「で、どんな子と出会ったんだ?」
「昨日の夕方頃にくじら食堂でご飯食べたと言ってましたよぉ」
「あー。俺、昨日はずっと厨房にいたんだよなあ。風月が来てたのは知ってるんだけどさ」
「そう! まさにその風月ちゃんが連れてきた子なんですよぉ」

 ぱちんと両手を叩いて目を輝かせる。くるみの表情から余程愉快な話なのだろうことが分かる。そんな面白いことになるなら親父に怒られることになってでも風月が来たときに顔を出すべきだったと後悔をする。
 ビニール袋をガサガサと鳴らして悔いる仕草をみせる騎隼にどーどーと宥め、本題はここからだと人差し指をたてる。

「なんでも風音くんをきっかけにセイショウ地方に訪れたらしく」
「風音のファンか」
「みたいですよぉ。追っかけとかではないけど、彼が語る故郷のお話に興味を持ったのだとか」
「……あいつ、アイドルとして褒められるの苦手だよなァ? 嬉しいんだけど恥ずかしいって」
「顔をまーっかにしてお布団に隠れちゃいますよねぇ」

 1人だけ名前があがらなかった風音。だからきっと風音を茶化すのに最高のネタなのだろうと察していたが、話を聞いてなるほどと納得をする。
 くるみと光緒も宅飲みに参加することになったしとくじら食堂へ向かう道中にあるコンビニで適当に酒を追加する。せっかく安く済ませるために酒屋まで行ったのに意味が無くなったと思わなくはないが、カルアという人間の話を聞いているうちに出費についてどうでもよくなってくる。

「夏休みに一人旅とはすごいなァ」
「あ、でも龍宮城に来てるときにポケモンを2匹連れていたので旅の仲間でもできたかもしれませんよぉ」
「え、昨日来て今日ポケモンを2匹ゲットしたってこと? トレーナーでもない女子高校生が?」
「まあ、私には及ばずともなかなかコミュ力高い子でしたし……あの風月ちゃんが気に入るくらいですよ?」
「あ、それは納得したわ。……にしてもよくその子が風月のお気に入りだと分かったな。声をかけたときは1人だったんだろ?」
「だってほら。風月ちゃんって可愛い癖字しているじゃないですかぁ」

 カルアが持つマップに記載されていたという文字。その字体で判断したというのか。くるみの観察眼は末恐ろしい。
 おお、怖い怖い。お前の前では悪巧みなんてできないなと大袈裟に身震いしてみせる。そんな騎隼を見てこてりと可愛らしく小首を傾げた。声にせずとも目だけでくるみが言いたいことは伝わった騎隼は先程のくるみと同じように舌を出して笑う。

「俺が悪巧みをしたらくるみは便乗する奴だったな」
「はい。だから私にバレても支障はないでしょう?」
「ごもっともー」

 2人は目を合わせ、けたけたと笑う。それから、さてどうやって風音を茶化してやるか。光緒は適当に便乗することだろうと作戦会議をする。風音が聞けば勘弁してくれと制止の声をあげるのだろつが、結局幼馴染の愛情表現として甘んじて受け止めてしまうのだろう。だから騎隼とくるみは調子に乗ってこういう悪戯を企むのだが……それに気付いていたらそもそもこんな事にはなっていない。
 くるみはそのようなことを考えながら騎隼との会話を弾ませ、ふと思い出す。

「……それにしてもカルアちゃんが連れていた子、どこかで見た気がしなくもないんですよねぇ」
「人の顔を覚えるのが得意なくるみが珍しく曖昧なことを言うな」
「うーん。心当たりはあるのですがしっくりこないというかなんというか……ま、いっか」

 必要あれば思い出すだろうと考えることをやめる。本当に気ままな奴だなあと騎隼が笑ったところでくじら食堂に到着する。2階の騎隼の自室に明かりが灯っていることから風音が既に来ていることが分かる。
 2人は顔を見合わせ、悪巧みをしていますとでも言う笑みをにんまりと浮かべる。

「さて、可愛い可愛い幼馴染と遊ぶかァ」
「酔わせて泣かせて程よくガス抜きさせましょうねぇ」


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