「……ども」
「こら、白蜜くん。お客さん相手にそんな態度とらない」
「いった! 客の前で暴力はいいのかよ!」
「いらっしゃいませー。3名様でよろしいですか?」
「おい、無視するな」
1人の青年がカウンター席で頬杖をついて座っていた。ドアベルの音で来客に気付いた青年は蜂蜜を垂らしたようなとろりとした黄金色の髪を耳にかけ、ちらりと扉の方に目を向ける。3人の来客者を確認すると面倒臭そうに溜め息を吐き、小さく頭を下げる。その対応と可愛らしいエプロンを身に着けていることから白蜜くんと呼ばれるこの青年は店員なのだろう。接客の態度にはいろいろ問題ありそうだけどと苦笑いを浮かべながらカルアは店内を見渡す。オレンジっぽい温かみのある照明。つるりと肌触りの良さそうなテーブルとチェア。あちらこちらにと置かれているむしポケモンのぬいぐるみや模型が可愛らしい。この時間は空いているのか、それとももともと客足が少ないのか。客は窓の外に飾られた花壇に集まるミツハニーだけだった。
落ち着く空間にほっと一息ついていると、少し黒みのある赤い髪を垂れないように簪でまとめた青年に席を案内される。ロムシティの中心に広がる湖を一望できる窓際の席。外を見れば小鳥ポケモンたちが枝の上で並び、愛らしい鳴き声をあげてしている。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい! ミツハニー印のパンケーキをお願いします!」
「ちょっと、星。さっき分かってるって言ってたのに」
「はっ。おいしそうな匂いについ!」
「じゃあ私はアメタマ印のスフレケーキで。月はどうする?」
「え、私は……」
赤い髪の青年はトレーに載せた3人分のお冷をテーブルに並べる。ガラスのコップに入った大きな氷がからりと音を鳴らす。音1つで涼しくなった気分になるのだから不思議だ。月がぼんやりとコップを眺めていると、星はぴんっと指先まで伸ばして声高々に注文する。それを遮るように月は星を小突く。数分前の会話を思い出せと目で訴える。それを読み取った星は慌てた表情を浮かべ、両手で口を隠す。しかし、そのような仕草をしてみせたところで時すでに遅し。頬杖をついてにこにこと笑うカルアに注文を促される。月は自分の分は頼まなくても大丈夫だと首を横に振ろうとするが、そうはさせないとカルアに先手を打たれる。
「月も頼んでくれるとシェアできるものが増えるんだけどなあ」
「しぇ、しぇあ?」
「みんなで分けて食べるってこと。そしたらほら、いろんなものを食べれるでしょ?」
「う……じゃあ、その、アブリボン印の生カステラで」
「かしこまりました」
カルアに迷惑をかけないように誘惑に負けないぞと意を固くしていた月は見事に言いくるめられた。むぐむぐと口籠らせた月はメニューをチラ見する。そして観念して気になっていたものを注文する。カルアと星はにんまりと勝ち誇った笑みを浮かべ、ハイタッチをする。仲睦まじい3人のやり取りに赤い髪の青年は蕾が綻ぶような柔らかい笑顔を浮かべて注文を伝えるためキッチンへ戻る。
恥ずかしさに頬を赤らめた月は「その笑顔腹立つからやめて」と。星の脇腹を突くいて火照った顔を冷ますように出されたお冷を一気に飲む。つられてカルアと星も喉を潤すために口をつける。ただの冷たい水だと思っていたそれはとても甘かった。とろりとした甘みが口腔内に広がり、こくりと嚥下すれば全身に染み渡る。けれどもその甘さはしつこいものではない。後味はフルーティな爽やかさである。3人は驚いたように目を丸め、目を合わせる。
「このお水、甘い……?」
「冷たくておいしい〜」
「これは……蜂蜜水? けど、それだけじゃないような」
「花畑で採れた新鮮な木の実を漬け込んでいるのですよ」
「花畑?」
「ロムシティとサイカタウンを結ぶ道路に大きな花畑がありましてね。あそこで咲く花々はもちろんのこと、木の実も瑞々しくてとっても美味しいのですよ」
ひょっこりと赤い髪の青年が顔を出す。きょとりとした顔で首を傾げるカルアに「俺は店長代理の真朱といいます。お客さんとお喋りするのが趣味なんですよ」と。名札を見せながら自己紹介をしながら真朱は空いている席からチェアを持ってくる。なんて人懐っこいポケモンだろうと思いながらもカルアは美形と歓談できる機会は極力逃したくないので快く受け入れる。この場合、美形な彼氏が欲しいので出会いを逃したくないという意味ではなく、目の保養をという意味でだ。
真朱と話に花を咲かせ、初めて聞いた地名を聞いたカルアはマップを広げる。話からすると隣接する町なのだろうとロムシティからなぞるようにサイカタウンの文字を探し始める。