独り占め
ちびトランクス


あたたかな日光の下、よく焼けたお肉を頬張る大人たち。
その周りを歓声をあげながら走り回る小さい子たち。
たくさんの食べ物に囲まれて嬉しそうな魔人と美味しいものを堪能する神様たち。
そんな光景を遠目にほほ笑む宇宙人。
自分がこのクリスマスパーティと称した集まりにお呼ばれされた不思議さに改めて疑問を抱く。

(凄い…ブルマさんって何者…。)

きっとたくさんの見たことも無いような料理やデザートががずらりと並んでいるだろう事は
安易に想像できたが、それでも手ぶらで行くわけにもいかず、
ささやかながら手作りのチョコレートチップクッキーを持ってきた。

(どうしよう…)

午前中仕事だった私は皆よりも遅れての到着となった。
気心知れるほどのお付き合いとは言え、既に出来上がった空気の中に
入っていくことに躊躇いを感じた私は目立たない隅っこのベンチへ腰かけた。

(そういや結局、トランクス君や悟天君へのクリスマスプレゼント、
 買いそびれてしまったな)

2週間ほど前から2人に何が欲しいかを尋ねていたのだが、
お坊っちゃまのトランクス君は特にほしいものが無いらしく、
また悟天君は聞いたことのない虫や生き物を欲しがるので手に入らず、
2人へのプレゼントは大量生産した手作りクッキーとは別に
少し大きめのケーキを購入することしかできなかった。

(そうだ、このケーキ、冷蔵庫に入れなきゃ!)

さきほど視界の中にいたベジータさんは既におらず、
メイドの方も見当たらなかったので、迷った挙句お家の中へ入ることにした。

(途中メイドさんにすれ違うかも。
 そうしたらケーキを冷蔵庫に入れさせてもらおう)

冷蔵庫に入れてもらったらすぐに戻ろう。
そう思いながら長い廊下を突き進んでいくもメイドさんと出会うどころか、
ひと一人見当たらない。

これはいよいよ迷子かも、と思い始めたころ、後ろから元気な声が聞こえた。

「おーいってば!」

立ち止まって後ろを向くと、さらさらとした髪の毛を振り乱しながら走ってくるトランクス君だった。

「あれ、どうしたの?」

「こっちのセリフだよ!
 やっと来てくれたと思ったらお家に入っちゃうし!
 呼んでるのに全然反応してくれないし!」

おまけに倉庫の方へ無心で歩き始めるからさ、何かあったのかと思ったよ、
とあきれ顔ながらも心配してくれていたようだ。

「あ、ごめんね。
 ケーキを冷蔵庫にと思って…、」

そこまで言うと目を煌めかせたトランクス君が前のめりに言葉をかぶせた。

「ケーキ!もしかしてお姉ちゃんの手作り!?」

「あ、いや、ケーキは市販のだよ!
 とても美味しいと評判でね、西の都の…」

お店の説明をし始めた私を一瞥し「なーんだ」と肩を落とす。

「あ、でもね、このチョコレートクッキーは手作りでね、」

量からして皆で食べる用と分かったのか、
「冷蔵庫はこっちだよ」と指をさして歩き始めた。

やっぱり、特別なクリスマスプレゼントを期待していたんだな、と
申し訳なく思い、あらためて何が欲しいのかを聞こうとした時。
短い沈黙を破ったのはトランクス君だった。

「べつにプレゼントは要らないんだけどさ…、」

「うん?」

歯切れ悪く詰まった言葉の続きを待つ。

「た、楽しみにしてたんだ…、その、
 お姉ちゃんと遊べるの…」

小さくなっていく声と赤らんでいく頬。

「今日はいっぱい遊んでくれるって約束でしょ!」

「も、もちろん!」

楽しみにしてくれていたことに嬉しさを感じ力いっぱい頷く。

「そのクッキーも全部、オレにくれるんだよね?」

「もちろん!」

「で、今夜は泊って一緒に寝てくれるんだよね!」

「もちろん!…って、え?」

勢いで返事をしてしまったが、今、何て?

「あ、いや私、明日仕事が入ってて、」

「お姉ちゃん、クリスマスの日に仕事なのォ!?
 信じらんないぜ…忙しいの?」

「ま、まあ代理と言うか、忙しいわけじゃないんだけどね」

そりゃあクリスマス当日なんて皆、お休みしたいよね。
私は特に用事が無かったから代理出社を受けてしまったんだけれども…。
そんな私を憐みの含んだ目で見るトランクス君に若者として少し恥ずかしくなる
(20代はまだ若者で良いんだよね?)

「よし、じゃあ明日は仕事が終わったら俺が迎えに行くから
 近くのカフェで待ち合わせね。分かった?」

「え、いやちょっと待って、」

「仕方ないなあ〜、明日の朝も俺が送ってあげるから、安心して!」

「あの、トランクス君、私」

わたわたしている間に話が進んでいく。
一旦整理しようと呼びとめるもトランクス君は小さな腕を組んでこちらを見つめる

「俺じゃあ不満なの……。」

「と、とんでもないです!」

先ほどまでの楽しそうな暴走から急に潮らしく(多分わざと)、
弱弱しい声で呟くものだからまんまとその手に乗せられる。

「今日も明日も、楽しみだね!」

ほほ笑みかければパっと笑顔を見せてくれる。
ああ、私はこんな小さい子の小さい掌の上で転がされているのだろうな、と
思いながらも満更でも無い気持ちで今日の夜は何して遊ぼうか考え始めた。






(トランクスも薔薇子ちゃんもまだ寝てるべ)
(きっと夜遅くまで遊んでいたのよ。
 トランクス、すっごく楽しみにしていたから)
(あれ、窓にかかっているスーツは誰のだべ?)
(? さあ……?
 さ!そろそろお昼ごはんでも作りましょう!)
(だな!オラも手伝うだよ!)


end...