どうしても付いていくと言って聞かない天草を連れ、国立雄英高校のセキュリティゲートという名の正門をくぐる。本日は入学式である。
通行証もしくは学生証がなければ侵入者阻害のシステムが即座に作動し閉門される仕組みとなっている校門を霊体化した天草が潜っても門が閉まらない所を見るに、“個性”で現界している存在には反応を示さないのか、それとも単純に霊体は感知しないのか。霊力で仮の肉体を得ているだけの状態から察するに恐らく前者であり、聖杯によりサーヴァントが受肉すればセキュリティは問題なく作動するだろう。
玄関に張り出されたクラス分けの張り紙にはA組の最後尾にナマエの名前が、その一つ上によく知る女の子の名前が表記されていた。それを見たナマエの足取りは心なしか軽くなる。靴を履き替え教室へ向かう途中でよく見知ったポニーテールを見つけ駆け寄った。
「百〜! おはよう」
「ナマエさん! おはようございますっ」
「同じクラスになれたわね。嬉しいわ」
「私もですわ!」
あのパーティー以来、八百万家とは家族ぐるみでの付き合いをするようになっており、ナマエが雄英ヒーロー科を受験することを知った八百万はナマエが引くほど目を輝かせていた。
「今日もサーヴァントさんはお連れですの?」
「ええ。時貞が横にいるわよ」
この世界での初めての友人である八百万とは良い関係を築いていきたいと考えたナマエは自分の“個性”のことをそれなりに説明してきた。サーヴァントも何人か紹介して、普段は姿を消していることについても説明済みだ。
ナマエの視線の先にいるであろう天草に会釈する八百万に、天草もナマエを介して朝の挨拶をする。
二人が着く頃には教室には既に数名のクラスメイトがおり、自分の席で大人しく座っている者、今後の交友関係を円滑にする為周りに声をかける者など、各々自由に過ごしていた。ナマエたちも軽く挨拶を交わし、先ずは自分の席を探す。
特待生という肩書きを用意されたナマエの席は窓際の最後尾、出席番号と同じく八百万の後ろだった。八百万と談笑しながら己の席へ座ろうと窓際の後ろの席に差し掛かった所で、赤と白の派手な髪色の少年と目が合った。
彼女の席の斜め前、八百万の隣の席となる場所に座っていた彼は、ナマエを見るなり信じられないといった風に瞠目し思わず立ち上がって彼女を指さしていた。
「は……ナマエちゃん!?」
「え……焦凍? 焦凍じゃない! 焦凍も雄英受けてたのね!」
「え、何で……」
轟とは連絡先も知らずまま、あの日以来ほぼ疎遠となっていたので互いの動向が知れず終いだった。
横で訝しげに轟を見やった天草は、その見事なまでに二色の頭髪であの日エミヤから聞いた少年の話を思い出だす。
「二人はお知り合いですの?」
「小さい頃に会ったことがあるのだけれど、それ以来会えてなくてね」
「まぁ! まさに運命の再会ですのね!」
見事な再会にナマエは喜んでいるが轟は未だ信じられないものを見ているようで。
「そんなに驚いてどうしたの?」
「てっきり年上だと……」
「あー……」
当時のナマエは自分でも子供らしくない言動をとっていた記憶があり、轟を慰めていた時も同様の対応をしていたので、彼の言葉に苦笑しか出来なかった。
「まぁ、細かいことは気にしないで! これからもよろしくね」
「ああ……なぁナマエちゃ……」
「お友達ごっこしたいのなら他所へ行け」
轟が何かを言おうとした刹那、タイミング悪く誰かの声が教室内の会話全てを断ち切った。
声の主は寝袋に包まり芋虫のような格好の上無精髭を蓄えておりお世辞にも清潔感があるとは言えない。
中々強烈な第一印象を与えてきた男性に、皆一様に静止してしまうのも無理からぬこと。しかしセキュリティのしっかりとした雄英高校に居る大人は限られているので何れにせよ学校関係者に違いない。
静かになるまで八秒かかりました、と彼は寝袋を出る。
「時間は有限。君たちは合理性に欠くね」
彼はどうやらこのクラスの担任らしく、名前は相澤消太というそうだ。
相澤はつい数秒前まで包まっていた寝袋から真新しい体操服を取り出してこれに着替えてグラウンドに出るよう指示する。ナマエ個人としてはおじさんの寝袋から取り出した体操服は着たくないのだが、他の生徒は素直に受け取っているのだから彼女もそれに倣うしかない。
