「ここは……?」

「前に、お父さんと修行した帰りに見つけたんです。
 ここ、すごく眺めが良いでしょ?」

「うん、すごくきれい!」

あの辺りがブルマさんのお家かな?と西の方角を指さす悟飯君。

「さすが都会だね、街がキラキラしてる」

「今もよく、ここに来るんです」

煌びやかな街を超えた、何処か遠くをみつめる悟飯君にふと思う。
地球を絶望に陥れたセルにお父さんと二人で打ち勝った悟飯君。
いつぞやかにほろりと溢した戦いが好きじゃない、と言う言葉はきっと本音だったのだと思う。
彼が守り抜いた地球と取り戻した平和に胸が詰まった。

自分の首にかけていたストールをそっと肩へ掛けてあげると
寒くないのに、と言いながらもしっかり首へ巻きつけている。

「ねえ、クリスマスの日さ、午前中に勉強終わらせたら
 午後、私のうちへ来ない?」

「え 薔薇子さんのおうちに…?」

「そう!とびっきり美味しいケーキ作っておくからさ!
 ケーキを食べたら街へ遊びに行こう!」

チチさんには私から説明しておくからね、という言葉も忘れず付け加える。

「わぁ…! 楽しみだなあ…!」

イルミネーションに負けない、純真な笑顔で喜んでくれた。
私は悟飯君を甘やかす係りだ!
そう心に決めた私はそっと頭をなでた。





(どぉーこ行ってただ!)
(わわ、おかあさん!)
(違うんです!チチさん、これには訳が)
(薔薇子さも共犯だべか!)
(星を見ていたんです!)
(星ィ…?)
(そ、そうそう!星を見に行ってたんだよ、ね)
(私のお家からだとあまり見えないからって無理言って…)
(まったく、それなら一言いってくれれば良いだに)
(あ、はは)
(へへ…)





end...

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