星に返すようにシオンは背もたれから顔を出して両手を振る。少ない乗客がロムシティの駅で降り、地下鉄は再び走りだす。とすっと軽い音をたてて固い椅子に座り直したシオンは「ナギリ、盗み聞ぎはよくないよ」と。後ろの席に座る針金のように細長い体躯をしたモノクルがよく似合う男に声をかける。

「貴方の事をちいちゃい子と思っているわりに警戒していましたねぇ」
「ねっ。勘の鋭い子だったのかなぁ。たぶん、ウィッグにも気付いてたよ」
「女の勘というのは末恐ろしいものですからね」

 ケタケタと軽薄な笑い声をあげ、ナギリと呼ばれた男はシオンの隣に座る。にこにこと楽し気な笑みを浮かべているシオンの顔を見て、おや想像以上に愉快な思いをしたようだと目を丸めて見せる。それは何よりと歪な笑みを浮かべる。

「宇宙から来たポケモンか〜」
「興味を抱きましたぁ?」
「使い物にはならなさそうだけどね」
「というわりには好奇心が抑えられてないですよぉ」
「さすがのシオンちゃんでも宇宙は未知の世界だからね! 一度くらいいじってみたいなあって。レックウザは捕まえ損ねちゃったし……うん」

 少しの間悩むポーズをとる。数十秒ほどして両手をぱちんと叩いて無邪気な笑顔を浮かべる。その音に反応し、シオンの肩掛け鞄のポケットに収まっていたスマホが起動する。長方形のスマホの両端に雷マークの形をした青白いプラズマがぴょっこり生え、宙に浮く。裏側には楕円形の青い目と悪戯っ子の印象を与える口角があがった口が浮かんでくる。ぱっと点灯した画面には1人の少女がポーズを決めて「マスター、お呼びかなー?」と。待っていました! と言わんばかりに目を輝かせていた。

「ラット。適任者を選んで連絡しておいてくれる?」
「お任せロト〜!」
「あは、それ気に入ってるの?」
「うん。ロトミィモード、すっごく便利だもん。あの人間さんみたいに愛用してくれていたら情報も簡単に手に入るしね」

 手のひら1つ分長い袖を揺らしながら袖に隠れた手を画面をスライドさせるように動かす。それを合図に女子高校生が愛用しているSNSや高校のサイトなどインターネット上にあがっているものから検索履歴や写真などスマホに保存された情報まで。カルアのあらゆる情報がラットの周りに表示される。腕を組み、ふむふむと情報を読み込む仕草をとってから「なんて伝えればいい?」と。ロトムを彷彿させる笑みをにんまりと浮かべる。
 便利なアシスタント機能として幅広い世代に利用されるアプリ『ロトミィ』はシオンのポケモンであるラットをベースに作ったウイルスである。このアプリをインストールしてしまえばラットは自由に行き来できるようになるし、望めばいくらでも情報が手に入れられる。ネット社会が発展した現代でこれほどまでに恐ろしいものはないだろう。シオンとラットのやりとりを傍で見守っていたナギリはこのロトミィモードの恐ろしさを再認識してケラケラと笑う。

「宇宙から来たピッピとメテノをシオンちゃんの研究所にご招待して、かな」


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