ヒーロー科の試験から数週間。中学校から帰宅したナマエの机上には見知らぬ封筒が一枚。僅かに膨らんでいるそれに触れれば平たくて円い何かがそこに在った。天草伝手に届けた使用人曰く雄英高校の受験合否だろうとのことで、差出人を見れば確かに雄英と書かれている。
 両親に見せればいの一番に封を切るのは目に見えていたので直接ナマエの元へ持ってきたのは正解だ。この家で長らく働いている使用人だからこそ雇い主の性格を把握し最善の行動を取ったのだ。ナマエは封を切りながら、数人しかいない使用人の顔を浮かべ内心感謝を述べた。

「マスター、それは……?」
「この前の受験の結果」
「ああ、私を連れて行ってくれなかったやつですね」
「……拗ねてる?」
「いえ、全く。拗ねてません」
「(絶対拗ねてる……)」

 端々に棘のある言葉を聞き流しつつ、封筒の中から出てきたホログラムの再生装置を手に取って眺めてみる。
 長らく魔術師として生きてきたせいかナマエはこういった機械類があまり得意ではなく、こうして技術の粋を目の当たりにする度に驚き感心させられている。

「使い方分かります?」
「それくらい分かるわよ。……多分」

 悪戯な表情を浮かべる天草を撥ね付けたのはよいものの使い方に関しては不安しかない。しかし彼に教えを乞うのは癪だ。
 受肉していた六十年で彼は様々なことを学んだらしくこういう場面になると必ずと言っていいほど優位に立ちたがる。カルデアの時からそうだった。故にこの時ばかりはナマエもマスターとしての威厳云々と言い訳を並べて意固地になってしまうのだ。

「同盟者! 合否通知がきているのならば私も呼んで下さいよ!」

 にゅっと現れたのは白い御衣みぞを被ったニトクリスだった。ぷりぷりと怒っている様子だがメジェド神のようなその見た目では些か迫力に欠ける、寧ろ可愛らしいなぁとナマエと天草の心境が一致した。

「そうだぜ。ま、俺がったんだから合格に決まってるけどな!」
「いやいや。常識的に、本人が見て両親に報告をしてから、我々だろう」
「と言いつつ士郎も気になってるんじゃない」
「……」

 外で聞き耳を立てていたのであろう他のサーヴァントたちも霊体化し壁をすり抜けてまで部屋に押し入って来る。どうしても気になるらしい。
 一人で見ても二人で見ても大勢で見ても結果は変わらないのだから、ナマエはこのままみんなで見ようとその場を諌める。
 どさくさにナマエの手から装置を奪っていた天草がスイッチを入れ、テーブルに置くのを合図にナマエを囲むように皆それぞれソファーに腰を下ろした。
 装置からホログラム映像が宙に投影されると、平和の象徴が映し出される。

『私が! 投影された!!』

 黄色のスーツに身を包んだオールマイトは相変わらず劇画チックな姿で爽やかな笑みを浮かべている。

『やあミョウジ少女! 君は破壊Pヴィランポイント救助Pレスキューポイント共に群を抜いての最高得点! 筆記も素晴らしい結果で文句なしの合格だ!!』

 サムズアップするオールマイトの右下から小さな生き物、雄英高校の校長である鼠の根津が姿を現し自己紹介と共におめでとうの言葉を紡ぐ。
 ここからは僕が、とオールマイトと交代した彼にカメラが向き、画面いっぱいが校長の姿に変わる。

『実技試験の内容で気になったので君の“個性”について、こちらで少々調べさせてもらったよ』

 “個性”についてとは、十中八九魔術師の方ではなく彼らサーヴァントについてだろう。

『……結論から言って君の“個性”はあまりにも異質だ』

 分かりきっていた事だがいざ他人からはっきりと言われると、ナマエは自分という存在がつくづく嫌になる。まるでこの世界に居てはいけない存在であると思い知らされるようだ。

『何かを召喚したり誰かを従わせたりといった“個性”は稀に存在しているが君が召喚し付き従わせているモノは違う。存在するだけで世界の在り方を変えてしまう英傑。過去に類を見ない、地球上に君だけと言っていい“個性”だ』

 伝承の英雄たちを召喚し従えるなんて“個性”、使いようによっては世界の常識すらひっくり返すことが出来る。世界中探してもナマエしかいないだろうその“個性”を利用しようと考える者は少なくない。
 しかし、根津の言葉などナマエの耳には入っていない。彼の放った“異質”という言葉だけが彼女の中をぐるぐると這い回り息が詰まりそうだ。

「……」

 二桁を超える人生を過ごしてきて感情を隠すことに慣れてしまったナマエの、僅かな変化に気付けたのは唯一彼だけだった。
 いつかのテーブルの下でナマエがやったように天草がすぐ隣にある彼女の手に自分のそれを重ね、すっかり冷たくなってしまった柔肌を優しく包み込む。
 彼の手の温もりで漸く自分がひどく思い詰めていたことに気付き、はっとして首を振り気持ちを切り替える。今はホログラムに集中しなくては。ホログラムの中の根津は続ける。

『故に君の“個性”を利用しようとするヴィランは多いだろう。そこで雄英としては是非とも君をヒーローとして育てたいと考えている。“特待生”という枠を用意したから是非そこに収まってほしい。君の“個性”をヴィランにしたくない』

 そもそもヒーロー科の入試を受けている時点でヴィラン側に付く可能性などゼロに等しいのだから。わざわざそのような措置を取らなくても、と考えたが彼の言葉を逆手に取るとヒーロー科出身のヴィランも世の中には少なからずいるということだろう。
 では君の入学を待っているよ、という言葉で締めくくり映像が消える。次の瞬間、わっと室内が盛り上がる。

「ま、俺にかかればこんなもんよ!」
「私でも同じ結果だったと思いますよ。ともあれ、マスターおめでとうございます」
「あーマジで合格しちまったかー。正義の味方なんてオススメしませんけどねぇ」
「ほらメジェド神たちも祝っておられますよ!」
「……マスター、おめでとうございます」
「今日の夕食はとびきり豪華にしなくてはな」

 口々に彼女への賛辞が発せられ、聖徳太子かとツッコミを入れたくなる気持ちを何とか抑える。少人数でもここまで賑やかになればナマエの中にあった暗い気持ちなど吹き飛んでしまっていた。

「……みんな、ありがとう」


 案の定その夜は彼女の両親は両手を上げて彼女の合格を喜び、食卓にはパーティーと見紛うほどの料理が並んだ。


規格外宣告