夕方、人気のない花壇で、薔薇子は油絵具を広げようとしていた。
(ここでなら、誰にも邪魔されずに描ける…)
薔薇子は、誰かと群れるのが苦手だった。一人で読書をしたり、絵を描いたりする時間が好きだった。
特に、夕焼けを描くのが好きで、この花壇は、薔薇子のお気に入りの場所だった。
花壇の植物は、花が咲いているものの、あまり手入れされていない様子だった。
薔薇子は、時々ここに来ては、水やりをしていた。
「あら…」
ジョウロを手にとり、水をやろうと思った。蛇口をひねるが、固くて回らない。
「うーん…」
何度か試してみるが、びくともしない。
(誰も使わないから、錆びちゃってるのかな…)
困っていると、背後から声がした。
「どーかした? 」
声の主は、同じクラスの仗助だった。薔薇子は、少し警戒しながら事情を説明した。
「この蛇口、固くて回らないんです。」
(仗助くん、同じクラスだけど、ヤンキーだしなんか近寄り難いんだよな…)
「ああ、そりゃ大変だな……。ちょっと貸してみ。」
仗助はそう言うと、力ずくで蛇口をひねった。
「おりゃ!」
蛇口は回り、水が出始めた。薔薇子はジョウロに水を汲みながら、仗助に礼を言った。
「ありがとうございます。」
「どーいたしまして。」
仗助はにこやかに笑うと、薔薇子に話しかけた。
「その絵、綺麗っスね。何描いてんだ?」
「ありがとうございます。夕焼けの風景画です。」
「へえー。絵、上手なんすね。オレけっこ〜〜好きな絵かも」
薔薇子は少し驚いた。
(仗助くんって絵とか興味あるんだ…?意外だな…)
「そうなんですね。」
「そうだ、水やりするところだったんすよね? オレも手伝うっすよ。」
「え? あ、はい。お願いします。」
薔薇子は戸惑いながらも、仗助の申し出を受け入れた。
二人で花壇の植物に水をやっていると、仗助は薔薇子に色々な話をした。
好きな音楽の話、最近あった面白い出来事、友達との会話。
薔薇子は、仗助の話を聞いているうちに、彼に対するイメージが変わっていくのを感じた。
(全然、怖い人じゃない…)
「そういえば、西園寺はいつも一人でいるけど、何か趣味とかあるんすか?」
「私は、絵を描いたり、本を読んだりするのが好きです。」
「へえー。どんな絵?」
「風景画が多いです。特に、夕焼けを描くのが好きなんです。」
「夕焼けか。そういえば、薔薇子さん、バイク乗る?この前見かけたんすけど…、」
「まあ、たまに一人で乗ります。」
「おっ!やっぱり。じゃあ今度、一緒にツーリング行かねーっすか。億泰も誘って。」
「(億泰って誰だっけ…?)」
薔薇子は、仗助の口から出た名前に、少し疑問を抱いた。
水やりを終え、薔薇子は仗助に改めて礼を言った。
「今日は本当に助かりました。ありがとうございました。」
「どういたしまして。じゃーまた!」
仗助は笑顔でそう言うと、手を振って帰っていった。薔薇子は、仗助の後ろ姿を見つめながら、静かに微笑んだ。
(仗助くん…、優しい人だったんだ。もう少し話してみたいな…)
薔薇子は、明日の朝、教室で自分から仗助に挨拶してみようかなと密かに決心した。
end...
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