ミョウジと書かれた付箋が付いているそれを受け取ったナマエを、相澤は注意深く見やるが特段危険な“個性”を持っているように見えやしない、他の生徒と変わらない普通の女子生徒だ。まぁ普通に見えるからこそ彼女の“個性”は危険度が高いのだが。
指示通りグラウンドへ出たA組の生徒一同に相澤は入学式やガイダンスを無視して“個性把握テスト”をすると言う。内容はソフトボール投げや立ち幅跳びを始めとした極一般的な、中学では“個性”禁止で行われている八種目の体力テストを“個性”を使って行うというもの。
相澤は爆豪を指名し中学でのソフトボール投げの記録を聞いた後、石灰で引かれた円の中でならば何をしても良いから“個性”を使ってソフトボールを投げるよう指示する。
その言葉に爆豪は罵声と共に“個性”を使ってボールを遠くまで投げ飛ばす。彼の“個性”、爆破による爆風は掌大のソフトボールを遥か遠くまで飛ばした。
「まず自分の“最大限”を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
そう言って相澤が生徒らに見せた爆豪のソフトボール投げの記録は705.2m。いきなり叩き出したものすごい数値にクラスメイトはわぁっと盛り上がる。
「なんだこれ! すげー面白そう!」
「705mってマジかよ」
「“個性”思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」
面白そうともつまらなそうともナマエは思わなかった。
「………面白そう、か。ヒーローになる為の三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?……よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
「はあああ!?」誰かが声を荒げる。
「生徒の如何は先生の“自由”。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
放課後マックで談笑したかったのなら残念だったなと淡々と言う相澤と気合を入れ直すクラスメイトを、ナマエはただ他人事のようにぼんやりと眺めるだけだった。
最大限というのだから本来ならばナマエはサーヴァントを実体化させるべきなのだろうが、体力テストという名目上個人の実力でやってみるのが筋だろう。
まずはソフトボール投げ。雄英始まって以来の異例の“特待生”という肩書きにクラスメイトの視線がナマエに集まるのは必然のこと。どんな“個性”を持っているのかと好奇の眼差しに晒されながらナマエはソフトボールにルーンを刻み宙へ放る。ただそれだけでボールは放物線を描くことなくただひたすら真っ直ぐ進んでゆく。
記録は麗日と同じく“∞”。無重力の麗日とは違いナマエの刻んだルーンは永遠に浮き続ける代物ではないのである程度の距離以上だとそう表示されるのだろう。
その後もルーン以外にも強化魔術や時には投影魔術も用いてそれまでクラスメイトが更新してきた記録を上回る数値を叩き出していくナマエ。
『大人気無いですねぇ』
「“最大限を知る”だもの。手を抜いたらそれこそ彼らに失礼よ」
『なんて言って、ただ楽しいだけでしょう』
「うふふっ。だって、何も考えすずただ体を動かすのって久々なんだもの!」
『マスターが楽しそうでなによりです』
全ての種目が終わり生徒たちは自分が最下位でないこと祈りつつ相澤の言葉を待つ。
「んじゃ、ぱぱっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する。ちなみに除籍はウソな」
相澤が端末を取り出しながらぼそりと呟いた最後の言葉に、生徒たちは目を丸くする。
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「はぁーっ!?」
「あんなのウソに決まってるじゃない。ちょっと考えれば分かりますわ」
「……そうね」
八百万の言葉に同意してはいたが幾重にも生死を繰り返してきたナマエには、彼の言葉が嘘であったとは到底思えなかった。現に相澤は昨年受け持ったクラスを丸々除籍処分しており、天草も後に相澤と黄色のスーツを着た痩身の男性との会話でその事実を盗み聞くこととなる。
何はともあれ体力テストの結果は一位からナマエ、八百万、轟という結果となり、特待生という肩書きに恥じぬ結果を出せたナマエは密かに胸を撫で下ろしたのだった。
再会と体力テスト