仙道 彰

秋の海も風情ある。
唐突に思った私は海岸へ向かった。
住宅街の細い道を抜けた先に大きく広がる海岸。
海水浴シーズンがとっくに終わった今、静けさの中には
空高く飛ぶ野鳥の鳴き声だけが響き渡っていた。

波のさざめきに耳を澄まし、
目を瞑りながらゆっくりと海岸を歩く。

ほどなくして私は何か第6感の様なものを感じた。
このまま歩いてはいけない気がして立ち止まり、ふと目を開ける。

「こんにちは。」

すぐ目の前には背の高いツンツン頭の仙道彰が立っていた。

「仙道さん…!」

「何してるの?」

「海と風と鳥の音を堪能しようかと…」

「目を瞑って歩くなんて」と苦笑する仙道。
きっと変な子と思っているに違いない。

「すぐ目の前にいるのに、
 全然反応しないから驚いたよ。」

「私も吃驚しました…。
 目を開けたら仙道さんがいたから……。」

「もう少しでぶつかるところだったね」と
どこか惜しそうに笑う仙道を見上げる。
本当にあと一歩半でぶつかりそうな距離にいた。
普段遠くから見守っているだけの仙道が
間近にいることに少し恥ずかしくなり、さりげなく後ろへ下がる。

「声、掛けてくれればいいのに…。」

恥ずかしさを隠すためにやや俯きながらつぶやく。

「いやあ…。
 ぶつかってきたら、どう受け止めようかと
 考えていたから声を掛けそびれてね。」

にこりと笑いながら余裕に返す仙道の言葉に
かあっと頬が熱くなるのを感じた。

「…からかってます…?」

少し眉を寄せて抗議するも
「反応が面白くて、つい」と悪びれもせずほほ笑む仙道。

「悪い悪い、お詫びに、これ。」

一ミリも悪いと思っていなさそうな笑みとともに手渡された小さなもの。
反射的に手を差し出すと、手のひらにはキラリと艶めく
白い貝殻が置かれていた。

「…、貝殻?」

「さっき、見つけたんだ」

綺麗な貝殻を拾うなんて女の子みたいだな、
と思いながら視線を送ると私の思っていることが通じたのか、
困ったように口を開く。

「100円玉が落ちていると思って近寄ったら貝殻だったんだ」

「……。」

100円玉かと思って拾いに行く仙道も
それはそれでちょっと面白いなと密かに心で笑った。

仙道は足元に置いてあったボックスのヒモを肩へかける。

「あ、釣りしていたんですね」

「そう。
 まだ全然釣れていないけどね」

さほど悔しそうでもない仙道は続きの釣りをしに私の横を通り過ぎる。

横顔を目で追っていると、顔だけ振り返らせた仙道が

「危ないから、目は開けて歩くんだよ
 薔薇子ちゃん。」

と微笑みながら去っていった。

「ご心配なく!」と声を荒げてその背中に返事をする。
手のひらに置き去りにされた白く光る貝殻に視線を移し、
夏の終わりの様な刹那な嬉しさを感じていた。


end...

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