「サイカタウンはーっと」
「おや、可愛らしいマップですね」
「船旅で出会った友人に作ってもらったんだーっと。あった、サイカタウン。んー、キトウタウンと逆方向かあ」
「キトウタウンにご用事でしたか」
「救助隊に用事があってね。それでー……って」
救助隊の言葉を耳にし、蜂蜜水に夢中となっていた星と月は途端に表情を暗くする。救助隊に保護してもらうという方法は2人にとって深刻な問題らしい。露骨な態度にカルアはこれは少し困ったと苦笑いをする。その空気を察した真朱も困った表情を浮かべる。
さて、どうしたものか。蜂蜜水で喉を潤して考える。話題を変えるために店内を見渡しているとタイミング良く白蜜が注文の品を乗せたトレーを運んできたのが目に入った。
「お待たせしました……って、うわ。何この空気」
「乙女心というのは複雑というやつだね」
「意味分かんないんだけど」
「白蜜くんには小難しい話だったかー」
「馬鹿にしてる? ていうか、そんな陰鬱とした顔で食べてほしくないんだけど」
「店員が客を選ばない。口が悪い子でごめんね。これでもお菓子作りの腕はいいから安心して食べてくださいね」
妙な空気を察した白蜜は嫌な顔を隠さない。できたてのスイーツたちをテーブルに並べたら早々と去りたいの一心で配膳するが、その途中で真朱に話題を振られて逃げ損なう。むすっとした表情を浮かべて「お客さんをナンパしてたって店長に言いつけるぞ」と。真朱の頭を叩き、首根っこを掴んで引きずろうとする。残念なことに彼は美少女という言葉が似合いそうな可愛らしい見た目を裏切らず非力なのだろう。真朱はぴくりともしなかった。その様子を一通り楽しんだ真朱はゆったりとした動作で立ち上がり「それでは楽しんでください」と。ひらりと手を振って白蜜と共にキッチンへ戻る。
真朱に返すようにひらひらと手を振ったカルアはさてとと並べられた3つのスイーツと釘付けとなって涎を垂らす2人に目を向ける。やっぱり見た目が可愛いスイーツは最強だと頬を緩めて両手を合わせる。2人もカルアの仕草を見て慌てて両手を合わせ、食前の挨拶を口にする。
「ふわっふわであまーい!」
ヒメグマの形をしたパンケーキ。可愛らしい見た目を崩すことに躊躇うが、意を決して星はフォークを手にする。ふっくらとした生地に沈むフォーク。刺さった生地はふるりとその身を揺らす。ボリュームがあるようですぐに腹を満たしそう。していて口の中で溶けるように生地がほぐれる。もう一口と蜂蜜にたっぷりと絡めて頬張る。これはいくらでも食べられそうと星は手を頬にあてて表情を蕩けさせる。
「おいひい!」
ピンクの肉球の模様がぺたぺたとついたスフレケーキ。これは何のポケモンの肉球だろう。ベアの繋がりでいくとキテルグマだろうか。そんなことを考えながらカルアはふわふわのスフレをスプーンで掬う。表面に蜂蜜レモンを塗られており、さっぱりとした甘さ。中にぎゅっと詰め込まれたチーズと合わせて食べるもよし、交互に食べるもよし。いろいろな楽しみ方があり、一口頬張る度に幸せになる。
「……!!」
ヒメグマ、クマシュン、ヌイコグマ。それぞれの焼き印が入った生カステラ。月は初めて見るポケモンをカルアに聞きながらしっとりとした生カステラを頬張る。生地に蜂蜜を練り込んでいるのだろう。もちもちとした食感は新鮮であり、月は大きな目を丸める。未知の食感を気に入った月はパンケーキの甘さに恍惚としている星の肩を叩き、「なあに?」と。顔を向ける星の口に生カステラを一口突っ込む。そのやりとりにカルアはなるほど月は共有したいタイプなのかと少し意外だと思う。
「ねえねえ、カルアちゃん。ミツハニー、アメタマ、アブリボンってポケモン?」
「うん、むしタイプのポケモンだよ。蜜を集めたり作ったりするポケモンみたい。蜂蜜売り場とかで見かけるよ」
「じゃあこのナントカ印っていうのは……蜂蜜が違うってことかな」
「かもね。私の予想だと白蜜って呼ばれてたあの男の子がミツハニーなんじゃないかな。だから作るお菓子のほとんどに蜂蜜が入ってるとか」
「じゃああっちの赤い髪の人は?」
「え? んー、蜜関連で赤いポケモンといえばオドリドリとかもたまに見かけるけど……」
カルアはふっくらパンケーキを頬張りながら、愛読している雑誌に食べる美容液として取り上げられていた蜂蜜の特集を思い出す。利き蜂蜜とか面白いかもしれないと意識して味わってみようと生カステラをつつく。なんとなく甘みが違うかもということしか分からず、これは蜂蜜を直接舐めないとはっきりとした違いは感じないかと早々に諦めてスイーツを舌の上で転がす。
種族が話題になって真朱をチラ見し、レジカウンターに蜂蜜瓶が並んでいたことに気付く。カルアはお土産にいいかもしれないと考え、通知が鳴ったスマホを手にする。内容を読み、お礼の一文と共に手土産に蜂蜜を買っていくことを添えてメッセージを送信する。カルアはスイーツを頬張って幸せそうな表情を浮かべる2人に迎えが近くまで来ていることを伝えようとする。しかし、数分前のやりとりを思い出して口を閉ざす。キトウタウンに向かう理由を話題に出しただけで沈んだ表情を浮かべたのだから思い出させるのも無粋というものだろう。
「花畑に行けば分かるかも。あとで行ってみようか」