救助隊を頼るためにキトウタウンへ向かうことを決めたカルアたち。いざゆかんと張り切っていたが、今から向かうと到着は夜中になることが判明した。旅を始めて2日目で風呂無しの野宿は控えたく思った。しかし、星と月を引き連れてホテルを利用すれば痛い出費となる。悩んだ末、本日も海灯りに宿泊することにした。2日続けて、しかもポケモンを増やした状態でさすがに無料でという望みは抱いていなかった。残念ながらくるみは不在であったが、蜜柑が快く受け入れてくれた。ちなみに。

「え、支払いとか気にしなくていいよ。まだ旅始めたばかりでしょ、残しておきなよー」

 などと、朗らかな笑って言った。思わず耳を疑うカルアだったが、金銭でやりとりをする習慣をもたない星と月はあっさりとしていた。
 結局、蜜柑の言葉に甘えて泊まることにした。せめて食事くらいはコンビニで調達しようとしたカルアを見て「もう作ってあるからね!」と。どや顔で手料理を振る舞われたときには真顔を通り越して表情が無になった。カルアがいよいのこの古民家宿の経営を心配し始めたところで蜜柑は海の民であるくるみは別の仕事で収入を得て余ってるくらいだから気にしなくていいという説明を受けた。別の仕事というのは昼間のやつのことだろうかと水族館での出来事を思い出して納得した。
美味しい海鮮料理で腹を満たし、温泉で身体を解し、柔らかな布団を3つ並べて眠りにつく。そして、太陽が昇ると共に覚醒した星に起こされ身支度を始める。始発で行くにしても早い起床だったので持て余している時間でカルアは星と月の頭を借りてヘアアレンジをして遊び始めていた。そして。

「え、何これ。本当に海の中走ってるんだけど。は?」
「あっ、月ちゃん! あれ、水族館にいたやつ!」
「え、どこどこ」
「あそこだよ! えーっと、サニーゴ!」

 3人は始発で地下鉄に乗っていた。ミマイシティの駅から伸びる線路は海中トンネルに覆われている。トンネルはガラス張りになっており、海の中が一望できる。自然界を自由に生きる海のポケモンたち。人の手が加えられている龍宮城が完成された美とするならば、海中トンネルから見えるものは野生の美だろうか。窓にべったりと張り付いてサニーゴの群れに騒ぐ星と月の声をBGMにカルアは頬杖をついて景色を楽しむ。
 サニーゴの群れによって作られる珊瑚礁。その群れにひっそり忍び寄るヒドイデ。岩の上でのっぺりとくつろぐナマコブシ。その岩はカメテテのようで、にゅるりと動いた2本の手のような形をした身体を伸ばす。ごろりと落ちたナマコブシは身体を拳の形をした体内器官を吐き出す。バトルが始まるかと思いきやナマコブシの体内器官とカメテテの頭を使ってじゃんけんを始める。ゆったりゆったりと前に進むヤドンがじゃんけんに盛り上がる2匹にぶつかってひっくり返り、のそりのそりと手足をばたつかせている。

「宇宙に飛んだり、海の中走ったり……人間ってすごいよね」
「ねーっ。自然と全力で遊んでるって感じ!」
「遊ぶために技術が発展してるわけじゃないけどね」
「え、でも膨大な時間を費やして辿り着いた場所で最初に抱く感想が美しいでしょ。それからその場をめいいっぱい堪能してからさて本題に移ろうと仕事に取り組むじゃない」
「宇宙に来る人たちがそうだったねー」
「あー、うーん……否定できないかも」

 まるで人間は楽しむことに全力を尽くす遊び人とでも言いたげな言葉。2人からはそういう風に見えているんだとカルアは困ったように笑う。が、数秒後にはこれ以上にないくらい自分に適した表現だということに気付く。
 せっかくだからとスマホにセルカ棒を取り付けて海中トンネルを背景に3人で写真を撮る。これはなかなかいい写真と女子高校生たちの間で流行っているSNSに投稿しようとする。が、旅の途中にこれは無粋だろうとアプリを閉じる。

「あっ、真っ暗になっちゃった」
「海中から出たんだね」
「……なんか速くなってない?」
「海のポケモンを驚かせないようにゆっくり走ってたのかなあ」
「わざわざガラス張りのトンネルを作ったんだし、乗客が景色を見れるように遅いんだと思う」


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