蜂蜜たっぷりのスイーツを食べ終え、はにぃべあを後にする。最後の最後まで店員としていかがなものかと思う白蜜の無愛想な態度は帰り際のカルアたちの一言。どれもこれもとっても美味しくて幸せでした、ごちそうさま。という言葉で変わった。目を丸めて耳を赤くし、しばらく目を泳がせた後「ありがとうございました」と。小さな声でお礼を口にして小さく頭を下げた。初々しい様子が可愛らしく、カルアは胸をくすぐられた。いわゆるギャップ萌え。後ろでにこにこと笑みを浮かべている真朱を見て、なるほどこういうところを売りにしているのかと納得する。そんな形で締め括ったおやつの時間。カルアは通知が鳴りやまないスマホをリュックに入れてキトウタウンとは逆方向の道を進む。そして数十分後に軽率な行動をとったことを少しばかり後悔した。
「時代遅れで田舎臭い花畑に行っても退屈するだけだからさ、俺たちと遊ぼうよ」
「しつこい」
「まあまあ、そんなこと言わず。ほら、君なら分かるだろ?男は冷たくあしらわれるほど煽られるってね」
「そこまで言うならアンタも分かってるよね。女はそういうナンパを心底うざったいと思ってるって」
「それもそうだね」
ロムシティが見えなくなってきた頃、カルアたちは2人の男に声をかけられた。人気のない場所に来るのを待っていましたと言わんばかりのタイミングで男たちは近寄り、逃げられないようにと両端から3人を挟み声をかける。これはロムシティにいる時点で目をつけられていたかと舌打ちをする。当然、星と月はこのような状況に慣れておらず困惑した表情を浮かべていた。
「へえ、星ちゃんと月ちゃんって言うんだ。両親は天体観測とか趣味なの?」
「えっと、天体観測が好きというか、なんというかその」
「種族柄関わりが深いからね」
「あー、なるほど。メテノは流れ星に見間違えられるらしいし、ピッピは満月の夜に元気になるって言うしな」
「そ、そうなの!」
カルアは肩や腰に手を回そうとする馴れ馴れしい男を突っぱねながら2人を心配する。ちらりと様子を窺えば困惑の色は残っているが、次第に会話に花を咲かせていた。人懐っこいことは良いことだ。けれど、警戒心というものを教えてなければと危機感を覚える。
「で、きみの名前は?」
「……」
「あはは。本当にガードが固いなあ」
「見るからに怪しい男に名前を教えると思う?」
「おっと、それは酷い。人もポケモンも見た目で差別してはいけないんだよ。種族柄こういう容姿をしていることが多いんだから。まあ、俺も彼も派手な方だと自覚しているけれど……あの2匹もそれなりに目立つだろう?」
男は黒い瞳を隠すように目を細めて笑みを浮かべる。出会いがこうでなければ蔓を伸ばすように引かれた緑のアイラインについてあれこれ熱を入れて話したかったのに非常に残念だと溜め息を吐く。そこでふと、疑問に思う。カルアは確かに男2人を派手な見た目をしたポケモンと認識している。しかし、それはカルアに絡む男は京藤色の長い髪に薄紅藤色のインナーカラーが入っているとか。星と月を笑わせている男の髪が紺碧色をしているからとかそんな一部分で派手と認識したわけではない。人間の地毛ではめっなにないであろう派手な髪色をした人なんてポケモンが人の姿をして大通りを闊歩するこの時代では毎日のように見かける。それに、ポケモンカラーに髪を染めよう! というヘアーカラーリング剤のCMも流れてるくらい人間の髪色だって大概カラフルなものだ。カルアだって今はプラチナブロンドに染められたその髪にカラフルなインナーカラーをいれたことだってある。そんなカルアが今更髪やら瞳の色で派手だと思うわけがない。2人を派手で怪しいと感じた理由は他のところにある。例えばカルアに絡む藤の男。緑に溢れるこの道路に似つかわしくない白いスーツ。蔓を伸ばすように引かれた緑のアイラインとその先に散らすように描かれたピンクの小花という真夏の空の下には向かないアイメイク。これ以上にないくらい浮いていた。
そして行動を共にしている紺碧の男。彼は結膜の色が黒く染まっていることからポケモンであると捉えた。いくらカラコンで瞳の色を変えることができてもさすがに結膜の色までは変えられないからだ。目立つところはその結膜だけであり、ストリート系ファッションはまあこの場にいてもそこまで違和感がない。だが、白いスーツとストリート系ファッションという組み合わせはどこからどうみても怪しい。ここまで趣味の異なる男が一緒にナンパをするだろうか。女の趣味が被らないからやりやすいなんてこともあるだろうが……豊満な胸をもつ都会育ちの女子高校生という肩書きを持ち、ナンパはそれなりにされ慣れているカルアの直感が告げる。この2人は女の子と遊ぶ目的で声をかけているわけではないと。