そういえばこの前の学校の帰り。
友達と寄り道した時に見つけたお洒落で小さなカフェ。
外観がメルヘンチックながらも落ち着いた色合いでとても素敵なカフェだった。
今日はそこへ行ってみよう。
いつもは左へ曲がる道を今日は右に曲がる。
緩やかな坂を上りきると遠くまで見渡せる海と
木に隠れるように佇む小さいカフェ。
表に出ていた黒板のメニューにはどれも魅力的なデザートが描かれていた。
「西園寺…か?」
メルヘンな世界の中に響く低めの声。
「牧先輩…?」
振り返ると海を背に立つ、背の高い先輩、牧 伸一が居た。
チラリと黒板を目にしふと笑う。
「西園寺が好きそうなメニューばかりだな。
それにお店の外観も」
「そうなんです!
とても可愛くて、でもどれもおいしそうで選べなくて!」
ついつい声のトーンを上げて喋ると再び牧は笑う。
「よし、何かご馳走してやろう」
「えっ…えっ!?」
さらりと言う牧の言葉に思わず聞き返す。
「そんな、悪いですよ!」
「と言いつつ、随分嬉しそうな顔をしているな」
食い意地が張っていると思われたか、
と少し恥ずかしくなり下を俯くも嬉しさで口元が緩む。
「すみません、嬉しくて…、つい…」
「そういう西園寺の素直な所が長所だな」
「…褒められてます…?」
それから私は店先で10分悩み、
いい加減暑いからと牧に促されて涼しい店内に入り
席に着くもまだ決まらず15分ほど悩んだ末、
【苺タルトのたっぷり生クリームとレモンソース掛け】を注文した。
因みにメニューを頼んでくれたのは牧だ。
頼んでくれた、というとかなり語弊がある。
私が頼ませたのだ。
「牧先輩が…苺タルト…ふ、ふふっふっ」
「……。」
店員さんはどう思っただろうか。
この大男がまさかタルトを?と思っただろうか。
「あのな、西園寺じゃあるまいし、もう一つはコーヒーを頼んだんだ。
どう考えても俺がコーヒーで西園寺がタルトだと思うだろう。」
「そうですかねぇ。
…あ、じゃあ勝負です!」
「勝負?」
「店員さんがタルトとコーヒーを運びに来た時、
私か先輩、どちらにタルトを差し出すか!」
最初から決まっている勝負だと言わんばかりに
ため息をつく牧を余所に私は楽しみで胸が高まる。
タルトとアイスコーヒーが来るまでの間、他愛もない話をする。
それからほどなくして運ばれてきたタルトを、
店員さんはほんの一瞬、迷うそぶりを見せるも私の前に置いた。
そしてわずかにホッとした表情を見せながらコーヒーを牧の前へ置く。
「なんだあ……。」
「だから言っただろう。」
勝負で俺に勝とうなどと100年早すぎる、と
憎まれ口をたたく牧に頬を膨らませる。
タルトが牧の前に運ばれたら、
記念に写真を撮りまくって清田や神に見せ笑ってやろうと思ったのに。
密かな楽しみは打ち砕かれたが、カランとなった牧の
アイスコーヒーに沈んだ氷を見つめながら、
今日はカフェに来て良かった、とわずかにほほ笑んだ。
end...
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