海の景色から無機質なトンネルのものへ変わる。海のポケモンたちに刺激を与えないように車内の明かりは全て消されており、陽の光だけが明かりとなっていたのでトンネルの中に入った途端に周囲は真っ暗となる。間もなく明かりが点くので席に着いて待っていてほしいという内容の車内放送か流れ、窓へ身を乗り出していた星と月も席に着く。
宇宙で生まれ育った2人はこの程度の暗闇は苦にならなかったが、カルアは違う。明かりがないときなんて就寝時か停電時くらいだ。この僅かな時間の暗闇でさえ少し不安になる。明るくなるまでスマホのライトを点けようとする。そのとき「わあ!」と。歓喜の色に染まった少女の声が響いた。
「おねーちゃんたちきらきらしてる!」
「え?」
「ん?」
「……だあーっ?!」
「わわっ!びっくりしたあ」
「え、何。どうしたの」
その言葉にカルアは慌てて2人に目を向ける。少女の言う通り、星と月はきらきらとした粒子を身に纏って発光していた。昨晩は発光する様子がなかったから油断していたとカルアは声をあげて立ち上がる。その拍子に手にしていたスマホは軽い音をたてて床に落ちた。その反応に月は首を傾げて「カルアが寝たから電気消したわよ」と。不思議そうにしながらカルアが落としたスマホを拾う。
お礼を言ってスマホを受け取る。そのタイミングで車内の明かりが全て点いたのでスマホの画面が割れていないか確認しながら前髪と後ろ髪をそれぞれ綺麗に切り揃えた漆黒の少女に目を向ける。星と月を見つめる黒の瞳をらんらんに輝かせている。まるで新しいおもちゃを見つけた子どものような表情。カルアが声をかける前に少女は空席となっているカルアの隣に座る。
「お星さまがきらきらしてるみたいできれーね!」
「えへへ、ありがとーっ」
「ねえねえ。どーしてきらきらきてるの? もしかして天使さま?」
「んーん。普通のポケモンだよ。ただ、宇宙にいたからね。暗い場所だと発光しちゃうの」
「うちゅー?」
エナメル素材で作られた黒色のローファーとレースの靴下が可愛らしい小さな足をぷらぷらと揺らしながら少女は次々と質問する。精神年齢が近いのか、波長が合うのか。少女と同じような調子で星は正直に答える。
宇宙。この単語に少女はこてりと小首を傾げる。それは聞き慣れない言葉を繰り返す幼い子どものような仕草であった。しかし、カルアには少女が目を光らせたように見えた。まさか、こんな子どもが獲物を見つけた肉食ポケモンのように目をぎらつかせたなんて見間違いだろうと頭を小さく振る。
「お嬢さん。お名前はなんて言うのかな」
「シオンちゃんはシオンちゃんっていうの!」
「可愛いお名前だね。パパかママはどこかな?」
「シオンちゃん、ひとりだよ!」
「えー……」
始発で乗客は少ないとはいえ貸し切り状態ではない。星たちの出生を誰彼無しに聞かせるのはさすがに危険だと判断したカルアは会話に割り込むように少女に声をかける。自らをシオンちゃんと称した少女は天真爛漫な笑顔を浮かべて元気よく答える。そしてすぐにカルアから顔を逸らし、星と月に向き直る。興味は2人にしかないと宣言する態度。カルアは頬を引き攣らせる。仕方がないと溜め息を吐き、星と月の発言を気にかけながらシオンを観察する。
「シオンちゃんねー、お使いしに行くの! きらきらのおねーちゃんたちはどこに行くの?」
「私たちはね、キトウタウンに行くんだよ!」
「あ、でもキトウタウンには駅がないからロムシティで降りるんだってさ」
「キトウタウン……夏の儀は終わってるし、秋の儀にはまだ遠いし、なんでなんでー?」
「えっとねー」
130半ばくらいの背丈。肩幅も手足も細く、ぱっとみはそれよりも低く見えるが立ったときの頭の位置からしてそれくらいだろう。背丈だけで考えれば小学生低学年くらいだろうが、言動をみるともう少し幼く見える。が、それにしては違和感が拭いきれないのは何故だろう。カルアは眉間に皺を寄せて更に注視する。
シオンの身体と共に揺れる漆黒の黒髪。よくよく見ればウィッグであった。観察するために注視していなければ気付けないものだからもしかしたら医療用のものかもしれない。とすれば、この少女は何かしらの病を患っており、その影響で実年齢よりも身体が小さい可能性がある。その場合、事情を深く聞かれることが嫌で見た目相応に幼く振舞っているというのも有り得る。だから違和感が拭えないのだろうと仮説をたててカルアは自分に言い聞かせる。